オーストリアams OSRAMは2月20日、本国よりCEOであるAldo Kamper氏を招き、都内のams OSRAMのオフィスにて同社の事業戦略に関する説明会を開催したので、その内容をご紹介したい。

実は同社が記者説明会を開催するのは久しぶりというか、前回開催されたのは2021年の事である。ただ2023年4月にKamper氏が同社CEOに就任ams-OSRAMジャパンも翌2024年1月に針田靖久氏が代表取締役社長に就任するなど体制が変わっている。その2024年は同社にとってなかなか試練の年だった事もあって、まずは同社の状況の説明からスタートした。

  • ams-OSRAMジャパン 代表取締役社長 兼 日本地域統括VPの針田靖久氏

    Photo01:右が本社CEOであるAldo Kamper氏、左がams-OSRAMジャパン 代表取締役社長 兼 日本地域統括VPの針田靖久氏

基本的なams OSRAMの取り扱い製品がこちら(Photo02)、マーケットポジションがこちら(Photo03)。

  • ほとんどはLEDを含む光源とセンサー

    Photo02:ほとんどはLEDを含む光源とセンサーなのだが、これに絡むASICの製造なども手掛けている

  • 元々のamsが光センサー、OSRAMが光源の企業

    Photo03:元々のamsが光センサー、OSRAMが光源の企業であって、それもあって両社の合併で特に光関係は非常に強いポジションにあるとしている

そして2024年度の概要がこちら(Photo04)である。

  • 2021年にOSRAMと合併した当時は合計3万人前後の従業員が居た

    Photo04:2021年にOSRAMと合併した当時は合計3万人前後の従業員が居たから、大分リストラを敢行した模様

OSRAM部門も30%もの売り上げで、これは悪い数字ではない。売り上げの半分が車載関連であり、それもあって日本を含むAPACにおける売り上げが全社の半分を占める、というあたりが同社が日本を重視する理由だとしている。ちなみに拠点は全世界に広がっている(Photo05)。

  • 東南アジアは旧OSRAMの製造拠点が多数存在している

    Photo05:東南アジアは旧OSRAMの製造拠点が多数存在している。ちなみに日本はオフィスだけである

さて同社の分野別にみた主要なアプリケーションという事で自動車向け(Photo06)やIndustrial向け(Photo07)が紹介され、このうちRoboticsについては同社の製品が多数貢献できるとする(Photo08)。

  • 最近はどんどん車内のLED照明が増えてきている

    Photo06:最近はどんどん車内のLED照明が増えてきているとしており、また例えばヘッドライトを500×500pixelのLow Reso Matrix Displayとして使うなんていう事も可能になっているとする

  • Roboticsの分野での伸びが著しい

    Photo07:特にRoboticsの分野での伸びが著しいそうで、この分野に期待しているとの事

  • 別にこれを全部搭載したロボットがあるという訳ではない

    Photo08:別にこれを全部搭載したロボットがあるという訳ではなく、適用できる例という話である。ToFセンサーは安全対策である

またMobile/Wearable(Photo09)では、特にARの分野が期待できるとしている。

  • 拡張現実向けには同社のmicroLEDが期待できる

    Photo09:この拡張現実向けには同社のmicroLEDが期待できるとしている

最後が旧OSRAM由来の照明であるが、こちらも高機能照明など差別化を図りやすい製品群を提供しているとする(Photo10)。

  • 農業と園芸は、要するに作物の生育に適した波長の光を当てること

    Photo10:農業と園芸は、要するに作物の生育に適した波長の光を当てることで、育成期間の短縮とか作物の質の向上などを図るというもの。ここではLEDがメインであるが、LED以外の照明も含まれる

また医療機器向けにはX線スキャナとか内視鏡に利用できるサイズのカメラ、照明や生体センサーなどさまざまなものが用意されているとする(Photo11)。

  • バイタルサイン

    Photo11:バイタルサインからはちょっと外れるかもしれないが、例えばこれもそうした一例である

さてここまでは割と普通の記者説明会だったわけだが、ここからは一転して投資家向け的な内容になった。ちょっと先に書いておけば、2024年2月末に同社はmicroLEDビジネスに大きな変更があったことを表明している

これは顧客(ams OSRAMはもちろん明示していないが、Appleであるとされる)がmicroLED Displayを利用した新製品(次世代向けApple Watch)の開発を中止、従来と同じOLEDベースに切り替えることを受けてのものとされており、この結果同社の業績に大きなインパクトを与えた。

この2024年2月末における評価では、6~9億ユーロもの非現金減損費用が発生する見通しとなっている。なにしろこのために建設した工場がまるまる不要になってしまったそうであり、そりゃインパクトがあろうというものだ。この予期せぬ出来事(Kamper氏曰く「ショックを受けた」そうである)に対応するための財務的な取り組みというのがこちら(Photo12)である。

  • 最後の項目が何というか意味深である

    Photo12:最後の項目が何というか意味深である。顧客が先に費用を払ってくれていれば、プロジェクトが中止になってもこんな財務上のインパクトは受けなかっただろうからだ

具体的には、2024~2026年に掛けて毎年7500万ユーロずつコスト削減を行う計画に対し、2024年度には1億1000万ユーロほどの削減が実現したとする(Photo13)。

  • 毎年このペースで削減できるか? というと厳しいものはあるように思う

    Photo13:とはいえ毎年このペースで削減できるか? というと厳しいものはあるように思う

また製品ポートフォリオの転換も進んでおり、市況の低迷にも関わらず売り上げは確保できており(Photo14)、利益の方もなんとか確保できた(Photo15)とする。

  • 撤退する「非主力ポートフォリオ」とは何か?

    Photo14:この撤退する「非主力ポートフォリオ」とは何か? は説明されなかった

  • 一応売り上げの1割のR&D費用はきちんと確保できている

    Photo15:一応売り上げの1割のR&D費用はきちんと確保できており、「これにより競争力のある製品を提供し続けられる」(Kamper氏)との事

とはいえEBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)が16.8%、EBIT(利払・税引前利益)が7%と低めなのは、状況を鑑みて仕方ないというべきところか。ただFCFは2024年に黒字化を達成しており(Photo16)、このまま2025年度も改善に向けて取り組むとしている。

  • 心もとない額であることも事実ではある

    Photo16:とは言え心もとない額であることも事実ではある

長期的な目標としては、旧OSRAM系列のLED以外の照明に関しては売り上げはフラットとして、利益率を上げる方向で努力し、その一方で半導体に関しては6~10%の成長率を見込むとしている(Photo17)。

  • 2024年度の成長率は7%

    Photo17:2024年度の成長率は7%だったそうで、取り掛かりとしては順調と言える

製品別の売り上げ目標というか、見えているものがこちら(Photo18)であり、引き続き努力してゆくと締めくくった。

  • 中国の自動車市場がいつまで牽引力になるのかちょっと疑問ではある

    Photo18:ただ中国の自動車市場がいつまで牽引力になるのかちょっと疑問ではあるのだが

この後で針田靖久氏により、簡単に日本市場の動向の説明も行われた(Photo19)。

  • 日本市場に対する戦略

    Photo19:日本市場に対する戦略

冒頭にもちょっと触れられたが、日本市場は自動車向けの分野で大きな比率を占めており、実際売り上げの約半分は自動車向けだとする。ただそれ以外のセンサー類も次第に伸びているということで、今後はこうしたセンサーを軸にした自動車以外のニーズも掘り起こしてゆきたいという話であった。

ところで話が戻るが、同社の業績に大きなインパクトを与えたmicroLEDビジネスは、最終的にノンコアな半導体扱いされるのか? と思ったが、まだそのつもりはないとの事。もっとも実はKamper氏は旧OSRAM出身で、OSRAM時代にmicroLEDを手掛けている(OSRAM子会社のOSRAM Opto Semiconductorの社長を2010年~2018年に務めている)。その辺もあって、まだmicroLEDには期待を失っていないのかもしれない。実際ARグラスなどには非常に適したソリューションではあるからだ。ただし価格が高いのがどうしてもネックになりやすく、その価格に見合った高付加価値を提供する製品を見出すのが難しいのが課題である(ARグラスはまだ多少高くても許容されるが、今後安価になってゆく際にどこまでシェアを確保できるかは課題だろう)。今後どんな用途向けに製品が投入されてゆくか、楽しみである。