京都大学(京大)は2月14日、健康な女性の血漿(血液の液体成分)の分析により、月経痛(生理痛)の重症度を客観的に示すバイオマーカーを特定し、特に、アミノ酸群の「分岐鎖アミノ酸」(BCAA)と特定の「フォスファチジルイノシトール」(PI)という脂質の量比が、痛みの強さと関連していることを発見したと発表した。

また、指先からのわずかな血液の採取で、これらのバイオマーカーを測定することができることも併せて発表された。

  • 今回の研究のポイントと意義

    今回の研究のポイントと意義(出所:京大プレスリリースPDF)

同成果は、京大 医学研究科の杉浦悠毅特定准教授、ライオンの佐藤惇志マネージャーらの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

重度の生理痛、医学的に「月経困難症」と呼ばれる状態は、学校や仕事でのパフォーマンスを低下させ、日常生活全般にわたる活動に大きな支障をきたす。また、生理痛は痛みの程度を客観的に周囲に伝えられないことも大きな課題だ。それに加え、次の生理痛の強さを予測できないため、社会的な孤立感や精神的なストレスが増大してしまうリスクも存在する。さらに多くの女性は、生理痛が重症化していても、その痛みが“普通のこと”だと考え、適切な医療機関の受診を遅らせる傾向もあり、その結果、潜在的な子宮内膜症や子宮筋腫といった婦人科疾患の発見が遅れる可能性がある。これらの問題を解決するためには、生理痛に関する正しい情報の理解に加え、早期診断・治療を可能とする新たなヘルスケア習慣が不可欠とする。

これまでにも生理痛の重症度を判別するためのバイオマーカー研究は数多く実施されてきたが、痛みの個人差の重要性が認識されているにも関わらず、客観的な分子マーカーが確立されていないのが現状だ。また測定される代謝物の分類や、月経周期のさまざまな期間における検体採取のタイミングに一貫性がないため、確度の高いバイオマーカーの特定には至っていない状態だった。そこで研究チームは今回、血中(血漿)の代謝産物に着目し、生理痛の重症度を判定するバイオマーカーの探索を試みたという。

今回の研究では、健康な女性20名(平均年齢31歳)を生理痛の軽い群(12人)と重い群(8人)に分け、指先から採取した血漿のメタボローム解析が行われた。メタボローム解析では、質量分析装置を用いて、アミノ酸や脂質といった分子を網羅的に解析することが可能だ。メタボローム解析の結果、生理痛の重さに応じた有意な代謝変動が生じていることが確認された。中でも、アミノ酸などの親水性代謝物と、リン脂質などの脂質が生理痛の重症度の判別に寄与していることが突き止められた。さらに、BCAAと、特定のPIが有望なバイオマーカーであることが示唆されたとする。

さらに、これらの代謝産物による生理痛の重症度の判別精度を高めるため、代謝産物の比率を計算し、検証が行われた。すると、単独の代謝産物と比較して優れた判別精度を有することが突き止められた。またこれらの比率は、月経周期における3つの期間いずれにおいても、主観的な痛みの評価結果と正の相関を示し、月経周期に関係なく一貫して高い判別精度を示した。加えて、これらの比率は、同じ試験参加者における追加の月経周期2周期においても相関性を維持したことから、研究チームは、BCAAと特定のPIの量比は生理痛の重症度を判別するため、有効な指標であると考えたとする。

  • 研究成果のハイライト

    研究成果のハイライト(出所:京大プレスリリースPDF)

今回、参加者の指先から採取したわずかな量の血漿を用いたメタボローム解析法が確立された。月経周期における3つの期間を通した代謝産物を解析することで、生理痛の重症度を高い精度で判別できるバイオマーカーが発見された。従来は、“痛みの個人差”によって周囲の理解が得にくい状況があったが、客観的な数値に基づく評価ができれば無理な我慢をする必要がなくなる上に、周囲のサポートも得やすくなり、医療機関への受診や専門家からの適切な支援を受けるきっかけにもなることが考えられるとする。

また、生理が始まる前の時期に測定し、次の生理痛がどれほど強いかを予測できれば、鎮痛剤を事前に準備できるなど、予期せぬ強い生理痛に対する心の負担が軽減される。生理痛がひどい背景に疾患が隠れているケースもあるため、早期発見にもつながることも考えられるという。さらに、バイオマーカーを用いたヘルスケアアプローチが広まれば、個人個人の痛みや体調に合わせた対策がとりやすくなり、人々のQOL向上に貢献することが期待されるとしている。