東京大学(東大)は2月13日、卓越した安定性を持つ「超均一(ハイパーユニフォーム)不規則構造固体」(超均一ガラス)の生成に成功し、その基本的な性質を解明すると共に、「ジャミング転移」と「理想ガラス転移」に関する新たな知見を得たと発表した。

  • 超均一ガラス

    超均一ガラス(出所:東大RCAST Webサイト)

同成果は、東大 先端科学技術研究センター(RCAST) 高機能材料分野のワン・インチャオ特任研究員、同・田中肇シニアプログラムアドバイザー(特任研究員)/東大名誉教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

超均一系は、長距離スケールにおいて密度揺らぎのスペクトルがゼロに漸近するという特徴を持つ。そのため、長距離で揺らぎが増大する通常の液体やガラスとは性質が大きく異なる。超均一性は、結晶や準結晶などの秩序系では古くから知られていたが、近年ではプラズマ、ポリマー、生物学的構造、コロイド懸濁液、高充填粉体系などの不規則系にも広く存在することがわかってきた。これらの不規則超均一系は、液体のような等方性と結晶のような密度揺らぎの抑制の双方を兼ね備えることから、等方性を持つフォトニックバンドギャップ材料など、応用上で優れた特性を示すことが知られていた。

超均一状態は、密度揺らぎのスペクトルにおける低波数領域でのスケーリング則によって、クラスI(α>1)、クラスII(α=1)、クラスIII(0<α<1)の3クラスに分類される。また超均一性は、ジャミング転移や吸収転移などの臨界現象や、系の状態を支配する物理量が保存量である場合、重力・静電的・流体力学的相互作用などの長距離相互作用系、協同的な座標最適化などの計算手法を通じて実現されることがわかっていた。なおジャミング転移とは、粒子や物体がランダムに詰め込まれた状態で、運動の自由度を失い固体のように振る舞う現象のことをいう。吸収転移とは、系の状態が特定の吸収状態へと遷移する現象のことだ。

そこで研究チームは今回、物理学や材料科学において重要な不規則な球の充填状態に焦点を当てたとのこと。以前の予想では、最も稠密な乱雑充填状態がクラスIIの超均一性を示すとされていたが、これまでの標準的なシミュレーションでは超均一性の検証に不可欠な十分に低い波数領域には到達できておらず、高波数領域に限定された検証に留まっていたとする。さらに、超均一性とジャミング転移の関係についても、低波数領域での超均一性を示すスケーリングからのズレが観察されるなど、依然として論争が続いていた。

そのような背景のもと、今回の研究では、ジャミング点を超える充填率で粒子サイズの変更とエネルギー最小化を反復することで、密度揺らぎを逐次的に最小化するアルゴリズムを開発。粒子が非常に密に詰め込まれ、自由に動くことができなくなった「過充填状態」にある超均一ガラス(HG)の生成を試みたという。

  • 超均一ガラス状態の密度分布とその形成過程

    超均一ガラス状態の密度分布とその形成過程。(a)初期ランダム充填状態。(b)新しいアルゴリズムによる反復処理後の超均一過充填ガラス状態。粒子は、局所的な充填率に基づいて色分けされている。(c)異なる反復回数における密度スペクトル。反復回数の増加に伴い低波数域の密度揺らぎが低下し、最終的に破線で表されたべき乗法則スケーリングが実現される(出所:東大RCAST Webサイト)

生成されたHGは、通常の過充填ガラス(CG)とは異なり、理想的なべき乗則スケーリングα=4を示すことが確かめられた。さらに、HGとCGを減圧により密度を低下させることで、それぞれの限界ジャミング状態に到達させたところ、密度の超均一性に対してはα≈0.25、粒子間接触数の超均一性に対してはα≈2という、両者に共通したべき乗則スケーリングが得られたとした。これは、ジャミング転移点での超均一性が、初期状態や経路に依存しないことを示唆するものだ。

  • 超均一ガラスの安定性

    超均一ガラスの安定性。(a)異なる冷却速度(gc)で得られた従来のガラスCG1、CG2、CG3、HGの振動モード番号に対する固有周波数(ゼロ周波数モードを除く)。(b)CG1、CG2、HGの熱容量の加熱過程における挙動。(c)HGにおけるせん断および逆せん断過程における応力-ひずみ曲線。対応する逆せん断ひずみは凡例に示されている。(d)HGのひび割れ直前の非アフィン変位の空間分布。ここでの非アフィン変位とは、物質の各部分が外力に対して単純な並進や回転ではなく、異なる局所的な動きを示す変位のこと。(e)HGのひび割れ直後の非アフィン変位の空間分布。局所的に変形が集中した明らかなシアバンドが形成され、あるせん断下で破壊が突然起きていること(脆性的破壊)がわかる(出所:東大RCAST Webサイト)

さらに、クラスIの理想的な超均一ガラスは、結晶のような優れた振動的、動力学的、熱力学的、機械的安定性を示すことが確認された。力学的振動スペクトルでは、通常のガラスで見られる力学的不安定性に起因した低周波の振動状態がほぼ完全に消失した。その結果、低周波数領域にギャップが特徴的に現れたという。

また、融解に伴う熱容量の変化は、結晶のような一次転移的な挙動を示したとする。特に、物質が非平衡状態にある場合の「擬似的な」温度である虚温度は、「Vogel-Fulcher-Tammann則」から推定される「Kauzmann温度」よりもかなり低い値を示すことも明らかにされた。さらに、高充填超均一ガラスのずり変形下の降伏転移は、不連続な一次的転移として特徴づけられ、降伏ひずみεY>0.1まで結晶で見られるような完全な可逆性が観察された。

今回は、この状態がシミュレーションにより人工的に生成されたが、今後はこのような状態をどのように実験的に実現するかが重要な課題になるという。今回の成果は、超均一な過充填状態に関する重要な洞察を提供するだけでなく、超均一性と超安定性を兼ね備えた特異なガラス状態の設計や、不規則構造を有するメタマテリアルの形成など、応用面においても多大な波及効果が期待されるとしている。