宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2023年に打ち上げたX線分光撮像衛星「XRISM」を使い、銀河団の中心部で「風」が吹いていることを発見したと、JAXAや東京都立大学、高エネルギー加速器研究機構らによる国際共同研究グループが発表。日本時間2月13日に、この観測成果に関する論文が英科学誌「Nature」に掲載された。
XRISMに搭載している軟X線分光装置「Resolve」(リゾルブ)を使い、銀河団としては“地球にかなり近い”約1億光年の距離にある「ケンタウルス座銀河団」の中心部(コア)の光の波長を精密分光観測。銀河団中心部のガスの速度を精密に測定した結果、中心の銀河(NGC4696)に対して秒速130~310kmという速さの「風」が吹いているのを発見した。
この成果は、宇宙最大の天体である銀河団の成長が現在も続いていることを直接的に確認できたことを意味し、銀河団中心部のガスがなぜ安定に加熱されているのか、という問いに対する答えを与える可能性があるとしている。
XRISMの観測機器は、従来のX線天文衛星よりも十分な速度決定精度を持たせており、ドップラー効果を利用した詳細な測定が可能になったことで、今回の観測データが得られたという。今回の観測ポイントからは、この高温ガスの流れが地球のある方向に向かって流れているように見えるとのこと。
複数の銀河で構成される銀河団は、X線で見ると数千万~1億度の高温ガスで満たされていることが分かっている。中心部のガスはX線で明るく輝いているので、放射冷却によってX線がガスのエネルギーを持って行き、冷えていくはずだが、まんべんなく高温を保っていることが疑問とされてきた。また、中心にある20億太陽質量もの超巨大ブラックホールが近傍でエネルギーを放出し、周囲のガスを加熱しているとの説もあったが、どうやってガスの冷却を防ぎつつ安定して加熱しているのかは分かっていなかった。
今回の観測データから得られた測定結果として、高温ガスは全体として銀河団の中で静止しておらず、運動している(風が吹いている)ことが分かったほか、ガスの局所的な乱流運動の速度が小さく、ブラックホールの周辺で速度が増加していないことから、ブラックホールが直接ガスをかき回す効果は弱いと見られることも判明したという。
結論としては、銀河団の成長に伴い銀河団でガスが揺れており、渦巻いている可能性もあると考えられ、これは衝突合体による天体形成の証拠であると考察される。また、ブラックホールによる加熱が直接周囲のガスの運動に大きな影響を与えているわけではなく、ガスの加熱はブラックホールと全体運動(風)の共同作業によるものと考えられるとのこと。研究グループは今後、他の銀河団の観測・分析を進めるとしている。
【研究成果】XRISMの観測で、ケンタウルス座銀河団の中心部に高速で動く高温ガスの流れの存在を世界で初めて発見!
— XRISM (@XRISM_jp) February 13, 2025
詳しくはこちら👉 https://t.co/cCTIgA78yj #JAXA #銀河団 #X線 pic.twitter.com/wouKMg0bmw