東北大学は、従来方式の研磨を必要としない表面平滑化技術として、表面が粗い金(Au)めっき膜を平滑なAu薄膜に重ねる付加的な平滑化手法を新たに開発したと1月28日に発表。次世代電子デバイス実装に必要な、原子レベルの平滑な接合面を実現したという。
次世代小型電子デバイスの実装工程には、熱によるダメージや残留応力(材料や構造物の内部に外部からの力が加わっていない状態でも残る応力)を避けるため、低温での接合技術が求められる。
Auめっき膜を介した接合は、電気的接続や封止などに広く用いられているが、素子への負荷を軽減するために、接合プロセスの温度を可能な限り低く抑える必要がある。しかし一般に、接合面の平滑度が低いと隙間が生じやすくなり、密着性を上げるには高温や高圧力が必要という矛盾が生じる。
接合プロセス温度を低下させるには、接合面の平滑化技術が不可欠。特に熱に極めて弱い材料や、熱膨張係数差の大きな組合せの用途においては、接合温度を常温レベルまで下げる必要があり、その実現には原子レベルで平滑な接合面が求められる。これまでの技術では、除去加工である研磨を用いて接合面の平滑化を行っていたが、小さな面や複雑な形状を平滑化するのが難しいという課題があった。
今回の手法は、東北大学大学院工学研究科電子工学専攻の日暮栄治教授らと、産業技術総合研究所デバイス技術研究部門集積化MEMS研究グループの倉島優一研究グループ長らの研究グループ、関東化学株式会社の清水寿和副主席研究員らのグループが共同で開発したもの。
今回の研究では、表面活性化接合(アルゴンイオン等のイオン衝撃によって接合面の吸着層や酸化膜を除去し、固体表面が本来持っている凝着エネルギーを利用し、固体同士を常温ないし低温で接合する技術)と、テンプレートストリッピング技術(平滑なテンプレート上に堆積させた金属膜をテンプレートから剥離することで、テンプレート表面と同等に平滑な面を得る手法)のふたつを組み合わせ、粗いAuめっき膜に平滑なAu薄膜を転写。付加加工によって平滑化する新技術を開発した。
粗いAuめっき膜の表面に、Au薄膜を繰り返し転写すことで表面を平滑化できるのは、ポリイミド(プラスチックの一種で、耐熱性、耐化学性、機械的強度が非常に優れた高分子材料)製テンプレートのナノレベルの変形とAuの原子拡散に より、Auめっき膜の凹凸が吸収されるため。十分に平滑化されたAuめっき膜は、熱を加えなくても常温で強固な接合を達成できることを実証した。
また、平滑化したAuめっき膜にシリコン(Si)チップを常温接合した試料のせん断強度測定試験では、転写したAu薄膜から破断するわけではなく、Siチップが先に破壊されてしまうほど強固に常温接合されていることも分かったという。
この成果により、電子デバイスの製造プロセスに広く用いられるAuめっき膜の平滑化とその常温接合の応用を示したことで、将来の電子実装技術の発展に資すると期待されるとのこと。