工学院大学は1月21日、コアレスモータのトルク不足を補うための「ハルバッハ配列」の最適化に成功し、同大学発ベンチャーのマグネイチャーがそのモータの製造工程を確立したことで、1000回転~1万5000回転の全領域において効率95%以上を達成したモータ「MagNach」の量産化が可能になったことを発表した。

また、電気自動車(EV)にも搭載可能な出力64kW級のMagNachモータを開発し、効率95%以上に加え、超静音性も確認したことも併せて発表された。

  • 64kW級のMagNachモータ

    64kW級のMagNachモータ(出所:工学院大プレスリリースPDF)

同成果は、工学院大の森下明平名誉教授(研究当時)、マグネイチャーらの共同研究チームによるもの。

日本電機工業会(JEMA)によれば、世界全体の消費電力量のうち40~50%をモータによる電力消費が占めるという。モータは家庭内のエアコンや冷蔵庫から、鉄道や発電機、EVなど多様な機器に搭載されている。つまり、モータの効率を上げることができれば、消費電力量を大きく抑えられる上、同じ電力消費量であればより多くの仕事を果たすことになる。日本政府は2030年のモータシステム効率の目標値として85%を掲げており、その達成には、より高効率なモータ(モータそのものだけに限らずインバータなども含む)を開発し、旧式の効率の低いモータから置き換えていく必要があるだろう。

そうした中で2050年カーボンニュートラルの実現に向け、工学院大とマグネイチャーは共同で、ハルバッハ配列の応用研究はじめとする電磁力応用システム制御の分野で、エネルギー変換機器や電気機器の高効率・高品質化のための共同研究を実施してきたとのこと。そして今般、「一分一秒でも早く大気温度を1℃下げる」を目標とし、森下名誉教授が工学院大在籍中に完成させたハルバッハの最適配列を用いた高効率モータの開発を進めたという。

今回のモータの開発では、まず「コイルのコアレス化」が行われた。コイルのコアレス化とは、従来のモータには必須だったコア(コイルが巻かれている鉄心)を取り除く、ということで、これにより軽量化が実現される。また、コアレス化で鉄心の鉄損と「磁気飽和」による出力の限界がなくなることから、モータの高効率化を図れる。

ただしコアレス化によるデメリットもあり、トルクが細くなるという課題があったため、これまでのコアレスモータは、電子デバイスや模型などの小容量の製品向けとなっていた。このトルクが細くなるという問題を解決したのが“ハルバッハの最適配列”だ。なお、ハルバッハ配列とは、永久磁石を特定の方向に磁化させて配置することをいい、一方の面に強い磁場を集中させ、もう一方の面にはほとんど磁場が発生しないようにした構造のこと。これにより、「コギング」(特にモータの低回転時にギクシャクとした抵抗が生じる現象)や「トルクリップル」(モータが発生するトルクが回転中に周期的に変動する現象)を抑制し、振動騒音ロスをなくすことにも成功し、非常に高い静音性を実現できたという。その結果、1000回転~1万5000回転の全回転領域において、効率95%以上を達成し、制御レスポンスに優れる小型高効率モータの開発に成功したとする。

  • MagNachモータの効率マップ

    MagNachモータの効率マップ(出所:工学院大プレスリリースPDF)

  • MagNachモータの振動加速度マップ

    MagNachモータの振動加速度マップ(出所:工学院大プレスリリースPDF)

研究チームは今回の結果を受け、今後は電動バイクなどのミニカーEV用の5kW級と、大型ドローンなどの新たなモビリティ用の1kW級の開発を進めていくとのこと。そうしたモビリティ以外にも、小型軽量、高速回転、超低振動の特性を活かし、工作機械用スピンドルモータでの高精度化や、家電製品用コンプレッサによる静音化に加え、高性能発電機や医療機器への応用開発も予定しているとした。さらに、リニアモータや真空軸受など、磁気浮上技術や非接触給電技術への適用も期待できるとしている。

今回開発されたMagNachモータの仕様

  • 定格出力:64kW
  • サイズ:外径250mm×長さ230mm
  • 重量:60kg(水冷ジャケットを含む、界磁・電機子:16kg)
  • 定格線間電圧:420Vrms
  • 定格回転数:1万5000rpm
  • 定格電流:95Arms