東京大学(東大)と芝浦工業大学(芝浦工大)の両者は1月7日、エンジン車に対して航続距離の短さと充電時間の長さが課題とされる電気自動車(EV)について、埼玉県川越市をモデルとした数理最適化と詳細交通シミュレーションを実施し、約150kmの全道路長のうち、わずか2359m(約1.57%)の「走行中ワイヤレス給電システム」(DWPT)の路面への敷設と車両側への受電装置の取り付けにより、市内の全車両が無限に走行し続けられることを示したと共同で発表した。

また、交差点付近への設置が効果的でありつつも、交通量と一時停止時間、待ち行列長と敷設コストなど、さまざまなトレードオフを考慮しながら、丁寧に最適配置することが求められる点が示されたことも併せて発表された。

  • 走行中ワイヤレス給電システムによるEVの無限走行のイメージと、それを実現するための給電システムの最適配置のイメージ

    走行中ワイヤレス給電システムによるEVの無限走行のイメージ(左)と、それを実現するための走行中ワイヤレス給電システムの最適配置のイメージ(右)(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、東大 生産技術研究所(生研)の本間裕大准教授、同・大口敬教授、同・長谷川大輔特任助教(現・東大 連携研究機構 不動産イノベーション研究センター所属)、芝浦工大 工学部の畑勝裕准教授らに加え、米・アリゾナ州立大学の研究者らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国ワシントンD.C.にて1月9日まで開催中の、全米科学・工学・医学アカデミーの一部門である交通研究委員会による国際会議「TRB 2025 Annual Meeting」にてポスター発表が行われた。

現在のEVには液系リチウムイオン電池が搭載されているが、その性能の制約により、航続距離の短さと、15~20分と給油の数倍はかかる充電時間の長さが課題だ。バッテリーの搭載量を増やすことで航続距離を伸ばすことも可能だが、車重が増えて電費が悪化したり、車両価格も上がってしまうなどデメリットも多い。そこで考案されているのが、走行しながらワイヤレス給電を行うDWPTである。同技術は、道路に埋め込まれた送電コイルからEVの受電コイルに向けて直接電力を供給するため、基本的に充電スタンドが必要なくなる。さらに、航続距離に縛られることもなくなるので、多量のバッテリーを搭載しなくて済むようにもなる。

しかし、DWPTは車両側に受電コイルを搭載することに加え、道路内に送電コイルを埋め込む必要があり、インフラとして整備するには大規模な投資が必要となる。そのため、不必要な設置を避けなければならず、最も効果的な箇所に配置しなければならない。高速道路での最適配置箇所と経済性に関しては、2024年2月に東大 生研の本間准教授らが発表を行ったが、都市内の一般道においては、どこにどの程度敷設すればいいのかがまだ明確には示されていないことが課題となっていた。DWPTの市街地移動についての定量的分析に基づく最適配置戦略の提示が急務となっていたのである。そこで研究チームは今回、走行中にDWPTから受電するだけでEVが自由に航続し続けられる“無限走行”という究極のシナリオを想定し、市街地におけるDWPTの必要な敷設量とその最適配置を導出する数理モデルを提案したという。

今回の研究では、埼玉県川越市がモデルとされ、詳細交通シミュレーションに基づく実証分析が行われた。その結果、市内の方向別・道路長約150kmに対し、わずか1.6%の2359mにDWPTを敷設するだけで、EVの無限走行が実現できることが明らかにされた。

  • 全車両が無限に走行し続けられる走行中ワイヤレス給電の最適配置とその導出手法

    全車両が無限に走行し続けられる走行中ワイヤレス給電の最適配置とその導出手法(出所:共同プレスリリースPDF)

また分析の結果、市街地におけるDWPTは、車両が信号によって停止したり減速したりする交差点付近に敷設することが最も効果的であることが示されたという。それと同時に、その具体的な箇所や敷設長については、緻密な配置戦略が求められることも突き止められた。これは、EVへの給電効率が、交通量や信号パターンに伴う加減速に大きく影響を受けるためであり、交通量や一時停止時間、待ち行列長と敷設コストなど、複数のトレードオフ構造を勘案しながら、最適な配置戦略を導き出す重要性が提言されたとした。

  • DWPTの最適配置で重要となるトレードオフ構造

    DWPTの最適配置で重要となるトレードオフ構造(出所:共同プレスリリースPDF)

今回の計算結果は、まず市内の約150kmの道路全体を7mセグメントに分割した後、DWPTを設置するか否かの検討が行われた。2万1000以上の0-1変数からなる「離散最適化問題」(数理最適化)と、信号サイクルや待ち行列長、車両の加減速タイミングまで考慮された詳細交通シミュレーションの双方を活用することによって解析された。

DWPTの導入によってEVは無限に走り続けることが可能となるため、将来的な自動運転社会との親和性も期待されるという。研究チームは、DWPTが低炭素社会の実現に向けた重要な鍵となると確信しており、今後のさらなる発展と普及に向けた取り組みを続けていくとしている。