三菱重工グループの冷熱事業を独立させた専業メーカーの三菱重工サーマルシステムズ(MTH)は11月27日、製造拠点のひとつである神戸製作所で新たに稼働開始したサーマル第一工場を報道関係者に公開した。
三菱重工が手がける冷熱製品とはなにか
MTHは冷熱技術をコアに、業務用から住宅用空調機、温水ヒートポンプ、ターボ冷凍機、空気熱源給湯器、カーエアコンなどの空調や冷熱製品を取り扱い、幅広いラインナップで多様化するニーズに対応する高効率な製品とソリューションを提供している。冷熱技術を使った地球環境の課題に取り組み、「世界を熱で過ごしやすく。」を経営理念に掲げる。
国内は枇杷島製作所(愛知・清須市)と神戸製作所(兵庫・神戸市)にふたつの製造拠点がある。後者は高砂製作所(兵庫県高砂市)にあった機能を、2016年10月のMTH設立にあわせて和田岬の神戸造船所内に移転。熱源機器および冷熱プラントを手掛ける大型冷凍機事業の拠点となっている。
冷熱製品は、地球温暖化や脱炭素といった社会課題解決につながる省エネ技術が期待されており、キーテクノロジーとなる冷熱技術は日本が世界をリードしている。人口増加と経済発展に伴う中間層の拡大や都市化が進み、新興国を中心に需要が伸び、ヒートポンプが化石燃料を使用する燃焼式ボイラの代替として各国で補助金が出されるといった動きもあり、冷熱製品全体の世界市場規模は約20兆円になることが見込まれている。
MTHも売上収益は伸びており、2023年度売上高は3,481億円とグループ時代の2012年度対比で2倍以上に成長している。国内と海外の売上比は全体では3対7だが、ターボ冷凍機は逆に7対3となっている。2024年4月に就任した伊藤喜啓社長はタイで生産を行う合弁企業の社長を勤めた経験があり、国内での生産体制拡大とあわせて海外需要への対応にも力を入れていくことが考えられる。
生産からメンテまで新工場に集約、生産能力は1.5倍に
MTHのターボ冷凍機は、省エネ効果と脱炭素機能、アフターケアの高さで国内シェアトップの約70%を誇る。オフィスビルやショッピングモール、工場、快適な環境にする空調と地域冷暖房の用途に使われ、麻布台ヒルズ、みなとみらいエリア、シンガポールのマリーナベイなど海外でも利用されている。さらに最近は産業用途として、半導体工場やデータセンターでの引き合いが伸びているという。
今後の事業拡大に向けて設立され、9月から稼働開始した新工場の敷地面積は17,000平方メートルと、サッカーコート2.5面分に相当する。小型から大型まで、幅広いラインナップのターボ冷凍機の組立や部品管理、検査、試運転、アフターサービスとしてメンテナンスまで、すべてひとつの工場内で行うことで生産能力を約50%向上させている。MTH全体の従業員数は約1,000人で、神戸製作所の社員は約200人となっている。
今回は新工場で行われているターボ冷凍機の製造現場や実機による運転デモンストレーションなどとあわせて、再生可能エネルギーのひとつである地中熱を活用した「帯水層蓄熱システム」と「ヒートポンプ」の実機が紹介された。操業開始からまもなく120年を迎える神戸造船所の敷地内では潜水艦なども製造されていて取材が制限されていることから、今回の公開は貴重な機会だといえる。
見学前に行われた説明会で伊藤氏は、「あまり公開されていない冷熱製品の生産現場と実機を見る機会を設けることで、世界の様々なニーズや社会課題への対応について知ってもらいたい」とコメントした。
1台あたり500もの製作工程、そのほとんどが手作業
ターボ冷凍機の仕組みをあらためて説明すると、電気で冷水(温水)をつくる機械で、たとえば建物の冷房に使用する場合、7度の冷水を空調機に送り込んで冷やす。MTHの製品は、年間消費電力と年間CO2排出量をいずれも約64%削減し、熱源設備全体を最適に制御するシステムも開発。低GWP冷媒を採用した製品は、令和6年度気候変動アクション環境大臣賞を受賞している。
今回公開された大型ターボ冷凍機の生産工程は、圧縮機組立、熱交換器の組立、ユニット組立、工場試運転の大きく4つある。たとえば、熱交換器は凝縮器と蒸発器でふたつあり、その中に冷媒と水の熱交換を行うチューブを複数挿入して拡管する工程は手作業で行われる。
他にも溶接やろう付け、さらに各工程で試験をしてから次に進むため、全体の作業数は500にものぼる。また、仕上げまでの要望にあわせて塗装や仕上げなどもカスタマイズするため、1台あたりの製造日数は土日も含めて約1.5カ月かかるという。そこで生産性を高めるために、作業指示や品質記録を紙から電子化し、現場での入力にタブレットを使用するなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。
製造した製品はすべて出荷前に工場内で試運転を行い、依頼主も来所して一緒に仕上がりを確認する。性能計測、動作確認、計測値評価の3項目を、目視以外にセンサーでモニタに可視化する。データはサーバーに自動保存され、今後の生産にも活かされる。
地下水利用のエコな空調システムも実装
MTHでは、地下水を多く含む地層(帯水層)を、ヒートポンプ型ターボ冷凍機につながる蓄熱槽の代わりとして活用する「帯水層蓄熱システム」を開発しており、新工場でも導入しているところが公開された。地下水の温度差エネルギーを有効利用できる仕組みとして、オランダでは1990年代から利用されており、国内では大阪公立大学が研究に取り組んでいる。
MTHのシステムは同社の最適制御を用いているのが特徴で、年間にして30%の電力量とCO2排出量を削減する効果がある。2025年4月に開催される大阪・関西万博でもこのシステムが採用される予定だ。先日、中部地方で初の社会実装となる大規模帯水層蓄熱システムも受注しており、国内での導入実績は、実証試験と社会実装で合計5カ所目となっている。
地熱利用に比べて設置しやすく、地下水を直接使わないため地盤沈下や水質汚染の問題もない。平坦で利用できる帯水層があれば設置は難しくないことから、利用効果が明確になればこれから導入が増えるかもしれない。
【お詫びと訂正】初出時、三菱重工サーマルシステムズにおける2023年度の国内/海外の売上比など、記述の一部に誤りがございました。お詫びして訂正します(12月6日 9:00) |