豊田中央研究所は11月27日、パワー半導体材料となるSiC(炭化ケイ素)の結晶生成を行う黒鉛ルツボの劣化を抑制する炭化タンタルの厚膜コーティング技術「SinTaC」を開発したことを発表した。

黒鉛ルツボの再利用を可能にするコーティング技術「SinTaC」

SiCの製造プロセスにおいては、高価な黒鉛ルツボを用いて目的の場所に単結晶を生成・成長させる。この際、2000℃以上の高温に加熱されるとともに、発生するガスによって黒鉛ルツボが腐食し劣化するうえ、黒鉛ルツボの内面にSiC結晶が固着してしまうため、黒鉛ルツボの使用は1度限りで廃棄されていたという。

今回豊田中央研究所は、黒鉛ルツボ全体にSinTaCの厚膜コーティングを施すことで、耐腐食性が向上することを確認したとのこと。また黒鉛ルツボの内面に追加処理を施すことで、SiCが付着してもはがれやすくなり、固着を抑制する効果も併せて確認したとする。

  • ルツボによりSiC結晶生成の概要とSinTac有無によるSiC結晶固着の比較

    (左)ルツボによりSiC結晶生成の概要。(中央)従来法の場合、目的の場所以外にもSiC結晶が固着する。(右)SinTacコーティング+表面加工により、目的の場所以外のSiC結晶固着が抑制される(出所:豊田中央研究所)

なおこれらの効果の実現には、膜厚が薄いと黒鉛ルツボ加熱時にひび割れが生じる場合がある炭化タンタルのコーティングについて、均質な厚さでの膜形成が必要となる。そこでスラリー材料設計により、炭化タンタルの均質かつ厚膜化を実現する最適な条件を見出し、SinTaCとして実現したという。

豊田中央研究所によると、SinTaCの厚膜コーティングに表面粗さを低減する処理を追加することで、目的の場所以外へのSiCの固着を抑えることが可能になったとのこと。その結果、黒鉛ルツボの再使用が可能となり、SiC製造コストだけでなく環境負荷低減にも貢献することが期待されるとしている。