三菱電機は10月24日、人・モノの識別や行動把握を高精度に実現するサーマルダイオード赤外線センサ「MelDIR(メルダー)」の新製品として、広画角化により既存製品の2倍以上の検知面積を実現した「MIR8060C1」を開発し、2025年1月6日より発売することを発表した。

  • サーマルダイオード赤外線センサ「MelDIR」新製品

    三菱電機が発表したサーマルダイオード赤外線センサ「MelDIR」新製品

同発表に際し三菱電機は、新製品に関する記者説明会を開催。センシングのデモンストレーションなどを通じ、その強みや対象市場などについて説明した。

性能とコストの両面が求められる赤外線センサ市場

IoT技術の普及が急速に進む近年では、それに伴いセンサの市場が拡大しており、さまざまな社会課題の解決に向けた新たな用途も続々と登場している。その中の1つである赤外線センサは、温度の測定が可能なため非接触体温計などに用いられているほか、暗闇や煙が充満した空間など見通しの悪い空間でも検知ができ、外乱光の影響も受けにくいことから、多くの用途に用いられているとのこと。またプライバシーを守った状態での検知が可能なため、高齢者の行動や夜間のオフィスなどを見守るセンサとしての利用も期待されている。

しかし現在広く用いられている赤外線センサでは、画素数の低さや視野角の狭さから得られる情報量が少ないことが課題に。しかし、より多くの情報を取得する赤外線カメラでは価格も桁違いに高いことから、安価ながら認識した熱源の識別や行動把握を行える赤外線センサの開発に対するニーズが大きいという。

そこで三菱電機は、人工衛星でも用いるという「サーマルダイオード構造」の採用による検知の精度向上や、シリコンダイオードおよびCMOSプロセスによる安定性向上・高画素化、そして独自開発のチップスケールパッケージ技術による小型化・高感度化を実現した赤外線センサとして、MelDIR最初の製品「MIR8032A1」を2019年に発表。その後は80×60への高画素化、さらには検知可能温度範囲の拡大など、新たな機能を追加したシリーズ新製品を提供してきた。なおMelDIRはこれまで数々の採用実績があり、三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」では、直感的な気流方向の調整操作や部屋全体の空調効率化に貢献する「ムーブアイ mirA.I.+」に搭載。その他にも、AIを活用した見守りサービスをはじめ幅広い用途に用いられてきたとする。

画素数を維持しつつ広画角化したMelDIRの新製品

そして今回は、空間内の見守りや姿勢検知を可能にする赤外線センサに対するニーズの高まりを受け、より広い視野角を実現した新製品を開発。熱画像の取得を不明瞭にする光入射成分を抑制できる新たな設計のレンズを開発するなど、光学系の改良を施すことで100°×73°という広い画角を実現したとのこと(従来品の画角は78°×53°)。また画素数については、既存製品(MIR8060B1)の水準を維持している点も強みだという。

  • 既存品と新製品での視野の比較

    既存品と新製品での視野の比較。既存品では捉えきれていない全身が新製品では検知されている

なお、新製品の開発を担った三菱電機 半導体・デバイス事業本部 高周波光デバイス製作所 赤外線センサデバイスプロジェクトグループの太田彰プロジェクトグループマネージャーは、一般的な家庭の天井高である2.4mの高さからの視野面積は、既存製品で約6畳だったのに対し新製品では約12畳と、ほぼ2倍まで拡大されるとする。また200坪のオフィス全体を見守る場合、2.6mの高さの天井から真下を観察する形式であれば、必要なセンサ数が半数以下となるため、導入コストの面でも価値を発揮するとした。

  • 200坪のオフィスでのセンサ必要数の比較

    200坪(22m×30m×2.6m)のオフィスにおけるセンサ必要数の比較(出所:三菱電機)

  • 三菱電機 半導体・デバイス事業本部 高周波光デバイス製作所の太田彰氏

    三菱電機 半導体・デバイス事業本部 高周波光デバイス製作所 赤外線センサデバイスプロジェクトグループの太田彰プロジェクトグループマネージャー

新製品で赤外線センサの新市場開拓を目指す

新製品の活用が想定される用途として、太田氏は、高齢者施設の見守りやスマートビルディングでの採用をはじめ、広範囲の空調管理や医療機関などでの姿勢・行動検知、さらには多目的トイレでのプライバシーに配慮した監視などを挙げ、「従来製品では実現できなかった検知が可能になるので、今回の発売を機にこれから市場を広げていきたい」とさらなる適用範囲拡大の可能性を示した。

なお、実際のセンシングシステム開発に際しては、デモキットや画像表示ソフトウェアなども提供するとのこと。さらにリファレンスデザインとして、ハードウェア・ソフトウェアの設計情報をはじめ、開発期間の短縮に貢献するサポートツールを用意しているといい、人検知や姿勢検知のアルゴリズムを作製するためのAIモデル作成ツールも提供予定だとしている。

  • MelDIRを搭載したデモキット

    MelDIRを搭載したデモキット(左は既存品、右は新製品の赤外線センサを搭載)

説明会に登壇した三菱電機 半導体・デバイス事業本部 半導体・デバイス第二事業部の盛田淳事業部長は、今後も拡大が予測される赤外線センサ市場について、「今後も製品ラインナップを拡充させることで、既存市場の拡大と新市場の開拓を目指す」とし、「プライバシーを守りながらも暗闇での検知まで実現するMelDIRの提供を通じて、安全で快適な暮らしの実現を追求したい」と語った。

  • 三菱電機 半導体・デバイス事業本部 半導体・デバイス第二事業部の盛田淳氏

    三菱電機 半導体・デバイス事業本部 半導体・デバイス第二事業部の盛田淳事業部長

  • デモンストレーションの様子

    説明会内で行われたデモンストレーションの様子。新製品での検知では、既存品では検知していない照明が映し出されるなど、視野角の広さが示された