宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月25日、現在、拡張ミッションで2031年の到着に向けて小惑星「1998 KY26」への航行を続けている小惑星探査機「はやぶさ2」が、その途中の2026年7月にフライバイ観測を実施する計画の小惑星「(確定番号98943)仮符号2001 CC21」の名称を、「Torifune(トリフネ)」に決定し、国際天文学連合(IAU)の審査を経て正式に公表されたことを発表した。
今回のトリフネの名は、2023年12月6日から2024年5月9日まで実施された、「2001 CC21 命名キャンペーン」に応募された名称の中から、9名の小中学生で構成される「子ども選定委員」の協力を得て選定された。本来、小惑星などの天体は発見者に命名権があるため、地球に接近する天体の観測を行っている米国のLINEARチーム(イトカワとリュウグウも発見したチーム)に権利があるが、譲った形となる。トリフネの名はLINEARチームがIAUへの提案を行い、審査を経て、IAUの小天体の名称を決定しているグループ「Working Group Small Bodies Nomenclature(WGSBN)」が2024年9月20日に発行した「WGSBN Bulletin, Volume 4, #13」にて正式に公表された。なお、「WGSBN Bulletin, Volume 4, #13」に掲載された文章の日本語訳は以下の通り。
(98943) Torifune = 2001 CC21 Discovery: 2001-02-03 / LINEAR / Socorro / 704
「トリフネ(天鳥船、あめのとりふね、より)は、日本神話における神である。同時に神が乗る船の名前でもあり、鳥のように速く、岩のように安定して安全に航行できる船である。『はやぶさ2』探査機は、この小惑星のフライバイ探査を行う予定であるが、この名称は、『はやぶさ2』が高速でこの小惑星とすれ違う運用を安全に行うことができるよう願って付けられたものである。」
以上の文章の内容は、9名の子ども選定委員が議論した上で決定されたものだという。2001 CC21のような地球接近小惑星は、神話から名称を選んで欲しいというIAUからの要望もあることから、活発な議論の結果、トリフネが選ばれたとした(IAUの要望は絶対ではないため、初代「はやぶさ」が探査した「イトカワ」は、日本のロケット開発や宇宙開発の父と呼ばれる糸川英夫博士にちなんでいる)。
なお、惑星のような大きな天体に対するフライバイ観測とは異なり、小惑星へのそれは観測対象が小さいためにそれだけ近傍を通過する必要がある。当然ながら、その分、衝突などの危険性も高まる(トリフネ本体に衝突せずとも、周囲に衛星がある可能性もある)。トリフネは、およそ500m(440~700m)の細長い形状と見積もられており(京都大学の有松亘特定助教らが2024年8月に発表した、新開発の技術を用いたデータ解析では、長径約840m・短径約310mの細長い形状と推定された)、その近くを秒速約5km、時速に直せば約1万8000kmで通過することになる。はやぶさ2#(はやぶさ2拡張ミッション)チームは、この危険極まりない高速度でトリフネの至近を通過してフライバイ観測を行うことをよく理解した選定としている。
なお、今回の命名キャンペーンで、5名以上が提案した名称は60個ほどあったそうで、子ども選定委員はその60個を検討し、「とりふね」または「あめのとりふね」を提案した人は10名いたとした。
はやぶさ2#チームは、トリフネへのフライバイ観測に向け、今後も準備を進めていくとしている。