登場から30年以上が経過したWebブラウザ、今や私たちの日常生活や仕事に欠かせないツールとなっています。エンターテインメント、業務、ソーシャルメディアなど、その用途は多岐にわたり、頻繁に利用されるアプリケーションの一つとなっています。しかし、この便利なツールが企業にとって重大なセキュリティリスクをもたらす可能性があることは、あまり認識されていません。

一般的なブラウザがもたらすセキュリティリスク

GoogleのChrome、MicrosoftのEdge、AppleのSafariなど、多くの人々が日常的に使用しているブラウザは、主に一般消費者向けに設計されています。これらのブラウザは使いやすさや機能性に優れていますが、企業環境で使用する際は、以下のような重大なセキュリティ上の懸念があります。

セッションハイジャックの脅威

近年、サイバー攻撃者がこれら一般的なブラウザの脆弱性を悪用して、ユーザーのセッション情報(Cookie)を盗み取り、組織のシステムに不正侵入する事例が報告されています。セキュリティ研究者たちの調査によると、熟練した攻撃者であれば、わずか数分でユーザーのセッションを乗っ取ることが可能とされています。これは企業にとって非常に深刻な脅威です。

SaaSアプリケーションの普及によるリスク増大

この10年間で、多くの企業がオンプレミスのアプリケーションからSaaS(Software as a Service)ベースのアプリケーションへと移行しました。この変化により、ブラウザを介して企業の重要なリソースやデータにアクセスする機会が飛躍的に増加しました。それに伴い、ブラウザを標的としたサイバー攻撃のリスクも高まっています。

リモートワークとBYODにまつわる課題

新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、リモートワークが急速に普及しました。また、BYOD(Bring Your Own Device)ポリシーの採用も増加しています。これらの変化により、企業のネットワーク境界が曖昧になり、セキュリティ管理が複雑化しています。個人所有のデバイスや安全でないネットワークからの企業リソースへのアクセスが増加し、セキュリティリスクが高まっています。

コンプライアンスとプライバシーの課題

データ保護に関する規制が世界中で厳格化する中、企業は従業員と顧客のデータプライバシーを確保する必要に迫られています。一般的なブラウザは、パスワードやクレジットカード情報などの機密データをクラウドに保存し、時にはサードパーティのアプリケーションと共有することがあります。これは、データ保護規制への準拠を困難にし、プライバシーリスクを高める可能性があります。

セキュリティリスクへの対策

これらのリスクに対処するため、企業は多層防御アプローチを採用することが重要です。以下に、効果的な対策をいくつか紹介します。

Webアプリケーションの保護

Webアプリケーションを保護するためには、強力で安全な認証メカニズムや暗号化の実装が不可欠です。多要素認証(MFA)の導入や、セッショントークンの有効期限の短縮、安全な通信プロトコル(HTTPS)の強制使用などが効果的です。

またこれらに加えて、昨今発生しているセキュリティ侵害の主たる要因の一つである、セッション情報(Cookie)の盗難に対する保護対策(セッション情報の強固な暗号化、デバイス上からの削除等)も有効です。

エンドポイントは最小特権

ユーザーやアプリケーションに必要最小限の権限のみを付与することで、万が一侵害が発生した場合でも、被害の拡大を防ぐことができます。これには、適切なアクセス制御ポリシーの実装や、定期的な権限の見直しが含まれます。

パスワードレスアクセスの導入

パスワードに依存しない認証方式を採用することで、セキュリティを大幅に向上させることができます。生体認証、ハードウェアトークン、あるいはシングルサインオン(SSO)システムの導入など、より安全な認証方法を検討することが重要です。

特権アクセス管理の強化

管理者権限を持つアカウントは、攻撃者にとって特に魅力的な標的です。これらの特権アカウントに対しては、厳格なアクセス管理、モニタリング、監査ログの記録を行い、不正使用のリスクを最小限に抑える必要があります。

セキュリティ意識向上のトレーニング

技術的対策だけでなく、従業員のセキュリティ意識を高めることも重要です。定期的なトレーニングを通じて、ブラウザ使用時のセキュリティリスクや、安全なブラウジング習慣について教育することが効果的です。

次世代のセキュアなブラウジングソリューション

これらの対策に加えて、近年では企業向けに特化した、セッション情報保護機能などを盛り込んだセキュアなブラウザソリューションが登場しています。エンタープライズブラウザと呼ばれるこれらのソリューションは、一般的なブラウザよりも高度なセキュリティ機能を備えており、企業のニーズに特化して設計されています。

組み込みの高度なセキュリティ機能により、一般的なブラウザよりも強固な保護を提供しており、セキュリティを強化しつつ、従来のブラウザと同等以上の使いやすさと機能性が特徴です。また、データ保護規制への準拠を容易にし、ユーザーと企業のプライバシーを守ります。

ブラウザセキュリティで安全なデジタルワークスペースを

ブラウザは現代のデジタルワークスペースにおいて不可欠なツールですが、同時に重大なセキュリティリスクをもたらす可能性があります。企業は、一般的なブラウザの使用に伴うリスクを認識し、適切な対策を講じる必要があります。

多層防御アプローチの採用、従業員教育の強化、そして最新のセキュアブラウジングソリューションの導入を組み合わせることで、企業は日々進化するサイバー脅威から自社を守り、安全なデジタルワークスペースを実現することができます。

ブラウザセキュリティは、単なるIT部門の問題ではなく、企業全体で取り組むべき重要な課題です。経営陣、IT部門、そして従業員が一丸となって、安全なブラウジング環境の構築に取り組むことが、今後のデジタル時代を生き抜くための鍵となるでしょう。

鈴木雄一朗

CyberArk Software株式会社 ソリューションズ・エンジニアリング本部 チャネル・ソリューションズ・エンジニア

ITインフラ業界でエンジニアを経験した後、2016年8月よりRSA Securityで、SIEM、EDR、NDR、XDR、SOARを中心に施策提案やセキュリティ運用サービスの提供に従事。2022年12月から現職で、アイデンティティ・セキュリティの普及を目指し、日本のパートナー企業とビジネス開発を推進している。