サイボウズはこのほど、同社が提供する「kintone(キントーン)」のユーザーイベント「kintone hive(キントーンハイブ)」をZepp名古屋で開催した。kintone hiveは、kintoneの活用アイデアをユーザー同士で共有するライブイベントで、企業や団体が活用ノウハウをプレゼン形式で発表する場だ。
2024年の「kintone hive」は広島、札幌、福岡、大阪、名古屋、東京の6カ所で開催された。本稿では、名古屋会場に集まった清田産業のkintone活用事例を紹介する。なお、地区代表に選ばれた桜和設備の事例はこちらの記事で紹介している。
1932年に創立し名古屋市に本社を置く食品原材料商社の清田産業は、2008年に導入したグループウェア「サイボウズ Office」を15年間愛用していた。同社の社員140人は皆、サイボウズ Officeを使いこなし、掲示板やアドレス帳、ワークフローや報告書など、さまざまなツールを活用していた。サイボウズ Officeなしでは仕事ができない状況だったという。
ところが、2021年に転機は訪れる。情報システム部門の寺西柚佳里さんが「だれからも求められない孤独な闘い」と表現する営業DXプロジェクトが発足され、サイボウズ Officeを手放し、それに代わる新たなツールの導入が進められた。
15年間愛用した「サイボウズ Office」に別れを告げた理由
長年愛用していたサイボウズ Officeに対して、中途で入社した寺西さんは3つの課題を感じていた。
1つ目は、アドレス帳の表記ブレだ。手入力だったため「サイボウズ株式会社」「サイボウズ(株)」「Cybozu」といったように、同じ社名でもバラバラの表記で登録されていた。「データの正確性に問題がありました」と寺西さんは振り返る。
2つ目の課題は、商談報告書の煩雑さだ。案件軸や顧客担当者軸で記載されておらず、検索をかけて案件を見つけ出すことが難しい状態だった。また、サイボウズ Officeで管理するのが難しいといった理由で、Excelで報告書を管理している社員も一定数いて、二重管理が発生していた。「毎日読んでいる人からすると読みやすい新聞紙のようでした」(寺西さん)
そして最も大きな問題は、大量の「野良カスタムアプリ」の存在だった。標準機能にはないアプリを社員自らが作成できるカスタムアプリが約210以上存在し、同社の社員数よりも多かった。
「まったく使われていない『野良カスタムアプリ』が多く存在し、長年使いすぎてデータ量が多くなり検索が重くなっていました。検索が重くなるたびに新しいアプリを作り直すといったことが発生し、データが分断されている状態でした」(寺西さん)
現場の社員はサイボウズ Officeに対して不満を抱えていなかったが、情報システム部門は「これでは絶対に生産性は上がらない」と考え、これらの課題の解決を目指す営業DXプロジェクトを発足した。
「kintone」へのお引越しでアプリ数を4分の1に削減
同プロジェクトがまず取り組んだことは、CRM(顧客情報管理)の整備と、SFA(営業支援システム)の導入だ。CRMに関しては、名刺管理の「Sansan」を2022年に導入したことで達成。しかし、SFAの導入は難航を極めた。
プロジェクトチームが10のSFAを選定し、3つのサービストライアルを実施したが、現場の反応はイマイチだった。「多くの営業社員から『現行のサイボウズ Officeと違いすぎて無理』と断固拒否されました」と寺西さんは苦笑い。
情シス部門と営業部門の双方が深く話し合った結果、「kintoneならギリやれる」ということになり、2023年6月にkintoneでSFAの構築を開始した。サイボウズ Officeからkintoneへのお引越しが始まった。
寺西さんがまず取り組んだことは、野良アプリに対する立ち退き依頼だ。数年回しか使わない野良アプリを選定し、kintoneへの移行をやめた。加えて、類似するアプリを統合し、最終的に210個から52個まで移行するカスタムアプリを絞った。「kintoneへ移行したカスタムアプリは即時アクセスを停止しました」と、営業社員が慣れ親しんだサイボウズ Officeを使ってしまわないように工夫した。
カスタムアプリの移行だけでなく、SFAに必要な要件を得るために、営業部門へ入念にヒアリングを行った。役員から新入社員の営業担当まで営業職の半数以上から意見を集め、40の要件を得た。
そして、ついに2023年12月にkintoneでノーコード開発したSFAが完成。表記ブレがあったアドレス帳は、Sansanと自動連携することでバラバラだった取引先情報を関連レコードでひも付けできるようにした。
また、商談報告書の煩雑さも解決。ルックアップ機能を活用して商談報告書を案件にひも付けられるようにした。案件リストから確認できるようになった。、サイボウズ Office時代の商談報告書と同じ運用で、 案件軸でも顧客担当者軸でも確認できるようになった。
さらに、使い方が分からないときに起票できる問い合わせ用アプリも作成。「40の要件をすべて満たした最高のシステムを作ることができた。私的には大満足でした」(寺西さん)
しかし、営業社員の反応は冷たかった。問い合わせ用アプリはあまり使用されず、寺西さんへの電話とチャットが殺到した。
甘く見ていた“サイボウズ Officeへの愛”
主なクレームは、「こんなの全然サイボウズ Officeと違う」や「使い方を聞くためにいちいち起票している暇なんてない」といったものだった。
寺西さんは反省した。要件と要件の行間を自分好みで作っていなかったか。問い合わせアプリの起票のハードルは高くなかったか。そして、皆の“サイボウズ Office愛”を甘く見ていなかったか。反省を生かし、SFAのリニューアルに取り組んだ。
社員のサイボウズ Officeへの愛を顧みて、サイボウズ Officeライクなkintoneを目指した。例えば、項目名や並び順、要件と要件の行間をサイボウズ Officeと同じにした。また、サイボウズ Officeに備わっていた「一覧検索機能」をプラグインを導入することでkintoneにも実装。
見た目にもこだわった。kintoneのデザインテーマを安心のサイボウズ Officeカラー(青)に変更。「色を変えただけで営業担当からの評価が一気に変わった。アプリは見た目が100%だということが分かりました」(寺西さん)。
そして、問い合わせアプリの起票ハードルを下げるため、チャットで気軽に問い合わせできるようにした。利用者が記載するのはアプリ名と問い合わせ内容だけだ。
こういった工夫を重ねることで、周囲の反応は優しくなっていったという。営業部門からは「Excelで管理していた時に多かった案件の漏れが減った」「見える化することで案件の引継ぎが楽になった」「会議資料への転機が不要になった」といった声が届いた。
「今後は、いまだにExcelで管理している見積書なども自動化していきたいです。最終目標は、年間8667時間の削減。そして、サイボウズ Officeと同じくらいkintoneのアプリも愛してもらうことです」(寺西さん)