皆さん、こんにちは!

4月から未来館で科学コミュニケーターとして働いている三浦菜摘(みうらなつみ)です!

 

子どものころから植物や昆虫、石を採集するのが大好きで、お菓子の缶に石を詰めては眺める……というやんちゃな(?)幼少期を送っていました。自然がとにかく大好きです!

小学校低学年の三浦。基本いつも泥だらけ。

学生時代は古植物学を専攻し、“植物の化石”に関する研究をしていました。

化石といえば恐竜や哺乳類のイメージが強いかもしれませんが、植物の化石というものあるんですよ。

 

海岸や土手などの地層が露出している場所 (※)で石を採取し、その中に植物の化石が含まれていないか、削っては探すという日々を送っていました。

そのような場所を「露頭(ろとう)」といいます。地層の多くは地面の下にあるのですが、海岸や土手では波や水で土が削られて地層が露出しやすいため、化石を探すのに適しているのです。身近なところにあるので、探してみてくださいね!

地層はタイムカプセル

石を削りまくる学生時代を過ごしたおかげで、地層を見つけて観察することが大好きになった私。旅行など行く先々で、地層の写真を撮ったりしています。

 

地層は、タイムカプセルのようなものです。

 

地層を調べることで過去の地球でなにが起こったのか」「昔の地球はどのような環境だったのか」「過去にどんな生き物が暮らしていたのか」など、さまざまなことを知ることができるんです。

 では、地上に出ている地層だけではなく、もっともっと地下深くを調べると、何がわかると思いますか?

それを知ることができるのが、未来館の5階にある常設展示「ちりも積もれば世界をかえる」です。

5階常設展示「ちりも積もれば世界をかえる」

この展示の中には、地球深部探査船「ちきゅう」についての展示があります。

 「ちきゅう」は、深海底を掘る科学掘削船です。科学掘削船とは、海底下の地層を掘削し調査する設備を備えた船のこと。海の上から地球の深部を調べることで、地震のメカニズムや地球の環境変化、海底で暮らす生き物について知ることができるのです。

そんな「ちきゅう」が東北沖の海底下820mもの深部(海面からだとなんと7820mも下!)から採取したのが、こちら。

展示コーナーの入り口近くにあるコアサンプル(レプリカ)

「コアサンプル」とよばれる柱状の地質試料で、地下の泥や岩石を取り出したものです。(ケーキにストローをさすと、スポンジやクリームが層になって見えますよね。そんなイメージ。…あれ、ケーキにストローをさしたことがあるの私だけかしら…?)

展示されている物はレプリカですが、1本のコアの中に色や質感の異なる部分が積み重なっていて、とてもリアルに見えます。

 

これまでいろいろな地層を見てきた私も初めて見る、うろこ状の地層。これが、海の下の地層?

しかも海底下820m、海面からだと7820m。富士山2個分じゃん……!?

 実はこのコアサンプル、「奇跡のコア」と呼ばれているそうです。なぜ、「奇跡」と呼ばれているのでしょうか?

JAMSTEC横須賀本部へ潜入調査!

「奇跡のコア」の不思議な魅力に取りつかれた私は、その呼び名の理由を探るべく、地球深部探査船「ちきゅう」を運用しているJAMSTEC(ジャムステック:国立研究開発法人海洋研究開発機構)へ潜入調査に行ってきました!

 

2024年5月18日に開催された、JAMSTEC横須賀本部の一般公開イベントに参加したのです。

東北海洋生態系調査研究船「新青丸」と、全然“潜入”っぽくない私

たくさんの建物が公開されていて、さまざまな展示や体験ブースがあったのですが、私は「海洋科学技術館」なる建物へ!

海洋科学技術館の入り口はこんな感じ

建物に足を踏み入れると、まず目に入ってくるのが、有人潜水調査船「しんかい6500」の実物大模型。深海生物の標本や、チムニー(海底にある煙突状の熱水の噴出孔)の模型もあり、まるで私も深海に来ている気分になりました。

「しんかい6500」の実物大模型! 中に入ることもできるんです!

さらに奥へ進んでいくと……

ようやく会えた地球深部探査船「ちきゅう」

こちらが地球深部探査船「ちきゅう」!……の1/150の模型です。詳細な模型で、船内の様子も細かく観察することができます。

 

さて、本題です。この「ちきゅう」で採取されたコアは、なぜ「奇跡のコア」と呼ばれているのでしょうか?

それは、入念な地層調査や度重なるトラブルの末、航海終了3日前にようやく得られた本命の試料(2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の震源断層をとらえたもの)だからなのです!

 

「ちきゅう」は震災が起こった翌年の2012年に、いち早く地震断層の調査を行いました。その調査で採取したのが、この「奇跡のコア」です。このコアを解析することで、あの日の地震や津波のメカニズムのいくつかが、“はっきりと”、そして“目に見える形で”わかってきました。

 

例えば、地震断層の約80%が「スメクタイト」と呼ばれる粘土で構成されていること。粒子が小さく水を逃しにくい性質をもつスメクタイトが、プレートの境界面を滑りやすくさせ、想定を上回る巨大地震につながったと考えられています。

地球深部探査船「ちきゅう」、再び東北沖7000mの深部へ!

海の下から採取した地層「奇跡のコア」から巨大地震のメカニズムが分かるなんてすごいなあ。地層って可能性無限大じゃないの! あと「奇跡のコア」ってやたらかっこいい名前だなあ……。

 

そんなことを考えながら「ちきゅう」の模型をしげしげ眺めていると、「応援お願いします!」と、近くにいらっしゃったスタッフの方から一枚のチラシをもらいました。

受け取ったチラシ。今年9月からの調査にかける研究者の想いが綴られています

えーとなになに……。「JTRACK」「地球深部探査船ちきゅうが挑む!」と書いてあります。2012年に東北沖で「奇跡のコア」を採取した「ちきゅう」が、今年9月からもう一度掘削調査を行うとのこと。

 

その名も、プロジェクトIODP Exp.405 JTRACKTracking Tsunamigenic Slip Across the Japan Trench)。世界中から50人を超える研究者が集い、約3か月の間、掘削などの調査を行う一大プロジェクトのようです!

 

2012年に採取された「奇跡のコア」の物語には、まだ続きがあったのです。

 

東北地方太平洋沖地震のメカニズムを解明した調査航海から12年経った今、断層のひずみはどれくらいの力をためているのでしょうか?

そもそも、断層やその周辺は、どのような構造なのでしょうか?

 今年の調査で、また新たな発見があり、次の巨大地震をより理解する手がかりとなるかもしれません!

 

今回の潜入調査で、もともとの調査目標だった「奇跡のコア」のことだけでなく、「奇跡のコア」から解明された東北地方太平洋沖地震のメカニズムや、9月から東北沖で再び始まるミッション「JTRACK」のことまで知ることができました。

海洋科学技術館の奥にこんな展示が…。

地球科学研究は1歩1歩前進しています。

科学調査や研究からわかったことが、地球科学への理解につながって、そして私たちの防災・減災につながっていることを改めて感じることができました。

地震のなぞに迫る特別企画「地震のほしをさぐる」開催中! トークイベントもあります!

そんな、地球科学の最前線を知ることができる期間限定イベントが、この夏未来館1階で開催中です!

期間限定イベント「地震のほしをさぐる―地球深部探査船「ちきゅう」再び東北沖7000mの深部へ!」

題して「地震のほしをさぐる―地球深部探査船「ちきゅう」再び東北沖7000mの深部へ!」

 

先ほどご紹介した地球深部探査船「ちきゅう」の100分の1模型(上の写真よりもっと大きい! 見どころたっぷり!)や、掘削ツールの先端部品「ドリルビット」の実物展示などをご覧いただけます。

「ちきゅう」の1/100模型
実物のドリルビット

また、8月31日(土)には研究者を招いたトークイベント「みんなで深堀り! 東北沖「ちきゅう」ミッション~あなたの声が原動力に」を開催します!

 

地球の奥深くを掘ると、どんなことがわかるの?なぜ、もう一度東北沖の同じ場所を掘るの?約3ヵ月にもおよぶ航海中、船の上でどんな生活を送っているの?

地震のなぞに挑むミッションJTRACKについて、地震の研究者や研究者をサポートする研究支援統括(EPM)のスタッフに、みなさんからの質問を投げかけます。

参考リンク
  • JAMSTEC 「巨大地震・津波発生の解明に向け地球深部へ」
    https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp343/findings.html
  • JAMSTEC 「JTRACK 日本海溝巨大地震・津波発生過程の時空間変化の追跡」
    https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp405/index.html
  • 東京都防災ホームページ 「地震のメカニズム」
    https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/bousai/1000929/1000305.html


Author
執筆: 三浦 菜摘(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、展示解説や発信活動を実施。地球科学の最前線を紹介する企画展(Mirai can NOW第7弾「地震のほしをさぐる」)等を担当。

【プロフィル】
自然に囲まれた幼少期を過ごし、植物や生き物が大好きに。大学では植物の化石を研究していました。以前は宮城県の放送局でアナウンサーとして、科学トピックの特集などを担当していました。
科学を多くの人と楽しめる場をつくりたいと思い、未来館へ。

【分野・キーワード】
古植物、植物生態学