宇宙開発企業「スペースワン」(東京都港区)の小型ロケット「カイロス」初号機が今年3月、打ち上げに失敗したのは、推進力が予測をやや下回り、予測に基づき設定した飛行範囲を逸脱したことが原因だった、と同社が発表した。搭載した安全システムが作動し、機体を自動で爆破させた。予測が正しければ飛行を継続できたとみられるとしている。

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    (左)打ち上げられるカイロス初号機、(右)間もなく自動爆破され破片が落下。地上で火災が発生した=3月13日、和歌山県串本町(いずれもスペースポート紀伊周辺地域協議会提供)

カイロスは3段構成の小型固体燃料ロケット。初号機は3月13日、同社の発射場「スペースポート紀伊」(和歌山県串本町)から打ち上げられたが、わずか5.3秒で爆破により中断した。政府の情報収集衛星に関連する「短期打ち上げ型小型衛星」実証機を搭載したが、失敗で喪失した。

同社によると、打ち上げ失敗の原因は(1)あらかじめ燃料のサンプルを燃焼させ、その特性から実際の飛行中の推進力を予測した。この予測の過程に問題があり、推進力が実際より高く見積もられ、これに基づいて飛行範囲を不適切に設定してしまった。(2)第1段機体の実際の推進力が予測をやや下回ったことで、飛行範囲を逸脱。これを自律飛行安全システムが検知した。(3)従来の地上からの指令破壊に代わり、自律飛行安全システムを国内では初搭載した。このため飛行範囲を厳しく設定していた――ことだった。

自律飛行安全システムは飛行中、経路や速度、機体各部の状態、同システム自体が正常かの判断を続けるもの。いずれかに異常があれば、計画した飛行範囲を逸脱しないように機体を自爆させて飛行を中断する。

初号機は同一設計、製造工程の機体を使い地上で燃焼試験を行ったものの、飛行範囲の設定に関わるほどの問題は表れなかったという。機体や燃料自体に製造上の問題はみられず、飛行中にシステムとしては正常に作動した。そのため設計や仕様は変更しないという。

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    見学場所で捉えられた打ち上げの様子。煙が立ち上り、機体の破片が落下している(スペースポート紀伊周辺地域協議会提供)

同社の遠藤守取締役は25日の会見で「固体燃料ロケットの特性として今後も起こり続けるようなことではなく、新しいロケット、“初物”のために不確定性が出てしまった。実績を重ねることで、信頼性の高いロケットになる。安全を前提とし、正常に飛行しているのに破壊してしまうことがないよう見直す」と説明した。

豊田正和社長は「全身全霊を尽くし、2号機の達成に向けて対応したい」と話した。なお同社は「一つ一つの試みが全て挑戦に向けての糧になる」とし、「失敗という言葉は使わない」としている。

カイロスは全長約18メートル、重さ約23トン。3段燃焼終了後、衛星の軌道投入精度を高めるために働く液体燃料の推進系「PBS」を搭載する。打ち上げ能力は太陽同期軌道(高度500キロメートル)に150キログラム。近年、利用が活発化している小型衛星を、契約から短期間、かつ低コストで高頻度に打ち上げることを目指す。発射場も同社が整備。初号機は成功すれば、民間の独力では国内初の衛星打ち上げになるとされていた。

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