NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)と住友林業は8月27日、森林由来のJクレジットの創出、審査、取引を包括的に支援するプラットフォーム「森林価値創造プラットフォーム」(以下、森かち)の提供を開始すると発表し、記者説明会を開いた。

森林由来Jクレジットとは、間伐な森林の適切な管理を行うことによる二酸化炭素吸収量をクレジットとして国が認証したもの。「森かち」は森林クレジットの創出者だけでなく、審査機関および購入者それぞれに対してGIS(Geographic Information System:地理情報システム)の機能を提供することで、発行プロセスの効率化とクレジットの信頼性向上を実現し、森林クレジットの創出と流通活性化を目指す。

  • 森かちサービス画面例

    森かちサービス画面例

同プラットフォームはクラウド型で提供する森かちシステムと、コンサルティングサービスであるクレジット創出コンサルティングサービスで構成される。NTT Comがシステムの開発および運用とセールス活動を担当し、住友林業が森かちの運用とコンサルティングサービス提供を担当する。住友林業は2027年までに7億円程度の売り上げを目指すとしている。

森林クレジットの有用性と課題

2015年のパリ協定採択を受けて、日本でも2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが進められている。脱炭素社会の実現に向けては、二酸化炭素排出量の削減と同時に、森林のような二酸化炭素吸収源の確保も必要だ。自社の活動だけでは二酸化炭素排出の削減が難しい場合には、カーボンクレジットの購入によりオフセットする仕組みが設けられている。

  • カーボンクレジットの全体像

    カーボンクレジットの全体像

しかし、森林整備の担い手や整備資金の不足などから、国内の森林による二酸化炭素吸収量の低下が懸念される。さらに、森林の整備不足は二酸化炭素吸収量の低下だけでなく、水源の涵養(かんよう)や土砂災害の防止、生物多様性保全など、森林の多面的機能の低下にもつながる。そこで森林や木材の循環利用を促進すると期待されるのが、カーボンクレジットの仕組みだ。

森林クレジットは日本政府(経済産業省、環境省、農林水産省)が運営するクレジット制度。GXリーグの開始などを背景に、現在は発行量が急増中だという。2022年から2023年にかけては約9倍増加しているそうだ。

しかし、森林クレジットは企業のオフセットのニーズに対応できるほど発行されていないのが実情だという。Jクレジットの中でも森林由来のものは、再エネおよび省エネのクレジットと比較して創出量が約10%、無効化・償却量量は約5%だ。

  • カーボンクレジットの課題

    カーボンクレジットの課題

その背景として、クレジットの創出者、審査機関、購入者のそれぞれが課題を抱えている。創出者はクレジットの創出手続きが煩雑で分かりづらい。また、販売先を確保できていない。審査機関は膨大な量の書類を扱う必要がある上、書類から対象となる森林の位置関係を把握しにくいため、図面と見比べながら審査する手間が発生する。国内には審査ができる検証人が10人前後しかいないとのことだ。

また、クレジット購入者としては、クレジットに関する情報が限られており、欲しいクレジット情報を見つけるのが困難という課題がある。さらに、クレジットが創出された地域や実施者の詳細が見えづらく、どのような環境貢献をしているクレジットなのかについての情報を得るのが難しい。

「森かち」が提供する3つの価値

こうした問題に対して両社は「森かち」を提供し、森林クレジットの創出者、審査機関、購入者のそれぞれの課題解決を支援する。「森かち」のランディングページは森林クレジットに関する基礎知識などを提供し、無料会員登録することで情報を閲覧できる。

申請書類作成支援機能

「森かち」はクレジット創出者向けに、申請に必要な書類の作成を支援する機能を提供する。現状では、申請に必要な書類がExcel上で数十枚にも及び、手作業での入力が必要だという。どこに何を記入すれば良いのか分かりにくい点も課題だ。

これに対し「森かち」では、Webブラウザ上で収穫予想表からマスタデータによる自動入力を可能とし、入力業務を効率化する。また、条件を選択することで申請書類の入力不要箇所を自動で省略する機能も備える。入力ガイドによる効率的な資料作成にも対応する。

  • Excelファイルに記入する申請書の例

    Excelファイルに記入する申請書の例

  • 森かちは申請書類の作成を支援する

    森かちは申請書類の作成を支援する

データ管理・審査支援機能

森林クレジットの創出者および審査機関では、さまざまな種類の資料やデータの管理が大きな負担とされる。審査機関においては、図面や書類の情報だけでは対象となる森林の位置関係の把握も困難だ。

一方の「森かち」では、各種資料やデータをデジタル化しており、対象となる森林のGIS情報とひも付けて管理可能。認証対象期間中のデータ管理を支援する。クレジット創出者は紙資料の情報をデジタル化しクラウド上で管理することで、担当者の引き継ぎやプロジェクト変更時などに発生する負担の軽減が見込める。

審査機関はGISで位置情報を確認しながらオンラインで書類を審査することで、ダブルカウントの防止やデータ量の多い大規模プロジェクトへの対応、業務の大幅な効率化を実現できる。

  • 航空写真やGISにより位置情報をデジタル化している

    航空写真やGISにより位置情報をデジタル化している

  • 書類のデータ管理をデジタルで効率化する

    書類のデータ管理をデジタルで効率化する

販売ページ

現状、森林クレジットの情報を一覧で確認できるのは制度事務局のホームページのみで、クレジットに関する詳細情報を確認できるのは、申請書類のみであることが多い。一方「森かち」では、森林の所在する地域のほか、森林認証の取得状況、森林整備や保全の方法、特定の種類の動植物の保全、土砂災害防止や水源涵養機能の定量的評価といった情報を提供する。

クレジット創出者が作成する販売ページは、GISデータのほかに写真、図面、Webサイトリンク、パンフレットなど、プロジェクトや創出者に関するさまざまな情報を掲載可能。こうした情報を通じて、購入者はどのような環境に対価を払うのかが明確となり、森林クレジットを選びやすくなることで取引の促進が期待されるという。