Lam Researchの日本法人であるラムリサーチは8月22日、同社の第3世代極低温絶縁膜エッチング技術「Lam Cryo 3.0」に関するメディア向け技術説明会を開催。その特徴などを説明した。

現在、AIの活用が世界的に進みつつあり、AI市場は2030年には2兆ドルに達するとも言われている。そうしたAI活用のためにはNANDを主とする大量のストレージが活用されることとなり、数TBクラスのエンタープライズSSDがNAND市場のけん引役になりつつある。しかし、これまでのデータセンターにおけるAI学習ならびに推論活用のみならず、エッジでもAIの推論処理が求められるようになる今後、低価格かつ大容量な高性能NANDが求められるようになると考えられている。近年のNAND容量の増加は、プロセスの微細化ではなく、メモリセル(ワード線)の積層数を増やす方向で進められており、すでに200層を超すデバイスも登場。2030年には1000層を超す超高層3D NANDの実現を目指すとするNANDメーカーも出てきている。

  • 最新世代の3D NANDは200層越えを達成している

    すでに最新世代の3D NANDは200層越えを達成しているが、2030年以降は1000層を越えることを目指すメーカーも出てきている

  • 1000層を超すために解決すべき4つの課題

    1000層を超すために解決すべき4つの課題。Cryo 3.0はこのなかで高アスペクト比を実現するための技術に位置づけられる

同技術は、そうした先進的かつ複雑なNANDを実現するために開発されたもの。同社は2014年の3D NANDの製造開始時から対応するエッチング装置を提供してきており、2019年にはインストールベースでメモリホール(チャンネルホール)加工向けとして3000チャンバを突破。同時期に、第1世代の極低温エッチング技術「Cryo 1.0」を投入。2024年の現在までにメモリホール加工向けとして合計7500超のチャンバの客先へのインストールを達成。その内1000チャンバがCryo技術に対応したものとなっているとする。

  • Lam ResearchのCryo技術の概要
  • Lam ResearchのCryo技術の概要
  • Lam ResearchのCryo技術の概要
  • Lam ResearchのCryo技術の概要。孔の上層がCDの要求値を満たしても、下層の方で孔径が小さくなり、小さくなりすぎるとしきい値が交差してしまい、メモリエラーを引き起こす現象が生じる。これを防ぐためにも、垂直かつ均一な加工を実現する必要がある

独自の極低温エッチング技術である「Cryo」の仕組みをざっくりと説明すると、チャンバ内のステージに設置された静電チャック部でウェハを0℃以下に冷却(NANDメーカーによって下げる温度は異なるが、-100℃までは行くことはないとラムリサーチでは説明している)しつつプラズマエッチングを行うことで、ウェハへの熱による影響を抑制し、高い精度でホールを形成することを可能にするというもの。プラズマそのものは高温で形成されるためチャンバ全体を冷やすわけではないほか、加工世代ごとにバイアスパワーが高まっており、それに伴ってウェハの温度も上昇することから、その冷却性能の向上なども各世代ごとに図られてきたという。

  • Cryo 3.0に対応するエッチングチャンバー「Vantex」
  • Cryo 3.0に対応するエッチングチャンバー「Vantex」
  • Cryo 3.0に対応するエッチングチャンバー「Vantex」のイメージ (出所:Lam Research)

また、第3世代ではエッチングのためのガス成分の見直しも実施。これにより、より環境負荷を低減しつつ、高い精度での加工を実現したとしており、環境負荷の低減率は常温の加工プロセスと比べて90%の低減、また電力についても同40%の低減と高効率化も実現したとする。

  • 従来の常温とのプロセス比では消費電力を40%削減

    従来の常温とのプロセス比では消費電力を40%削減、ウェハ当たりのCO2排出量を90%削減できるようになるという

  • ガスの組成を見直し

    ガスの組成を見直すことで、側面の表面への吸着率が向上。均一な加工精度が向上したとする (出所:Lam Research)

その加工精度についても、メモリホールの形成では、アスペクト比を高めつつも、孔そのものの真円度の高さや壁面の均等度を高める必要があるため、極低温でも壁面への物理吸着が可能なガス成分を独自開発することで、深さ方向の加工としては10μm、エッチングレートも常温プロセス比で2.5倍の速度を達成しつつ、孔の加工精度についても、孔最上部のクリティカルディメンション(CD)(いわゆるMax CD)は108nm、最下部のCD(いわゆるBottom CD)は99nmで、Max CDとBottom CDの差であるΔCDは9nmと、従来手法と比べても格段に改善。ラムリサーチのRegional Technology Group Managing Directorを務める西澤孝則氏は「これまで50:1としていたアスペクト比を100:1へと広げることができるようになる孔の上から下まで垂直にきれいに加工できるエッチング技術ができた」と、その技術の筋の良さを説明する。また、深さとエッチングレートは垂直方向のスケーリングに、CDの制御性はセル密度に起因するパラメータであるが、これらの高精度制御技術により、さらなる3D NANDの大容量化が可能になると同社では説明している。

  • ラムリサーチのRegional Technology Group Managing Directorを務める西澤孝則氏

    説明を行ってくれたラムリサーチのRegional Technology Group Managing Directorを務める西澤孝則氏

  • Cryo 3.0技術による加工性能

    Cryo 3.0技術による加工性能の概要

また、Cryo 3.0への対応チャンバとして、新たに「Vantex Cシリーズ」の提供も開始している。前世代の「Cryo 2.0」に対応する「Vantex Bシリーズ」ならびに初代であるCryo 1.0に対応する「Flex Hシリーズ」チャンバもCryo 3.0への対応が可能で、従来プロセスに対する高精度化を図ることが可能になるとしており、次世代の超高層3D NANDへの適用には最大性能を発揮できるVantex Cシリーズを進めるが、すでに工場内にインストール済みのFlex HシリーズやVantex Bシリーズであっても、アップグレードすることで、制御性などが向上するため、さらなる品質の向上などにつながることが期待できるとのことで、製造装置の投資効率そのものを向上させることができる技術であることを強調。これまでの世代が量産で活用されているという実績を背景に、Cyro 3.0も次世代3D NANDの実現を目指すNANDサプライヤ各社への提案が行われており、すでに一部サプライヤでは評価が進められている状態にあるという。

  • Cryo 3.0は第2世代対応チャンバや第1世代対応チャンバにも適用可能

    Cryo 3.0は第2世代対応チャンバや第1世代対応チャンバにも適用可能。その場合は、主に既存プロセスの改良に用いられることとなる