日比谷パーク法律事務所代表・弁護士 久保利英明「本来は株主も企業も目指すべき方向は同じはず。いい経営をやれば業績も株価もよくなる」

自分たちの正義や存在意義をきちんと説明できているか?

 ─ 近年は東芝やセブン&アイ・ホールディングス、東洋証券など、いわゆる、モノ言う株主に振り回される企業が目立っています。改めて、企業と株主の関係をどう考えますか。

 久保利 株式会社というのは、株主がコストをかけて株式を取得することで成り立っているものです。つまり、株主がこの会社は経営資源を十分に活用していないとか、本来持っている能力に対して経営効率が悪いからここを修正しなさいと主張するのは当然のことです。

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 いい経営をやればもっと業績が良くなり、株価も良くなる。これが一番の原点であり、本来は株主も企業も目指すべき方向性は同じはずです。

 ─ 問題はここですね。いつの間にか、配当を過度に要求したりして、株主と経営者の方向性がずれてくる。

 久保利 いや、株主が配当を要求するのは当然のことですし、方向性がずれてきたのであれば、経営者はきちんと説明しなければなりません。そこをわきまえて経営者はいい経営をし、株主を大事にしながら、しっかりPRもし、IRもする。こういう形ができていれば本来、企業と株主の主張がそんなに乖離することはないはずです。

 そこが乖離しているというのは、何かを隠したり、創業家に忖度したり、非効率的な経営をしているのではないかと。やはり、何かを偽ったり、不合理な経営をやっているから、株主につつかれて説明ができないのだと思います。

 ─ 最近は企業のミッションやパーパス(存在意義)を明確に打ち出している企業が多くなりましたけど、成功している会社は基本理念がしっかりしていますよね。

 久保利 ええ。わたしに言わせれば、今頃言い出しているのかという気もしないでもないんですが(笑)、成功している会社は自分たちのやっていることを隠したり、偽ったりしませんし、自分たちの正義や存在意義をきちんと説明できていますよね。

 ですが、こういうことができずに、株主や世間に対してフェアでもなければ、透明性もない経営をしているような会社が現実としてあるのは、非常に残念なことだと思います。

 ─ 2000年代に入って以降、日本を代表する電機メーカーの東芝と日立製作所で大きく業績に差がついてしまいました。この差は何だと考えますか。

 久保利 東芝も日立も2003年に当時の委員会等設置会社に移行しているんですよね。ただ、箱だけをつくっても、本気で魂を吹き込んだかどうかというのは両社で違っていたのではないかと思います。

 よく日立は野武士軍団、東芝はお公家さんと言われますが、東芝は昔から電力会社や旧国鉄が主要なお客さんで、甘やかされ、厳しい経営判断に直面しなかった。経営環境に恵まれすぎたのではないかと思います。

 日立も国内にとどまっていれば、電力会社や旧国鉄に頼っていれば良かったのだと思いますが、彼らは自力でグローバルで戦うことを決めましたよね。いわば、必死さと危機感を持たなければならない状態に自らを追い込んだことで、自分たちがこれからどうやって生きていくべきかを真剣に議論したはずですよ。

 そうした覚悟と危機感の差が、明暗を分けたのではないかと思います。

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