Meta日本法人のFacebook Japanはこのほど、広告主やクリエイターを対象としたイベント「House of Instagram Japan 2024」を渋谷ストリームホールで開催した。イベントでは、Cookieレスへの対応などをテーマに、Instagramを活用したマーケティング事例などが語られた。本稿では、Instagramで縦長動画を活用しマーケティングを実施したサントリーの事例セッションを紹介する。

同イベントで、楽天市場が紹介した、Instagramを活用してマーケティングに取り組んだ事例についてはこちら。
楽天市場のInstagram活用術とは?Cookieレス時代に備えよう - House of Instagram Japan 2024

  • サントリーが展開するブランド

    サントリーが展開するブランド

サントリーが展開する縦長動画の戦略とは?

事例セッションには、Facebook Japanで営業部長を務める丸山祐子氏と、サントリーホールディングスの宣伝部課長である前田真太郎氏が登場した。トークテーマは「サントリーに学ぶ縦長動画、Instagramでの取り組みについて」。

  • Facebook Japan 営業部長 丸山祐子氏(画像左)、サントリーホールディングス 宣伝部 課長 前田真太郎氏(画像右)

    Facebook Japan 営業部長 丸山祐子氏(画像左)、サントリーホールディングス 宣伝部 課長 前田真太郎氏(画像右)

ファネルのターゲットに合わせたクリエイティブを展開

丸山氏:サントリー生ビールや翆ジンソーダなど、近年のサントリーは特に若年層をターゲットとして広告プロダクトを展開しているように思います。消費者のデジタルシフトに伴って総広告費におけるインターネット広告費の割合も高まる中で、サントリーのマーケティング戦略におけるデジタルシフトの状況について教えてください。

前田氏:テレビのHUT(Households Using Television:総世帯視聴率)を見ると、コロナ禍の2020年前後には下げ止まっていましたが、コロナ禍が落ち着くと同時に大きく低下しています。これは当社内でも大きな衝撃がありました。

依然としてテレビは大きなリーチを獲得できるメディアではありますが、テレビだけではリーチできない層も出始めていると感じます。ですので、デジタル上での顧客とのコミュニケーションは必須だと思っています。

  • テレビのHUT(総世帯視聴率)は低下している

    テレビのHUT(総世帯視聴率)は低下している

そうした中で、テレビとデジタルの広告費の比率は、ターゲットやコミュニケーションの目的によっても変わると思いますので、その都度最適な比率を導けるようにしています。デジタルの中にもさまざまなプラットフォーム、さまざまなメニューがありますので、出稿した広告がどのターゲットのどのファネルに届いたのか、データを分析しながら改善するようにしています。

丸山氏:私がサントリーのマーケティングを支援する中で、単にテレビからデジタルに出稿の配分を変えるだけではなく、さまざまな工夫をしていると感じます。なにか事例を紹介していただけますか。

前田氏:当たり前の話かもしれませんが、ターゲットによってメディアの配信先を変えるだけでなく、狙うファネルのターゲットに合わせたクリエイティブを展開するようにしています。

例としてプレミアムモルツについて紹介します。アッパーファネル(ブランドの認知や想起を狙う層)にはテレビCMと連動した広瀬すずさんの広告をデジタルでも展開しました。一方でミドルファネル(自社ブランドを知っていて他ブランドと比較検討する層)向けには、よりターゲットを絞ってインサイトを刺激するようなデジタル専用のクリエイティブを作りました。

  • プレミアムモルツの広告クリエイティブ

    プレミアムモルツの広告クリエイティブ

丸山氏:このように広告のデジタルシフトを進めるサントリーですが、2022年から2023年にかけてMetaへの投資比率を約1.5倍に増やしています。なぜ、このようにMetaへの投資を強めたのですか。

前田氏:Instagramの強みは3つあると思います。それは「幅広い利用者」「強い説得力を持つクリエイターの存在」「フォーマットの多様化」です。特に、フィードやリール(短尺)動画や、ストーリーズなど、多様なフォーマットがあるからこそさまざまな施策ができ、さまざまなファネルのターゲットにリーチできると考えています。

  • サントリーが示すInstagramの強み

    サントリーが示すInstagramの強み

「翆ジン」は縦長に最適化したクリエイティブで効果を発揮

丸山氏:サントリーは縦長動画の活用に積極的に取り組んでいます。翆ジンでは、テレビCMの素材を活用した縦長動画とオリジナルのアニメを使った縦長動画をそれぞれ配信していますが、その狙いを教えてください。

前田氏:この縦長動画はどちらもリールに配信したもので、テレビCM素材を使った方はどちらかというとアッパーファネル向けです。縦長動画に関しては、やはり縦長の画面に最適化した動画を作った方が広告効果は高いと思います。スマホ画面で見る動画は目との距離も近いので、その画面の中で最大限にシズルを表現してみようと思って制作したのが、アニメの方です。

  • 翆ジンの動画クリエイティブ

    翆ジンの動画クリエイティブ

丸山氏:縦長に最適化して作成したのですね。この広告は実際にオーガニックでもバズったようですね。

前田氏:こちらのアニメは広告のパフォーマンスも良かったです。そこで、せっかくなのでリール動画やX(旧 Twitter)にも載せたところバズりました。昨年の弊社のアカウントが載せた動画の中でもインプレッションが最も多かったです。しっかりと作りこんだクリエイティブはプラットフォームを問わずに広がるんだなと感じました。

フレシネのキャンペーンから見えた"刺さる"クリエイティブの作り方

丸山氏:続いて、Instagramを活用したキャンペーンの事例について教えてください。

前田氏:昨年末に実施したフレシネ(スパークリングワイン)の事例を紹介します。「フレシネ イタリアン ロゼ」「フレシネ プロセッコ」はボトルがキラキラと特徴的なので、20~30代の女性にクリスマスや年末年始のパーティーなどで盛り上がるときに飲んでもらいたいと思い実施しました。

丸山氏:キャンペーンの目指す姿はどのようなものでしたか。

前田氏:20~30代の女性に年末のパーティでフレシネを選んでもらうためにどうすればいいだろうと考えました。若年層のターゲットにリーチするとき、一つのメディアから情報を出せばいいというものではなく、複数のタッチポイントでさまざまな切り口から情報が出ていることが重要だと思います。

ブランド側が出稿する広告はもちろん、クリエイターからの投稿などをリールやフィード、さらには他のプラットフォームでも目にすることで、手に取ってもらえるのではないかと企画しました。

  • フレシネのキャンペーン

    フレシネのキャンペーン

丸山氏:ブランドが一方的にメッセージを発信するだけではなく、「なんかはやっている感」を作るのが大事なんですね。そちらの方が難しそうです。具体的な施策について教えてください。

前田氏:「はやっている感」を人工的に作り出すために、さまざまなクリエイティブを作成しました。まずは製品認知として、グローバルで制作した横長の華やかな動画を縦長向けに編集しました。

次に日本国内向けに、ターゲットが自分ごととして等身大の姿を感じられるようなクリエイティブを作成しました。こちらは縦長のストーリー仕立ての動画です。これに加えて、クリエイターとのタイアップ広告を作成しました。雑誌とのタイアップやAIコンテンツなども含めると、20数種のクリエイティブを作っています。

  • キャンペーンで展開したクリエイティブ

    キャンペーンで展開したクリエイティブ

丸山氏:多様な広告クリエイティブによって、一つの商品を多面的に見せていますね。こちらのキャンペーンの結果はいかがでしたか。

前田氏:弊社としてもここまで大規模なキャンペーンは初めてだったので、結果を見るまで不安でした。しかし実際のところ、ふたを開けてみると、ターゲットとしていた20~30代の女性からは41.8%の広告認知を得られていました。今回のキャンペーンはテレビCMをほとんど出していなかったのですが、それでもしっかりとInstagramを軸とした施策でデジタルの広告効果を上げられました。

  • 認知率の結果(詳細な数値は非公表)

    認知率の結果(詳細な数値は非公表)

また、トラッキング調査の結果を見ると、ブランド認知経路は店頭に次いでInstagramが23%でした。弊社の従来の商材ですとテレビCMによる認知が最も多く、次が店頭です。また、SNSで見た広告について後から「あなたは何のプラットフォームでこの広告を見ましたか?」と聞かれても、思い出して答えるのは難しいです。そうした中で、こうした結果が出たのは今回のキャンペーンの設計が良かったのかなと思います。

  • ブランド認知経路の結果(詳細な数値は非公表)

    ブランド認知経路の結果(詳細な数値は非公表)

他にも、ファネル別の広告効果についても調査しました。この結果を見ると、アッパーファネルに対しては縦長動画広告よりもグラフィックの方が効果がありました。グラフィックの方がメッセージが伝わりやすいので、アッパーファネルに認知されやすかったと思います。

  • 認知ファネルへの寄与(詳細な数値は非公表)

    認知ファネルへの寄与(詳細な数値は非公表)

一方で、好意や意向を示しているミドルファネルでは、海外クリエイティブの動画と、クリエイターによる動画が効果的でした。海外クリエイティブは華やかでスパークリングワインというカテゴリの相性が良く、Instagramともマッチしていたと思います。クリエイターとのコラボ動画は、予想通り自分ごと化の際に好意や意向に影響するということがデータで示せたのも嬉しかったですね。

  • ミドルファネルへの寄与(詳細な数値は非公表)

    ミドルファネルへの寄与(詳細な数値は非公表)

丸山氏:Instagramは旅行やイベントや食事の際に「行ってみたい」「やってみたい」という感情を生み出しやすいプラットフォームになっているかと思います。効果が数字で表れているのは当社としても嬉しいです。これとは別に、メディアのパフォーマンスと視聴者の態度変容についても面白い結果が出ているのですよね。

前田氏:はい。先ほど紹介したように、好意や意向には海外クリエイティブとクリエイター動画が影響していました。しかし、視聴率やエンゲージメント率を見ると日本クリエイティブの方が高かったんです。必ずしも、視聴率が高ければ良いというものではなさそうです。

  • メディアのパフォーマンスと態度変容は必ずしも一致するわけではない(詳細な数値は非公表)

    メディアのパフォーマンスと態度変容は必ずしも一致するわけではない(詳細な数値は非公表)