Meta日本法人のFacebook Japanはこのほど、広告主やクリエイターを対象としたイベント「House of Instagram Japan 2024」を渋谷ストリームホールで開催した。イベントでは、Cookieレスへの対応などをテーマに、Instagramを活用したマーケティング事例などが語られた。本稿では楽天市場が語ったInstagram活用事例について紹介したい。

InstagramはAIの力でブランドを支援

イベントの冒頭では、Facebook Japan 代表取締役の味澤将宏氏が登場。「昨今の詐欺広告の報道に関して、皆様に多大なご迷惑とご心配をおかけしていることを重く受け止めている」と述べ、謝罪する場面も見られた。

同氏は「現在は詐欺広告への対策を最優先事項として、会社を挙げて取り組んでいる。継続的に、そして真摯に詐欺広告を含む犯罪行為に対応していく」と続けた。

  • Facebook Japan 代表取締役 味澤将宏氏

    Facebook Japan 代表取締役 味澤将宏氏

さて、日本国内の最近のInstagramユーザーの傾向を見ると、ハッシュタグやリール動画(短尺動画)、ダイレクトメッセージなどを用いてコンテンツをシェアして人とつながっているという。日本のZ世代の62%が商品やブランドを発見するためのソースとしてInstagramを利用しているほか、Instagramの利用時間の約半分はリール動画の視聴に充てられているとのことだ。

Instagramのビジネス活用においては、どのような表現が生活者に受け入れられるのかを理解することが非常に重要だ。Instagramでは、ブランドが一方的に情報を発信するのではなく、ユーザーとブランドとクリエイターがそれぞれ相互につながり、共にブランドの価値を作り上げていく必要がある。

Instagramは好きなブランドと自身をつなぐ、「自分ごと化プラットフォーム」として機能するという。Metaが実施したグローバル調査の結果によると、リール動画ユーザーの79%がリール動画を見た後に製品やサービスを購入しており、53%がクリエイターがリールで宣伝している商品なら購入する可能性が高いと回答した。

  • Instagramに関する消費者行動

    Instagramに関する消費者行動

Instagramはブランドのビジネス展開を支援するために、AIの活用にも注力する。Cookieを用いないコンバージョンAPI(CAPI)の利用により購入イベントが33%増加、Advantage+(アドバンテージプラス)ショッピングキャンペーンの利用で広告費用に対するリターンが32%増加、Measure and Scaleにより広告パフォーマンスが30%増加、といった結果が出ているそうだ。

  • InstagramはAIの活用も進める

    InstagramはAIの活用も進める

味澤氏は続けて、LLMのLlama3を搭載したAIアシスタントの「Meta AI」を紹介した。すでに英語圏ではサービスを開始しており、近い将来日本語にも対応する予定だという。Instagramのダイレクトメッセージやfacebookメッセンジャーでチャットをするようにプロンプトを入力すると、質問への回答や画像の生成が可能だ。

また、Ray-Ban Metaスマートグラスにも言及。このスマートグラスにもMeta AIが搭載され、音声を用いて写真撮影や動画撮影が可能となる。スマートグラスに映る物体を認識する機能も備えるため、植物を見ながら「この葉っぱは何?」と質問したり、鏡を見ながら「今日の服装に合う帽子を教えて」と頼んだりといった使い方ができる(本稿執筆時点では日本語未対応)。

  • Ray-Ban Metaスマートグラス

    Ray-Ban Metaスマートグラス

楽天市場はマーケティングにどのようにInstagramを活用したのか?

続くセッションには、楽天市場でマーケティングを担当する近谷康氏が登場し、Facebook Japanの豊井みのり氏と「AI、Cookieレス時代のマーケティング」をテーマにトークを展開した。

楽天市場のAI戦略「トリプル20」

豊井氏:マーケティングのデジタル化やオートメーション化が進む昨今ですが、過去5年間で大きく変化したことはありますか。

  • Facebook Japan 豊井みのり氏

    Facebook Japan 豊井みのり氏

近谷氏:コロナ禍を含めさまざまな変化がありましたが、業務の中で特に変化が大きかったのは、個人情報の保護やプラットフォームによる規制です。シグナルロスなどと言われますが、こうした規制の影響は大きいです。それとAIの民主化も大きな変化だと思います。

  • 楽天市場 近谷康氏

    楽天市場 近谷康氏

豊井氏:まずはシグナルロスの変化について詳しく教えてください。

近谷氏:Cookieが使えなくなるシグナルロスは当社のようなEコマース事業においてとても大きなインパクトがあるので、対応は重要だと捉えています。ロスするシグナルを直接的に何か別のもので置き換える取り組みももちろん進めますが、そうではなく、そもそもリターゲティングやCookieを使った手法に依存しない取り組みも本気で考えています。

豊井氏:AIについてはどうでしょうか。

近谷氏:楽天は会社としてもAIは積極的に取り入れています。業務のオペレーションをはじめ、マーケティングや顧客体験の領域にもAIを導入し、トリプル20(オペレーション効率、マーケティング効率、クライアント効率のそれぞれに20%ずつAIを活用する取り組み)を開始していて、毎日のようにAIという言葉をオフィスで聞くような状況です。

  • トリプル20

    トリプル20

豊井氏:それほどまでに楽天が大事にしているAIですが、AIを活用する際に何か注意していることはありますか。

近谷氏:AIは便利ですが、学習させるデータが良くないと、良い結果も出てきません。われわれマーケッターがいかに正確で信頼できるデータをAIに与えるのかが大事ですね。AIに使われるのではなくAIを有効に使えるように、一生懸命考えています。

楽天市場のマーケティング戦略

豊井氏:楽天市場のマーケティング戦略について教えてください。

近谷氏:一言では表現できないので難しいですね。普段意識しているのは、広告を出さなくても来てくれるユーザーには広告を出さないで、広告を見てきちんと態度変容してアクションを起こしてくれるユーザーに広告を出してリーチしたいということです。

具体的には、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の重要性、本質的な広告効果、そしてこれらを実現する組織づくりが挙げられます。LTVでは、広告をクリックしていくらのものが売れた、というデータだけではなく、その売上の内訳まで気にしています。

本質的な広告効果については、それぞれのコンバージョンに対して、購買に至るまでの過程での貢献をしっかり見るようにしています。Instagramは広告からコンバージョンまで距離がありますので、その途中の広告の影響も確認しようと思っています。

これを実現する組織づくりについてですが、まずデータ分析が3年間で大きく変わりました。広告のデータ分析をするための専門の部署ができ、そこに依頼するようになりました。毎週のようにミーティングしながらデータを分析しています。

  • 楽天市場のマーケティング戦略

    楽天市場のマーケティング戦略

楽天市場×Instagramの取り組み例を紹介

豊井氏:楽天市場におけるInstagramの役割はどのようなものでしょうか。

近谷氏:パフォーマンスとブランディングの2つの役割があります。パフォーマンスについては、Instagramを使うことで広告を見せるべき人に、見せるべき商品がきちんとリーチできていると思います。Instagramは好きなものを見るためにユーザーが集まるプラットフォームなので、ユーザーに受け入れてもらいやすいと感じます。

次にブランディングについてですが、Instagramにはいろいろなフォーマットがありますので、商品を表現する上での魅力があります。また、ブランディングは効果測定が難しい場合が多いのですが、Instagramは効果測定ツールの解像度が高いので役立っています。

  • 楽天市場のInstagram活用

    楽天市場のInstagram活用

豊井氏:楽天市場とInstagramの取り組みについて紹介していただけますか。まずは最近の注力領域からお願いします。

近谷氏:「シグナルの最大化・最適化」「クリエイティブの多様化」「効果測定」の3つに注力しています。シグナルの最大化・最適化では、シグナルロス対策やLTVの改善のためにコンバージョンAPIを利用しています。

当社は以前、一度広告を見た人に再度広告を表示するリターゲティングに頼っていました。しかしシグナルロスなど環境の変化に伴って戦略を変え、リターゲティング広告への依存から脱却を図りました。シグナルを充実させるとともにInstagramのAIプロダクトを活用することで、2021年に80%ほどあったリターゲティング広告の配信比率を、20%以下にしました。その分プロスぺティング広告の配信を増やしています。

  • 楽天市場 近谷康氏

クリエイティブの多様化については、Instagramをフル活用するためにクリエイターと連携したり、配信面になじむフォーマットを使ったりするようになりました。以前は商品だけを見せる広告を作っていたのですが、それだけではなくさまざまなフォーマットに挑戦するようにしています。

効果測定においては、正確な評価に基づいたPDCAサイクルを回せるように注意しています。購買ファネルの認知においては、態度変容や第一想起を指標として追いかけています。行動変容に関してはMetaが提供しているデータクリーンルームを使って、広告の視聴データに基づいた分析を行っています。自社のデータとInstagramのデータを突合することで、「広告との接点で何が起きて、その後当社のメディアで何が起きたのか」まで解明できるようになりました。

また、マーケティングミックスモデルについては、導入を検討中です。これはクロスメディアで広告の貢献度合いを計測するソリューションですね。Instagramも使いながら、他メディアと比較して評価できるように検討している段階です。

豊井氏:購買ファネルの上層では、さまざまな広告配信が重なりますので、広告の貢献度を媒体横断で評価するのは難しいです。さまざまな評価手法を組み合わせながら、正確なデータを使ってPDCAサイクルを回すのが重要となりそうですね。

  • 効果測定に関する施策

    効果測定に関する施策