米Metaの日本法人であるFacebook Japanは10月27日、FacebookやInstagramなど同社のプラットフォームを活用したマーケティング事例を紹介する、広告主および企業向けイベント「Meta Marketing Summit 2023」をTOKYO NODE(東京都 港区)で開催した。

本稿では同イベントより、Instagramでの価値共創マーケティングによって著しい広告効果を発揮した花王のビオレUVシリーズ「アクアリッチ 瞬間ミストUV」(以下、瞬間ミストUV)の事例について紹介したい。

同社はクリエイターとのタイアップ投稿などを積極的に実施して、商品名に関する会話量が3.9倍増加し、購入行動も19倍増加している。なぜこれほどの成果を出せたのだろうか、その秘密に迫ろう。

  • Instagram活用のポイント

    Instagram活用のポイント

ビオレUVは、二階堂ふみ氏らが出演するテレビCM「ミストのUVと出かけよう!編」が印象的なように、これまでマス向けの広告を多数打ち出してきた。しかし花王では、マス向けのテレビCMだけでは徐々に広告効果が下がっているという課題も抱えていたという。

その一方で、マス向けの広告を実施していないにもかかわらず、SNS上で話題となったことから一気に人気を獲得したブランドの例はファッションやスキンケアでも増えている。こうした世の中の動きの中で、花王もSNS広告に注力するきっかけを探っていた。そこで調査をしてみると、SNS上でのブランドに関する発話の量や質が売り上げにつながっていることが明らかになったという。

ブランドの特徴認知や購買行動に、Instagramが強く寄与するという調査結果も複数あるそうだ。実際に同社が実施した瞬間ミストUVのテスト販売では、最も購買につながったタッチポイントは「店頭」で、その次がInstagramだった。この出来事をきっかけに、同社はInstagramを使ったマーケティングに注力し始めた。

  • 調査結果から明らかになったビオレUVのタッチポイント

    調査結果から明らかになったビオレUVのタッチポイント

花王のスキンケア事業部でブランドマネジャーを務める小林達郎氏は、SNSを活用したビオレUVのマーケティング戦略として、「3Sサイクル」を紹介した。3SとはStore(店頭)、Scene(使用場面)、SNS(ソーシャルメディア上での口コミ)の頭文字を取ったものだ。この3つのサイクルがうまく回ると、ヒットにつながるそうだ。

  • 花王 ヘルス&ビューティケア事業部門 スキンケア事業部 ブランドマネジャー 小林達郎氏

    花王 ヘルス&ビューティケア事業部門 スキンケア事業部 ブランドマネジャー 小林達郎氏

瞬間ミストUVの場合、店頭で製品を見つけて購入し、使用場面において「日に焼けない」や「付け心地が良い」などの感動体験が生まれ、それをSNS上で「誰かに発信したい」と思えるような一連のサイクルをうまくアシストしている。これがまた新たな購買につながるという流れだ。テレビCMはサイクルを加速させるためのブースターと位置付けている。

なお、花王では製品作りからマーケティングまで一貫して同一の担当者が対応している。そのため、SNS上での反響は製品作りにもフィードバックされている。こうした花王ならではのブランド体制も、3Sサイクルを加速させる要因といえるだろう。

  • ビオレUVブランドの3Sサイクル

    ビオレUVブランドの3Sサイクル

同社のメディアプランは大きく2つの段階に分けられる。まずはテレビCMのようなマス広告を使ってリーチを獲得し、商品認知のきっかけを作り出す。その上でSNS上でのマーケティングを展開し、商品認知から購入意向を促す流れだ。

SNSでは単純なブランド広告だけではなく、クリエイターの投稿を広告で拡散する手法も採用している。なんと、花王のMetaに対する全広告費のうち26.9%は、SNSクリエイターの投稿を拡散する「パートナーシップ広告」が占めている。パートナーシップ広告とは、インフルエンサーなどのクリエイターが作成したオーガニック投稿を企業が自社の広告として配信できる仕組みだ。

瞬間ミストUVのInstagram広告においては、複数の広告面に応じたクリエイティブを作成している。これは、ユーザーによって反応しやすいクリエイティブフォーマットが偏っているからだ。リール動画に反応しやすいユーザーやストーリーズに反応しやすいユーザー、カルーセルに反応しやすいユーザーなどに分かれる。

配信しているフォーマットが偏っていると、リーチできるユーザーにも偏りが生じる可能性があるため、なるべく網羅的に広告を配信したそうだ。

  • 配信の形態に応じてクリエイティブを使い分けている

    配信の形態に応じてクリエイティブを使い分けている

Instagramでの広告接触後に生まれたUGC(User Generated Contents:ユーザーが生成したコンテンツ)を分析すると、広告面ごとに異なる特徴が見られたという。下の写真は実際のワードクラウド分析の結果だ。文字のサイズに応じて、大きいほど高頻度で発話された単語を示す。

  • ワードクラウド分析の結果

    ワードクラウド分析の結果

フィードでは「良い」「使う」「購入」などポジティブなワードが多く、ストーリーズは「焼ける」「外出」「海」「持ち運び」など外出シーンでの発話が多く見られた。リールではビオレUVという単語のサイズは小さくなっており、「なじむ」「使える」など使用した実感が多く語られていたという。

実際の投稿も広告面ごとに異なる特徴が表れ始めたため、今後は配信面に合わせた投稿を広告配信でも活用していくとのことだ。

「Instagramでの広告展開を通じて売り上げが増加したのはもちろんだが、それ以上にビオレUVに関するSNS上での発話量が増えたことが最も大きなポイント。ブランドと生活者の距離が縮まり、良い関係性が構築できたはず。中長期的なブランドロイヤリティを高めるために、今回のキャンペーンで終わらせずに、来年以降のブランド展開にもつなげたい」(小林氏)

  • 花王 ヘルス&ビューティケア事業部門 スキンケア事業部 ブランドマネジャー 小林達郎氏