IT、顧客サービスなど業務全体のプラットフォームを標榜する米ServiceNowが5月7日~9日、米ラスベガスで「Knowledge 2024」を開催した。日本市場はグローバルで重要市場と位置付けられており、現地では生成AI関連の発表に加え、富士通との戦略的提携も発表された。本稿では、日本法人であるServiceNow Japan 執行役員社長の鈴木正敏氏の現地でのインタビューを紹介する。
日本法人として過去最高の業績 - 好調なServiceNow Japan
--2023年1月にServiceNow Japanは、米国本社直轄になりました。そのタイミングで現在のポジションに就任されましたが、これまでの感触や手応えをお聞かせください。
鈴木氏(以下、敬称略):日を追うごとに感じているのが、日本のお客さまに貢献できるポテンシャルがいかに大きいかということと同時に、成果も感じています。
2024年第1四半期は、ServiceNow Japanとして過去最高の業績を収めることができました。今年のKnowledgeには300人を超えるお客さまとパートナーさまが来場しました。2023年は180人だったことを考えると、日本市場のわれわれへの期待は相当なものと言えます。
--KnowledgeではCEOのBill McDermott氏が記者会見を開き、日本を優先市場の1つに挙げました。日本市場のポテンシャルはどこにあると見ていますか?
鈴木:ServiceNowはITSM(IT Service Management)でスタートしました。現在のプロダクトポートフォリオはIT部門ならITオペレーションマネジメント、ITアセットマネジメント、セキュリティ、リスク管理などに広がっています。
また、カスタマーワークフロー、社内のさまざまな内部業務をサポートするエンプロイワークフロー、さらにはローコード/ノーコードのツール、自動化のエンジンを含むクリエイターワークフローも備えています。どのエリアでも、ポテンシャルがあると感じています。
特にカスタマーワークフロー、エンプロイーワークフローというシステムSoE(System of Engagement)のレイヤは、ServiceNowがお客さまの業務効率化・高度化に貢献できる余地が大きいと見ています。
日本ではSOR(System of Record)への投資が多くを占めていることが多く、われわれのレイヤであるSoE、SoA(System of Action)の領域はこれからです。このことは、日本の企業が長年抱えている“生産性”という課題に対して貢献できることを意味します。
富士通との戦略的提携のテーマは「Co-Innovation」
--Knowledgeで富士通との戦略的提携を発表しました。ここでのServiceNowの役割ははどのようなものですか?
鈴木:富士通は当社のユーザーでもあり、今回の戦略的提携により富士通の「Uvance」でServiceNowが価値を提供していくことになります。富士通の戦略に沿った形で進めていきます。
また、今回の提携はグローバルなもので市場もグローバルなため、世界に通用する協業モデルを構築していきたいと考えています。
テーマの1つが「Co-Innovation(共同イノベーション)」です。富士通と「Fujitsu-ServiceNow Innovation Center」を共同設立しますが、富士通のものを含めた生成AIの活用などを進めていくことになります。
また、Uvanceのオファリングの中にデジタルサプライチェーンなどがありますが、そこに対してServiceNowがしっかり価値を発揮できるよう、緊密に連携しながらCo-Innovationを進めたいと考えています。
--今回のようなグローバルレベルの提携が始まることは、日本が本社直轄となったから実現できたのでしょうか?本社直轄となることで、どのような変化があったのか教えてください。
鈴木:日本市場のニーズやリクエストはダイレクトに伝えられるようになりましたし、CEOをはじめ幹部が来日しています。
社員数は2年前と比べると約2倍になっており、本社のベンチャー投資事業であるServiceNow Ecosystem Venturesが日本でも始まり、すでに2件の投資を実行しました。米国以外では初となります。
パートナーエコシステム、テレビCMを含むマーケティングへの投資なども行っており、先ほども述べたように第1四半期はServiceNow Japan史上で過去最高の成長を遂げることができました。
部分的な取り組みではなく、全社的に業務のデジタル化を
--SoRからSoE、SoAへ、日本企業のフォーカスを変えていくためにどのような活動を進めていますか?
鈴木:われわれの命題と捉えて取り組んでいます。当たり前のことですが、お客さまがどのような課題を抱えているのかを理解したうえで価値提案をしていくことを、優秀なメンバーを揃えてしっかりやる。これが大切だと考えてます。
これに加え、トップランナーにスポットを当てることも重要だと考えています。欧米の事例もありますが、日本独自の事例を作っていくことですね。富士通などは、かなり進んだ事例になると思います。また、NTTはKnowledgeでも講演しており、日本のユーザーに対して良い刺激になっていると思います。
それから生成AI。どのベンダーも生成AIを打ち出していますが、ServiceNowとしても私自身としても、企業が生成AIやAIを業務に適用していくことが重要な取り組みになります。多くの経営者と話していますが、昨年後半から試行錯誤が始まっています。
一方で、全社員が「ChatGPT」などの生成AIを使えるように環境やガイドラインを整備したが、なかなか効果が実感できないみたいな話もよく耳にします。われわれは、個人の業務だけではなく、複数の関係者や業務部門の業務に対して、いかにAIの機能を取り込み、効果を出していくかを重要視しています。
典型的な例として、ServiceNowには業務、プロセス、オペレーション、システムをつなぐデジタルワークフローがありますが、ここで生成AIを活用することで実現できます。ここをしっかり訴求することで、日本のお客さまの生成AI活用に貢献していきたいと考えています。
個人業務の効率化はどんどんすべきですが、大きな効果を刈り取るためには業務のプラットフォームがあり、そこで回る業務に対して生成AIを活用することです。ServiceNowはプラットフォームに生成AIが組み込まれているので、意識せずに生成AIのメリットを享受することができます。そのような環境を意図して作ることは大切です。
このような取り組みを続けることで、エンゲージメントやアクションレイヤの重要性に気付いていただけると思います。
--ServiceNowが掲げる「プラットフォームのプラットフォーム(Platform of platform)」の考え方はユニークですが、ServiceNowの効果的な利用に成功している企業に共通したパターンはありますか?
鈴木:成功しているユーザーは、経営陣も含めた変革への意志があり、この点は重要だと思います。大きな効果を出すためには、部分的な取り組みではなく全社的、エンドツーエンドで業務をデジタル化していく必要があります。
そのために、ServiceNowを活用するという視点を持っていただきたい。IT部門が旗振り役になることは大切ですが、経営のアジェンダの1つとして改革を進めていくと同時に、実際にプロジェクトや変化を進める“チェンジリーダー”の推進力の強さも必要です。
その上で、例えばCOE(Center of Excellence)を組成するなど、仕組みとしてガバナンスを効かせて遂行できる体制を作ることも重要だと考えています。