早稲田大学(早大)は4月22日、硫黄を含む水素結合を組み込んだ独自の高分子を設計し、従来達成が難しいとされていた1.8以上の超高屈折率と透明性を両立、使用後には分解できる新しいプラスチックを開発することに成功したと発表した。
同成果は、早大 理工学術院の小柳津研一教授、同・渡辺清瑚次席研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、ナノテクノロジーを含む材料科学に関する学際的な分野を扱う学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。
高屈折率ポリマー(HRIP)は、有機発光ダイオード(OLED)などの発光デバイスの輝度や効率の向上に欠かせない材料で、デバイスのコーティング剤として使うことで、より多くの光を取り出せるようになる。近年の研究から、HRIPの屈折率の向上に関する研究が進展しているが、HRIPの開発においては屈折率と可視光透明性はトレードオフの関係にあるため、1.8以上の超高屈折率と、発光素子に適用できる十分な透明性を併せ持つものを実現するのは困難だったという。
そこで研究チームは今回、HRIPがフィルムなどの固体状態で生じる高分子鎖の隙間(空気など)が屈折率低下の要因であると捉え、分子間の相互作用力の1つである水素結合を組み込んで隙間を減らすことで、屈折率を向上させられると着想したとする。
研究チームがこれまでの研究で見出していたのが、硫黄を含むポリマーの1つであるポリ(フェニレンスルフィド)の側鎖に、水素結合性のヒドロキシ基を導入することで、屈折率が劇的に向上するということだった。今回の研究ではその概念が拡張され、HRIPの構造として「ポリ(チオウレア)」が着目された。
ポリ(チオウレア)に含まれる硫黄原子は分極しやすいため、密で無秩序な「分極性水素結合」を形成できる特殊な性質を示す。今回は、透明性を保てる範囲で硫黄含量をできるだけ大きくしつつ、高分子鎖の隙間の割合を減らした分子設計を施すことで、HRIPの屈折率と透明性を同時に向上させることに成功し、可視光域(約400~約800ナノメートル)で超高屈折率(1.8)と十分な透過率(92%以上)が達成された。
溶液プロセスにより均一で透明な薄膜も作製でき、ポリ(チオウレア)をコーティングした発光電気化学セル(LEC)の外部量子効率は、最高で12%(相対比)向上したという。またポリ(チオウレア)に対し、原料のジアミン化合物を添加して50℃で加熱するのみで急速に分子量が低減し、原料に近いレベルまで分解できることが解明された。この性質は、材料の循環性や再利用性の向上に寄与し、寿命を高めることにもつながるとする。
今回の研究で開発されたポリ(チオウレア)は、従来の光学材料が抱えていたトレードオフを解消できると同時に、穏和な条件での分解性を付与した初めての例であり、従来よりも低負荷で作動し、リサイクル可能な有機ELの実現が期待できるという。種々の基板に対して簡便に製膜できる点も魅力的で、「一塗りするだけで」発光効率を上げられる画期的な材料となる。
今回の研究で、ポリ(チオウレア)が超高屈折率と透明性を両立することは実証されたものの、その限界値は未解明である上、さらに厳密かつ迅速に分解可能な構造を探索する必要があるという。研究チームは今後、ポリ(チオウレア)の化学構造や硫黄含量などを精密に制御することで、使用時はさらに優れた屈折率と安定性を両立し、使用後のリサイクル効率の高いHRIPの実現につなげることを考えているとした。