大阪大学(阪大)は3月26日、綿/ポリエステル混紡繊維を分別・リサイクルする技術を開発し、綿はマテリアルリサイクルされ、ポリエステルはケミカルリサイクルにより「ポリエチレンテレフタレート」(PET)の前駆体である「テレフタル酸ビスヒドロキシエチル」(BHET)を高純度で回収したことを発表した。

同成果は、阪大大学院 工学研究科の宇山浩教授らの研究チームによるもの。

  • 今回開発された技術は、綿/ポリエステル混紡繊維から綿とPETの前駆体であるBHETを分別してリサイクルするというもの

    今回開発された技術は、綿/ポリエステル混紡繊維から綿とPETの前駆体であるBHETを分別してリサイクルするというもの(出所:阪大Webサイト)

アパレル・ファッション産業は、大量消費・大量廃棄のビジネスモデルが広がったこともあり、環境負荷が大きいことが指摘されている。世界では毎年、9200万トンほど衣料品が廃棄されており、焼却により多くのCO2が放出されてしまっている(人間活動のおよそ10%に相当)。また、繊維・衣料品の製造時には大量の水が消費されており(930億m3、500万人分の生活水)、さらに衣料品から50万トンのマイクロプラスチックが海洋に流出しているという(海洋に流出するプラスチックのおよそ5~6%)。

日本では、2022年に年間70万トンの衣料品が使用後に手放され、その34%がリユース(19%)や産業資材としての利用(15%)がなされているが、残りの66%は廃棄されている。世界の衣料品リユース市場は、2027年には2022年の約2倍になると推定されており、急速に拡大しているが、それらは古着売買やシェアリングサービスによるものだ。そのため、使用後の衣料品を原料とする繊維to繊維リサイクルを推進して、廃棄量や原材料調達・廃棄で発生するCO2排出量を削減し、環境負荷を低減することがアパレル産業に対して社会的に求められているとする。

課題は、衣料品の半分近くは綿/ポリエステル混紡繊維となっていることだという。綿は肌触りが良く、吸水性や保湿性に優れ、通気性がある。一方のポリエステルはシワになりにくく、型崩れしづらく、加工もしやすく、さらに速乾性に優れる。要は、綿/ポリエステル混紡繊維は両者の長所を兼ね備えるため、数多くの衣類に採用されているとする。しかし、プラスチックでもお馴染みだが、リサイクルには同一素材であることが必要だ。そこで研究チームは今回、マイクロ波照射に着目し、綿には作用せず、ポリエステルを選択的に分解する技術の開発を試みることにしたという。

  • 今回開発された技術の概要

    今回開発された技術の概要(出所:阪大Webサイト)

ペットボトルやポリエステル繊維の原料であるPETはテレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、前駆体であるBHETを経て、BHETの重合により製造される。今回開発された技術では、適切な触媒を用いることで、エチレングリコール中でポリエステル繊維を選択的に分解(解重合)することで、BHETに変換するというものだ。

そのための触媒の選定が重要だったが、今回の研究により、安全性に優れる安価なケミカルが高効率な触媒として作用することが見出されたという。同触媒は綿(セルロース)には作用しないため、反応液中に綿は繊維状で残り、回収することが可能。また、反応液から簡単な結晶化操作により、高純度のBHET結晶として取り出すことができ、さらにそこからPETを作り出せるとする。

マイクロ波照射は化学反応を迅速かつ効率的に進めることができ、今回の技術では、溶媒、触媒の選定を含めた適切な分解条件を設定することで、ポリエステルの分解が速やかに起こり、数分でポリエステルが100%分解されたとした。また綿の回収率は90%以上に達し、BHETの純度は100%だったという。

  • 分解反応前後の繊維の電子顕微鏡画像

    分解反応前後の繊維の電子顕微鏡画像。(左)分解反応前の混紡線維。(右)分解反応後に分別された綿繊維(出所:阪大Webサイト)

なお今回の技術は、現時点では大学設備の小スケールでの混紡繊維の分別・リサイクルだとする。そのため、研究チームは今後、回収率を向上させるためにさらなる技術開発と共に、アパレル企業などとの産学連携により、実用化に向けたプロセス開発・改良に取り組む計画としている