Infineon Technologiesが2024年3月5日、同社の第2世代SiCデバイスである「CoolSiC MOSFET G2」を発表した(https://www.infineon.com/cms/en/about-infineon/press/press-releases/2024/INFGIP202403-073.html)。これに関する説明会が4月12日に日本法人であるインフィニオン テクノロジーズジャパンにて開催されたので、その内容をご紹介したい(Photo01)。

  • 説明を行った本社のGiovanbattista Mattiussi氏

    Photo01:説明を行った本社のGiovanbattista Mattiussi氏(Product marketing director for SiC discretes)

CoolSiCは、同社が以前から発売しているSiCベースのMOSFETデバイスと、これを利用したモジュールの総称であり、古いところでは2012年にCoolSiC 1200V SiC JFETファミリーが発売されているし、2023年には650V TOLLポートフォリオが追加されているなど、順次製品群を充実させている。

今回発表のCoolSiC MOSFET G2は従来(第1世代)の「CoolSiC MOSFET G1」をさらに改良する事で、性能および性能価格比を向上させた製品とされる(Photo02)。

  • あくまで性能価格比が向上した

    Photo02:これだとまるで性能と一緒に価格まで飛躍的に向上したように読めなくもないが、あくまで性能価格比の方である

具体的な改良点として挙げられたのがこちら(Photo03)である。

  • Photo03:これらは細かい改良によって実現したとの事

    Photo03:これらは細かい改良によって実現したとの事

この中で電力損失の削減(Photo04)は使い方によって変わるとはいえ、5~10%のSwitching Lossが実現しているのは大きな数字であるし、また特にSiCの効率を語る際には外せない、軽負荷時の損失を大幅に削減しているのが特徴とされる(Photo05)。

  • Conduction LossはMOSFETとは無関係な部分

    Photo04:Conduction LossはMOSFETとは無関係な部分なので、システム全体で言えば削減率はもっと落ちるが、これはまた別の話である

  • Switching Lossが増える

    Photo05:軽負荷の場合、Conduction Lossは非常に影響が小さく、Switching Lossが増えるから、こちらでは効果が大きい

加えてSiCデバイスで問題となる接合技術に関して、Infineonは独自の「.XT interconnection」を利用しているが、これの第2世代が採用されたことで、より放熱特性や損失散逸能力が向上した、としている(Photo06)。

  • G2 .XTがG1 .XTからどう改良されたか、に関しての説明はなかった

    Photo06:G2 .XTがG1 .XTからどう改良されたか、に関しての説明はなかった

で、放熱特性というか損失散逸能力が向上する事で、同じ放熱能力であればより多くの電流を流せることになる訳で、その結果30%以上の電力密度向上につながったとする(Photo07)。

  • 同じパッケージのまま電力密度を引き上げられるから、例えば従来なら4つで構成されていた出力回路を3つに減らす、と言う事も可能になる

    Photo07:同じパッケージのまま電力密度を引き上げられるから、例えば従来なら4つで構成されていた出力回路を3つに減らす、と言う事も可能になる。もっともこれは最大値なので、常用値はここまで差が無い可能性はあるが

ちなみにG2に限った話では無いが、同社のSiCデバイスはSiデバイスと比較しても欠陥率は低めに推移している(Photo08)そうで、その意味でもSiデバイスからの置き換えが容易であるとする。

  • 欠陥率はSiよりも低い

    Photo08:Siは例えばIGBTの様なデバイスで、すでにこちらも十分欠陥率は低いのだが、それより低めに推移している辺りが同社のSiCデバイスへの知見を窺わせる

CoolSiC G1を含む競合製品と、1200V(Photo09)および650V(Photo10)における性能指数を比較した結果で言えば、G1はともかくG2はすべてのケースで競合より良い性能指数を示しており、よりエネルギー効率が高い、とする。

  • 競合製品比較
  • 競合製品比較
  • Photo09,10:比較対象はCoolSiC G1(NTBG030N120M3S)のほか、WolfspeedのC3M0032120J1、ロームのSCT4018KW7、STMicroelectronicsのSCT025H120G3AG、それとInfineonのNTBG030N120M3Sとなっている

すでにCoolSiC G2デバイスは順次出荷を開始しており、産業向けと車載向けの両方に用意されるとする(Photo11)。

  • CoolSiC G2の提供状況

    Photo11:オレンジがCoolSiC G2。車載向けはモジュール、産業向けはDiscreteの形でそれぞれ提供される

細かな出荷時期はこちら(Photo12)であるが、他にもこれ以外の電圧に対応した製品も色々計画しているという話であった。

  • 400Vというのはこれまであまり適用事例が無いマーケットとのことである

    Photo12:ちなみに400Vというのはこれまであまり適用事例が無いマーケットであり、逆にマーケットの開拓の意味も含めた製品展開との事だった

なお現在同社はオーストリアのフィラッハにある工場でSiCデバイスを製造中で、2025年度には10億ドル以上の売り上げを予定しているが、現在建設しているマレーシアのクリム工場が立ち上がると、2030年には70億ドル規模まで売り上げが伸びる可能性があるとしている(Photo13)。

  • クリム工場のロードマップ

    Photo13:クリム工場では、当初は150mm Waferでの製造だが、Phase 2では200mmに移行するとの事。フィラッハの方は現状150mmで長期的には200mmに移行する可能性があるが、とりあえずクリム工場が立ち上がれば生産能力は足りるので、急いで移行する計画はないとの事だった