東北大学は3月25日、紅ズワイガニの殻に含まれる不溶性の食物繊維の一種「キトサン」から作られたナノファイバー(ChNF)組織を制御し、厚さナノメートルサイズのシート材に半導体特性と蓄電特性が発現することを見出したと発表した。

同成果は、東北大 未来科学技術共同研究センターの福原幹夫学術研究員、同・橋田俊之特任教授、東京大学の磯貝明特別教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、物理学に関する全般を扱う学術誌「AIP-Advances」に掲載された。

半導体は、シリコンに代表される元素半導体と、ヒ化ガリウム(GaAs)や「π共役ポリマー」のような化合物半導体に代表されるものの2つに大別される。いずれも鉱物から金属精錬したものや人工の化合物であり、生産工程での所要エネルギーや環境負荷が大きいことが課題だ。

そうした中で研究チームは、絶縁体と認識されている紙・セルロースをナノサイズの微細構造体としたセルロースナノファイバー(CNF)を用いて、電荷分布や電子移動を計測し、「TEMPO酸化CNF」に高電圧短時間充電による高蓄電特性と、一年草のケナフ源のCNFにN型負性抵抗を示すn型半導体の諸特性を見出してきた。そこで今回の研究では、分子構造が植物性セルロースに類似し、しかも地球上2番目に多いバイオマス化合物である動物性キトサンに注目したという。

研究チームによると、キトサンにはケナフで発現できなかった高速充電性が見出されていると共に、液漏れなどの課題を克服できる固体型蓄電体を提供できる可能性があるという。また、半導体分野や蓄電分野において、キトサンのような天然由来の海産物バイオマス素材を利用できるようになると、廃棄物が低減されて循環型社会構築に貢献ができると同時に、地産地消に根差した新たな産業創出も大いに期待できるとする。

今回の研究では、動物性素材の代表としての紅ズワイガニの殻から作られたキトサンナノファイバー(ChNF)を原料として、ファイバーの長さを300nm以下に制御したChNFシートをAl電極で密着させたデバイスを作製したという。

ChNFシートのデバイスのI(電流)-V(電圧)特性、AC(交流)インピーダンス、周波数解析、蓄電性を測定したところ、電圧制御による電圧誘起半導体的特性が出現することが確認された。また、ChNFシートの-210~+80Vの範囲における操作速度1.24V/sの昇降電圧に対するI-V特性では、負電圧領域に電流の電圧依存性が反転する挙動、いわゆるn型半導体特性が示された。つまり、I-V特性はオームの法則に従わず、電圧の上昇に伴ってある電圧以上で電流が低下する負性抵抗が発現したのである。さらにその際、曲線は-180~-170V間で振動した。その-180Vにおける電圧振動の高速フーリエ変換(FFT)スペクトルを解析した結果、7.8MHzの交流波形が現れ、直流/交流変換が示されたとした。

  • -210V~+80Vの電圧間を1.24V/sの上下速度で掃引した時のI-V特性

    -210V~+80Vの電圧間を1.24V/sの上下速度で掃引した時のI-V特性。-210~-170V間にN型負性抵抗が現れ曲線は振動する。上の挿図は、-180Vで7.8MHzを示すFFTスペクトラム(出所:東北大プレスリリースPDF)

一方、R(抵抗)-V(電圧)特性の解析を行ったところ、昇圧-1V~0V間と降圧+2V~0V間に3桁のスイッチング効果を示す特性が見られたという。また、2mAの電流で10~500Vの電圧まで5秒間充電した後に、1μAの一定電流で放電した時の充電電圧に対する蓄電量の変化が調べられたところ、蓄電量は電圧の増大に伴って直線的に増加し、450Vから急増することがわかったとのことだ。

  • 昇電-1V~0V間と降電0V~+2V間に3桁のスイッチング効果を示すI-V特性

    昇電-1V~0V間と降電0V~+2V間に3桁のスイッチング効果を示すI-V特性(出所:東北大プレスリリースPDF)

  • ChNFデバイスの荷電圧と蓄電エネルギーの関係

    ChNFデバイスの荷電圧と蓄電エネルギーの関係。上挿図は、2mA-500Vで5秒間充電した後の1μAの一定電流で放電した放電挙動(出所:東北大プレスリリースPDF)

次に、ChNFシートのACインピーダンス特性を計測したところ、低抵抗と高抵抗の2つの半円を持つナイキスト線図が得られたという。2つの半円は、原子間力顕微鏡画像の観察から、それぞれ120~350nmの針状や球状から成る甲殻類外骨と細胞壁組織からの寄与と推察され、このナイキスト線図の特性より、ChNFシートは、DCおよびAC電流領域での等価回路を持つことが考えられるとした。

  • 2つの半円からなるナイキスト線図

    2つの半円からなるナイキスト線図(出所:東北大プレスリリースPDF)

さらに、半導体特性の電子の起源を究明するため、ESR解析が試みられた。電子の起源を決定づける一重項対称のピークを観察し、スペクトル強度の線図が横軸と交わる磁場のg値から、キトサンの生成電子はアモルファスキトサンに生ずるアミニルNHラジカル起因の電子であることが考えられるとしている。

  • (a)ESRスペクトラム。(b)ムコ多糖類ChNFの分子構造

    (a)電子の起源としてアミニルNH基の不対電子ラジカルを示すESRスペクトラム。(b)β-1,4結合グルコサミン基とNHアミニル基を持つムコ多糖類ChNFの分子構造(出所:東北大プレスリリースPDF)

研究チームは今回の成果に対し、低密度軽量半導体・蓄電体作製を通じて、天然由来のバイオ素材、しかも四方を海に囲まれた日本に豊富に存在する海産物および昆虫資源を活用することで、地球の生物循環システムを活用したバイオエレクトロニクスが発展することが期待されるとしている。