東レは3月18日、半導体やディスプレイ向けの絶縁樹脂材料であるポリイミドコーティング剤(製品名「セミコファイン」および「フォトニース」)をベースに、ハイブリッドボンディング(微細接合)に対応した新規絶縁樹脂材料(ポリマー)を開発したことを発表した。

近年用いられている高性能パッケージング技術の代表的手法の1つに、半導体チップを縦積みする「三次元実装」がある。その中でも特に、バンプピッチ(ハンダで接合された隣り合う電極間の間隔)が10μm以下の微細構造を必要とする高性能半導体チップにおいては、微細接合用の技術であるハイブリッドボンディングの適用が期待されている。同技術は従来の3次元実装技術とは異なり、バンプを用いずに金属配線同士を直接接合させることから、配線距離のさらなる短縮が可能となるというメリットがある。

  • 次元実装パッケージ断面模式

    3次元実装パッケージ断面模式図。バンプ有(左)とバンプ無(右)によるパッケージ密度の違い(出所:東レWebサイト)

ハイブリッドボンディングは、異種チップの高密度実装のため、ウェハ基板の一方をチップサイズに加工した後に、もう一方のウェハ基板に貼り合わせるC2W(Chip to Wafer)の実装方式が注目されており、絶縁材料としては二酸化ケイ素(SiO2)などの無機材料が適用されている。しかし、C2Wの適用について、現状主に2つの課題があるという。1つ目は、チップに加工する際のダイシング工程で生じるシリコンダストをハイブリッドボンディング時に噛み込んでしまい、チップの接合不良を起こし歩留まりが低下するという点。2つ目は、噛み込んだシリコンダストが半導体パッケージの信頼性を損なうリスクとなる点。

  • 無機ハイブリッド基板と、有機ハイブリッド基板のシリコンダストの影響比較

    無機ハイブリッド基板(上)と、有機ハイブリッド基板(下)のシリコンダストの影響比較(出所:東レWebサイト)

そうした中、同社はシンガポール科学技術研究庁における半導体分野の研究機関であるIME(Institute of Microelectronics)を含めた半導体関連企業との連携により、ハイブリッドボンディングの実験実証を2020年から進めている。同実証実験では、同社が新たに開発した高耐熱性と高機械物性を有するポリマーが、C2W方式のハイブリッドボンディングの絶縁層に適用されている。ポリマーを使うことで、異種チップを1つのパッケージに実装するチップレットの歩留まりと信頼性の向上を実現できるという。

  • ポリマーを用いたハイブリッドボンディング後の断面画像

    ポリマーを用いたハイブリッドボンディング後の断面画像(A*STAR Institute of Microelectronicsとの連携による成果)(出所:東レWebサイト)

従来の絶縁層がSiO2の場合、接合する際にシリコンダストが硬いため、間に挟まってしまうとボイド(隙間)が発生してしまっていた。それに対し、絶縁層が柔らかいポリマーだと、シリコンダストを吸収できるという利点がある。そのため、ボイドフリー接合が可能となり、結果として歩留まりの低下を避けられるほか、ボイドと同様にしてクラックも避けられるため、2つ目の信頼性の低下という問題も回避できるとのこと。

なお同社は、今回開発された材料を、半導体デバイスや電子部品に適した各種樹脂製品に新たにラインナップとして加え、高速通信機器やサーバー用途への活用が期待される高性能な次世代半導体パッケージなどでの採用を目指すとし、今後、試作や顧客へのサンプル提供を進め、2025年の材料認定、2028年の量産を目指すとしている。