Intelは3月20日(米国時間)、米国商務省と米国国内の4拠点における半導体開発・製造強化に向け、CHIPS and Science法(CHIPS法)に基づき最大85億ドル(約1.3兆円)の直接資金を提供する拘束力のない予備的覚書(PMT)に合意したと発表した。今後、このPTMに基づき、詳細な支払い条件などを詰めることになるが、米国政府によるIntelへの85億ドル規模の助成金支給が事実上決まったこととなる。

米国政府は、「最先端のロジックチップは人工知能などの世界最先端の技術に不可欠であり、今回の資金提供はこうしたチップの国内開発・製造を確実にするためのものであり、これにより、半導体製造における米国のリーダーシップを再確立する。Intel 18Aなどの最先端プロセステクノロジーや高度なパッケージングテクノロジーをファウンドリサービスと組み合わせることで、これらの高度な半導体を国内で確実に供給できるようになり、米国企業がAI業界をリードできるようになる」と助成金支給の意義を強調している。

  • アリゾナ州チャンドラーのIntelの半導体工場を視察するバイデン大統領とレモンド商務長官、それを迎えるパット・ゲルシンガーCEO

    アリゾナ州チャンドラーのIntelの半導体工場を視察するバイデン大統領とレモンド商務長官、それを迎えるパット・ゲルシンガーCEO (C)Intel

CHIPS法に基づく助成金支給決定はこれで4社目かつ最高額を更新した。今後、TSMCやSamsungへの助成金支給も発表されるものと思われる。

今後5年間で米国に1000億ドルを投資するIntel

Intelは、今後5年間で米国内のアリゾナ州、ニューメキシコ州、オハイオ州、オレゴン州の4州の拠点での生産能力拡大に向け、1000億ドル(約15兆円)を超す資金を投じる予定としており、これにより1万人を超す半導体人材と2万人近くの建設業関連雇用が創出される見込みとしている。今回の85億ドルの助成金には、同社の半導体人材および建設労働人材育成のための専用資金として約5000万ドルも含まれており、これは過去5年間で総額2億5000万ドルを超すIntel自身の従業員への投資と、地域コミュニティ、コミュニティカレッジ、大学、歴史的黒人大学(HBCU)、および実習プログラムとの強力なパートナーシップの実績に基づいて支給される。

米商務省のジーナ・レモンド長官は今回の発表について、「経済と国家の安全を確保するために必要な最先端半導体が米国製であることを保証するためのバイデン大統領の長年の取り組みと議会での超党派の努力の集大成である」と述べている。また、Intelの最高経営責任者(CEO)であるパット・ゲルシンガー氏は、「CHIPS法の支援は、Intelと米国がAI時代の最前線に立って、我が国の将来を支える回復力と持続可能な半導体サプライチェーンを構築するのに役立つ」と述べている。

Intelの1000億ドル投資の内訳

Intelが今回の投資を実行することは、半導体業界をリードする米国ファブレス半導体企業たちを米国内の最先端生産技術で支援することを可能にするものだと米国政府は説明している。助成金には、Intelが申請時に提案した各拠点での主要技術プロセス強化に振り分けられることとなる。

アリゾナ州チャンドラー

2つの新しい最先端ロジックファブの建設と1つの既存ファブの改修により、最先端となるIntel 18Aの大量生産を含む最先端ロジック生産能力を向上させることとなる。また、将来のIntel 10Aでは、RibbonFET(GAAトランジスタ)とPowerVia裏面電力供給網が新たに採用される。同拠点では「Clearwater Forest」と呼ばれる最初のIntel 18A製品が生産される予定で、今回の投資によって3000人の製造人材と6000人の建設雇用が創出される見込みだという。

  • アリゾナ州チャンドラー

    アリゾナ州チャンドラーの新工場建設の様子 (C)Intel

ニューメキシコ州リオランチョ

2つの工場が先進パッケージング施設に改修される予定。これらの施設がフル稼働すると、米国最大の先進パッケージング施設となる。この投資により、700人の製造人材と1000人の建設雇用が創出される見込みだという。

  • ニューメキシコ州リオランチョ

    ニューメキシコ州リオランチョの工場外観 (C)Intel

オハイオ州ニューアルバニー

2つの先端ロジックファブの建設ならびに先端ファウンドリ能力の拡大、サプライチェーンの多様化を核とした、半導体製造エコシステムの創設を目指すとしている。この投資の一環として、Intelの設計・建設パートナーであるBechtelは、2つのファブ建設に向けて北米建築労働組合とプロジェクト労働協定(PLA)を締結しており、この投資によって3000人の製造人材と7000人の建設雇用が創出される見込みだという。

  • オハイオ州ニューアルバニー

    オハイオ州ニューアルバニーの新工場建設の様子 (C)Intel

オレゴン州ヒルズボロ

世界初の高NA EUV露光装置を採用する技術開発施設の拡張と最新施設への改修を通じた米国での最先端半導体技術開発拠点としての投資が予定されている。オレゴン州ヒルズボロのロンラー・エーカーズにあるゴードン・ムーア・パーク・キャンパスは、米国における最先端の半導体研究と技術開発におけるIntelのイノベーション・ハブの中心地であり、今回の投資により、同社の技術的リーダーシップが強化され、新たなイノベーションの継続的な開発が可能になるとしている。すでに2022年、Intelはオレゴン州全域の500以上のサプライヤに40億ドル以上の資金を投じており、これは数千の製造業と建設業の雇用を支援することになるという。

  • オレゴン州ヒルズボロ

    オレゴン州ヒルズボロのIntel拠点外観 (C)Intel

85億ドルの補助金に加え110億ドルの政府融資も

Intelは現在、米国工場については100%再生可能電力を使用しており、効率的な水管理、水の再利用、そして地元コミュニティと協力して地元流域の水再生への投資を行っている。また、広範な従業員福祉プログラムの一環として、自社施設全体で従業員に手頃な価格で利用しやすいさまざまな質の高い保育サービスを提供することにも取り組んでいる。米国政府は、助成金支給の前提条件として、地域の学生の教育・訓練や従業員の家族向け保育施設の設置に至るさまざまな事柄を上げており、今後、助成金支給に向けてそれらの項目についての審査が進められていくことになる。

また、Intelは今回の最大85億ドルの直接資金提供に加えて、商務省傘下のCHIPSプログラムオフィスから最大110億ドルの融資を受ける予定ともしている。これは、CHIPS法によって提供される750 億ドルの融資権限の一部であり、Intelはこの融資を利用可能な企業となっている。同社は、米財務省の投資税額控除を申請する計画で、その額は適格資本支出の最大25%となる見込みだという。

なお商務省は、IntelとのPMTが署名された後、Intelから提案されたプロジェクトに関する包括的なデューデリジェンスプロセス(投資を行うにあたり、投資対象企業や投資先のリスクなどを調査するプロセス)を開始し、申請者と特定の条件について交渉または調整を続け、最終的にPMTの条件とは異なる条件で決着する場合があるともしている。