インド宇宙研究機関(ISRO)は2024年2月27日、有人宇宙飛行ミッション「ガガンヤーン(Gaganyaan)」で飛行する、最初の4人の宇宙飛行士を発表した。
選ばれたのはいずれもインド空軍のパイロットで、早ければ2025年にも、このうち1~2人がガガンヤーン宇宙船に乗って飛行する予定となっている。
選ばれた4人の宇宙飛行士
宇宙飛行士の発表はナレンドラ・モディ首相の立ち会いのもと、ISROのヴィクラム・サラバイ宇宙センターで行われた。
選ばれたのはプラシャント・バラクリシュナン・ナイル(Prashanth Balakrishnan Nair)氏とアジット・クリシュナン(Ajit Krishnan)氏、アンガド・プラタップ(Angad Pratap)氏、シュバンシュ・シュクラ(Shubhanshu Shukla)氏の4人で、いずれもインド空軍のパイロットである。
ナイル氏は1976年生まれで、国防士官学校を卒業したのち、1998年にインド空軍のパイロットとなった。テスト・パイロットとしてさまざまな航空機の操縦経験をもち、飛行時間は3000時間を超える。
クリシュナン氏は1982年生まれで、国防士官学校を卒業したのち、2003年にインド空軍のパイロットとなった。飛行インストラクターを務めており、さまざまな航空機で、合計約2900時間の飛行経験を持つ。
プラタップ氏も1982年生まれで、国防士官学校を卒業したのち、2004年にインド空軍のパイロットとなった。飛行インストラクター兼テスト・パイロットを務めており、約2000時間の飛行経験を持つ。
シュクラ氏は1985年生まれで、国防士官学校を卒業したのち、2006年にインド空軍のパイロットに就任した。戦闘機パイロットとして、またテスト・パイロットとして、約2000時間の飛行経験を持つ。
4人を紹介したモディ首相は、「彼らは単なる4人の名前や個人ではなく、14億人のインド人の宇宙への希望を運ぶ、4人の『シャクティ』なのです」と称えた。
4人は現在、ロシアの宇宙飛行士訓練センター、通称「星の街」で、宇宙飛行士の訓練を受けているという。そして、早ければ2025年にも、この4人のうち1~2人がガガンヤーン宇宙船に乗り、宇宙飛行に飛び立つことになるとしている。
ガガンヤーン宇宙船は、今年中に2回の無人飛行試験を行う予定となっている。最初の飛行は2024年第2四半期に予定されている。
2月21日には、宇宙船の打ち上げに使う「LVM3」ロケットの第3段エンジン「CE20」の地上認定燃焼試験が完了したことが発表されている。
また、インドの報道によると、ISROは米国の民間企業アクシアム・スペースと契約し、同社が実施する民間宇宙飛行プログラム「アクシアム・ミッション4」に、選ばれた4人のうち1人を参加させる可能性があるという。事前に宇宙飛行の経験を積ませることで、ガガンヤーンのミッションに役立てることができるとしている。同プログラムでは、スペースXの「クルー・ドラゴン」宇宙船で国際宇宙ステーション(ISS)を訪れ、約2週間滞在する予定となっている。
ガガンヤーン計画とは?
ガガンヤーンはISROが進めている有人宇宙飛行計画で、実現すれば、ソ連(ロシア)、米国、中国に続き、自力で有人宇宙飛行を行った国として4か国目となる。
インドは1984年、インド空軍のテスト・パイロットだったラケッシュ・シャルマ氏が、インド初の宇宙飛行士として選ばれ、ソ連の宇宙船に乗って飛行している。また、インドで生まれ、米国に移住したあと米国航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士になった例もある。
しかし、ガガンヤーンは、インドが自分たちの手で造ったロケットと宇宙船で、インドの地から飛び立つという点で、過去のミッションとの大きな違い、そして意義がある。モディ首相は「インド人が宇宙へ行くのは、(シャルマ宇宙飛行士以来)40年ぶりです。しかし今回は、その時間も、そのカウントダウンも、そのロケットも、すべて私たちのものなのです」と、その意義を強調する。
ガガンヤーン(Gaganyaan)という名前は、サンスクリット語で「空」を意味する「ガガン(Gagan)」と、「乗り物」を意味する「ヤーン(Yaan)」をつなげた造語で、「空の乗り物」といった意味をもつ。
宇宙船は、宇宙飛行士が乗る「クルー・モジュール(カプセル)」と、太陽電池やバッテリー、スラスターなどが収まる「サービス・モジュール」からなる。最大3人の宇宙飛行士を乗せ、高度400kmの地球低軌道に最大3日間滞在できる。打ち上げには、インドの最新、最大のロケット「LVM3」を、有人飛行用に改修して使う。
ガガンヤーン計画は2004年ごろから始まり、当初はロシアと多くの部分で協力するとされたが、その後関係性は薄れ、宇宙船をはじめ多くの部分がインドの自主開発となり、ロシアとの関係は宇宙飛行士の育成や、一部の機器の輸入といったことに限られている。
また、宇宙飛行士の訓練に関しても、現在はロシアの協力を得ているが、インド南部のバンガロールに訓練施設が建てられ、自国で行える環境が整いつつある。
2014年には、クルー・モジュールの無人試験飛行が行われ、サブオービタル飛行ながら大気圏への再突入技術が試験された。また2018年には、発射台で打ち上げ前のロケットに問題が起きたという想定で、宇宙船を脱出させるための緊急脱出システムの試験も行われた。
当初は2020年ごろにも無人での宇宙飛行試験、その後有人飛行を行うことが計画されていたが、2018年以降に宇宙船の設計が大きく変更されたこと、また2020年からは新型コロナウイルス感染症の影響もあり、計画は大きく遅れている。
モディ首相はまた、昨年11月に、2035年にインド独自の宇宙ステーションを建設するとともに、2040年には宇宙飛行士を月に着陸させるとする目標を宣言している。
参考文献
・Hon'ble Prime Minister of India Shri Narendra Modi visited VSSC
・PM visits Vikram Sarabhai Space Center (VSSC) in Thiruvananthapuram, Kerala | Prime Minister of India
・Crafting India's Space future at the Gaganyaan Astronaut Training Facility - YouTube
・Gaganyaan
・NASA Selects Axiom Space for Another Private Space Mission in 2024 - NASA