働き方が多様化したことにより、改めてオフィスという「職場」の在り方が見直されている。よりコミュニケーションを活性化させ、部署を超えたコラボレーションを生み出し、職員のウェルビーイングが実現できるオフィスとはどんな場所なのだろうか。

そんなテーマを掲げて東京本社の移転プロジェクトを行ったのが住友生命保険だ。2019年からスタートしたプロジェクトは、コロナ禍などの危機を乗り越えて2023年2月に、築地から東京ミッドタウン八重洲への移転を完了した。

1月22日~25日に開催された「TECH+働きがい改革 EXPO 2024 Jan.働きがいのある企業になるために今すべきこと」に同社 総務部長 小森弘倫氏が登壇。新オフィスへの移転プロジェクトの全容について語った。

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総勢約250名が参画した本社オフィス移転プロジェクト

1907年に創業した住友生命保険は、2018年に運動や健康診断受診を促進する健康増進型保険として「住友生命『Vitality』」を発売するなど、死亡や病気のリスクそのものを減らすことにも早くから取り組んできた。

また、「住友生命グループVision2030」では、2030年の在りたい姿として「ウェルビーイングに貢献する『なくてはならない保険会社グループ』」を提示。そのためには、自社の職員もまたウェルビーイングであるべきだと、さまざまな社内施策にも取り組んでいる。

  • 住友生命保険が目指す姿

こうした施策の1つとして、2019年に発足したのが東京本社オフィス移転プロジェクトだ。小森氏は「従来の築地オフィスは約25年前に構築されたものであり、設備の老朽化だけでなく、現代の働き方にそぐわない多くの課題があった」と話す。

「移転プロジェクトでは、部門を横断した若手職員によるプロジェクトチームや、オフィス設計や家具、ICT、カフェラウンジなどテーマごとの分科会を立ち上げました。また、全45部署から推進リーダーを立てるなど、総勢約250名が参画する体制でスタートしました」(小森氏)

  • プロジェクトの体制図

プロジェクトチームが最初に行ったのが、従来オフィスにおける課題の洗い出しだった。

全所属長とのミーティングや全職員アンケートなどを通じて見えてきたのは、「他部署との交流が少ない」「社内外の人脈が広がりにくい」「健康増進を実現する環境ではない」「閉鎖的で新しいアイデアが生まれにくい」といった課題だったという。

また、同時期に起こった新型コロナウイルス感染症の流行も移転プロジェクトに大きな影響を及ぼした。

「緊急事態宣言で東京オフィスは出社率が3割以下になり、移転プロジェクトの先行きが見えないこともありました。しかし、これはチャンスでもありました。働く場所と時間を選択できる時代だからこそ、オフィスは何のためにあるのかという本質的なテーマと向き合えたのです」(小森氏)

こうした気付きを取り入れ、新オフィスのグランドコンセプトが完成した。

それが、「つながる」「ひろげる」「先へいく」の3つである。

「つながる」とは多種多様な人や価値観、情報とつながりコミュニケーションを促進すること、「ひろげる」とは情報感度を高め、外部との協業や情報発信を行うことを指す。そして、「先へいく」とは未来のビジョンを持ち、変化を恐れず挑戦して先進の価値をつくることである。

  • 新オフィスのグランドコンセプト

これらのコンセプトを実現するため、新オフィスには「オープンでフラットな空間」や「コミュニケーションスペースの充実」「情報発信機能の拡張」「健康増進サポート」といった設備・機能が盛り込まれた。

コミュニケーション活性化と健康増進を意識したオフィス設計

住友生命保険の新オフィスは2023年2月、東京ミッドタウン八重洲の20~24階に誕生した。

小森氏は新オフィスの特徴について次のように説明する。

「オープンでフラットなオフィスづくりのために、執務エリアは間仕切りを一切なくしました。また、縦・横・斜めのコミュニケーションを促すために、役職にかかわらずフリーアドレスを採り入れました。さらに東西には2カ所の内部階段を設け、フロア間における人の流れを生み出すと共に、階段による健康増進効果も図っています」(小森氏)

内部階段の周辺にはコミュニケーションのハブとなるスペースも配置した。リビングやライブラリー、バール、カフェラウンジなどコンセプトの異なる6つのスペースは、ちょっとした雑談からミーティング、執務まで多目的に利用が可能だという。

業務効率を高め、快適に働けるよう、最新のICT設備も導入している。例えば、全国約1,500の拠点に向けて情報を発信できる社内スタジオや、リモートニーズに対応したWeb会議ブース、プレゼンに力を発揮するシアタータイプの会議室など、多様な働き方と業務に対応ができる。

  • 新オフィスの様子

新オフィスで特に注力しているテーマが「健康増進」だ。

1フロアあたり約4,100平米という広さを活かし、オフィス内に1週約200mのウォーキングコースを設置。3フロアを周回すると約720mのウォーキングが行える仕掛けだ。加えて、昇降式デスクなど健康増進に役立つオフィス家具を設置したり、オフィス内の診療所を拡張したりと、職員がより健康になるオフィスを目指してさまざまなサポートを行っている。

  • オフィス内のウォーキングコース

オフィス環境に対する職員満足度が大幅に向上

小森氏によると、こうした取り組みは移転後も継続して行われているとのことだ。

「新オフィスへの移転はゴールではなく、スタートと位置付けています。移転後に着手したのは、大テーマでもあったコミュニケーション活性化施策の『もっと!プロジェクト』です。3名の専属ファシリテーターを任命し、人と人をつなぐ施策を現在でも展開しています」(小森氏)

具体的には、パソコン本体へのネームプレート貼り付けという取り組みがある。フリーアドレスを導入したことでコミュニケーションは活性化したが、隣に座った人がどの部署の誰なのかわからないという課題が生まれた。そこで、パソコン本体に趣味などの自己紹介を書いたネームプレートを貼ることにより、会話のきっかけを生み出す狙いだ。

また、コミュニケーションの基本である挨拶を促進するための「あいさつ運動リレー」や、リアルなコミュニケーション促進を目的とした「ホームエリア懇親会」、所属を超えてランチをする「シャッフルランチ」、さまざまなテーマごとに集まる「テーマ別ミーティング」、職員の家族を対象としたオフィス見学「オープンオフィスデー」などの施策も開催している。

さらに、東京ミッドタウン八重洲に入居している小学校やこども園の子どもたちを対象に職場見学会等のイベントを実施するなど、社外に対してもコミュニケーション活動を行うほか、地域貢献活動にも注力しているという。

こうした取り組みの結果、移転から半年後に行ったアンケート調査では、オフィス環境全般への職員の満足度が平均4.5点から平均8.5点(10点満点)に上昇。出社率も上昇しており、特に移転前の課題として挙がっていた「所属を超えた交流」を評価するコメントが集まった。

  • オフィス環境へのアンケート結果

今後はこうした結果を基に、さらにPDCAサイクルを回してオフィス環境の向上に努めていくと小森氏は話す。

住友生命保険の取り組みは各所でも高く評価されており、CASBEEスマートウェルネスオフィス認証の最高位となるSランクを取得したり、2023年度日経ニューオフィス賞のニューオフィス推進賞を受賞したりと、注目を集めている。

同氏は最後に「東京本社に勤務する2,000名がいきいきと新しい働き方に挑戦し、働きがいを実感して、より健康に、ウェルビーイングになれるようにしたい。それでこそ、ステークホルダーのウェルビーイングに貢献できる」と述べ、講演を締めくくった。

* * *

大規模な東京本社移転プロジェクトの結果、職場環境が大きく改善し、働きがいの向上や職員の健康増進など多くの好影響が生まれた住友生命保険。新しい時代における働き方を考える上で、同社の新オフィスや施策は大いに参考になるはずだ。

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