「2023年はAIを語る段階であったが、2024年は生成AIをフル活用する年になる」ーー。日本マイクロソフトの津坂美樹社長は、20日に東京ビッグサイトで開催された同社のイベント「Microsoft AI Tour - Tokyo」の基調講演でこう切り出した。

津坂氏は続けて、「経済産業省の調査によると、日本における生成AIの経済効果が、2025年度までに中小企業で11兆円、日本全体で34兆円のインパクトがある。これは日本のGDP(国内総生産)の約6%に達する」と、生成AIが社会に及ぼす影響を述べた。

  • 日本マイクロソフト 代表取締役 社長 津坂美樹氏(20日、東京都江東区)

    日本マイクロソフト 代表取締役 社長 津坂美樹氏(20日、東京都江東区)

AIサービスの顧客数は約5万3000社

マイクロソフトは、企業のあらゆる業務を支援する生成AIソリューション「Copilot」の提供を加速させている。同社によると、Copilotを先行導入している国内企業の7割以上で生成AIがすでに業務で必須のツールになっているといい、「70%が生産性の向上を感じ、67%の人が時間の節約ができたと回答している。私自身もCopilotを毎日のように使っており、今となっては手放せないほど」(津坂氏)とのこと。

さらに同社の試算で、生成AIへの1ドルの投資に対して3.5ドルのリターンがあるという結果が出ていることにも触れた。「全社規模で利用する『AIの民主化』はどんどん進んでいる」(津坂氏)

また、主力のクラウド基盤「Azure(アジュール)」を通じて提供するAI関連サービス「Azure AI」の顧客数が世界で約5万3000社に達したことも明らかにした。そのうち日本では数千社が採用。初めてAzure AIを利用した新規顧客がグローバルで3分の1以上を占めているという。加えて、生成AIの企業導入・利用を支えるというパートナープログラム「Microsoft AI Partners」に参加する日本企業は150社以上に増加している。

  • 「Azure AI」や「Copilot」を導入する日本企業は増えている

    「Azure AI」や「Copilot」を導入する日本企業は増えている

「今日からはじめてもらいたいことがある。それはAIの筋トレ。私自身、毎日毎日Copilotを使い続け、Copilotと議論を繰り返すことで、自分にAIの筋肉が付いてきたと実感している」(津坂氏)

  • 津坂氏の講演内容を「Copilot」が要約した

    津坂氏の講演内容を「Copilot」が要約した

約8割のCopilotユーザー「もはや手放せない」

基調講演には、米Microsoft エグゼクティブ バイス プレジデント(EVP)兼チーフマーケティングオフィサー(CMO)の沼本健氏も登壇した。「AIはこれからやってみるという技術ではない。すでに個人の生産性を高め、チームの協業の仕方を変え、すべての業界でAIが活用されている段階にある」と切り出した。

  • 米Microsoft エグゼクティブ バイス プレジデント(EVP)兼チーフマーケティングオフィサー(CMO) 沼本健氏

    米Microsoft エグゼクティブ バイス プレジデント(EVP)兼チーフマーケティングオフィサー(CMO) 沼本健氏

沼本氏は日本企業を対象にした調査結果を紹介。これによると、ユーザーの77%が情報検索の短縮効果を実感し、71%が日常の煩雑な作業の削減に貢献しているとし、週当たり平均1.2時間の削減効果をもたらしているという。さらに、Copilotの先行ユーザーの77%がもはや手放すことのできないツールと回答。また、社員が英語による会議に出席した際に、Copilotを使った会議内容のまとめに関する精度は97%に達しているとのことだ。

  • 「Microsoft Copilot」の導入効果(マイクロソフト調査)

    「Microsoft Copilot」の導入効果(マイクロソフト調査)

日本企業でも活用が進む生成AI

基調講演にゲストとして登壇した、Copilotのユーザー企業である本田技研工業 執行職 デジタル統括部長の河合泰郎氏は、「ホンダでは、生成AIを3階層で捉えている」と紹介。インターネット上にある一般常識を高いレベルで知識化したレイヤ、日々の業務の中で出てくる情報や知識を知識化したレイヤ、そして、専門性のあるノウハウを知識化したレイヤの3階層だ。Copilotは2層目のレイヤで活用しているという。

「生成AIが進展することで、本来やるべき意思決定や思考に注力でき、その結果、競争優位につなげることができる。負けないためには、早く使うことが競合優位性の観点から見ても重要だ」(河合氏)

  • 本田技研工業 執行職 デジタル統括部長 河合泰郎氏

    本田技研工業 執行職 デジタル統括部長 河合泰郎氏

また、開発者支援ツール「GitHub Copilot」の「日本最大規模のユーザー」(沼本氏)というサイバーエージェント 専務執行役員 技術担当の長瀬慶重氏もゲストとして登壇。同氏は「現在1000人以上のエンジニアがGitHub Copilotを使っており、優れた事例を社内で共有している。すでに生産性は10%向上したが、今後3年程度で1人のエンジニアが1.5倍働けるようにしていきたい」との見通しを示した。

  • サイバーエージェント 専務執行役員 技術担当 長瀬慶重氏

    サイバーエージェント 専務執行役員 技術担当 長瀬慶重氏

沼本氏は講演の最後に、「企業のDXでうまくいかない場合のほとんどが、事業戦略が明確でなかったり、組織や文化に問題があったりというように、技術的な要素でないことが大半だ。生成AIの活用もこれと同じだ」と指摘し、「事業戦略や技術戦略だけでなく、AIの戦略、また組織の文化や、AIガバナンスをしっかりと構築する必要がある。マイクロソフトは技術以外の観点からも日本の企業を支援していきたい」と、意気込みを述べた。