理化学研究所(理研)と筑波大学は2月19日、アルコールの一種であるエタノールを投与することで、トマトの高温ストレス耐性が強化されることを発見したと発表した。
同成果は、理研 環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チームの関原明チームリーダー、同・戸高大輔研究員、筑波大 生命環境系の草野都教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、植物生物学の基礎に関する全般を扱う学術誌「Frontiers in Plant Science」に掲載された。
近年、熱波などの異常気象の発生頻度が増加している。厳しい高温条件は植物にとってストレス要因であり、作物がダメージを受けて収量が低下してしまう危険性がある。また、2050年までに世界の総人口は100億人に達すると予想され、食糧不足が懸念されている。これらの課題を解決する有効な手段の1つとして、高温などの環境ストレスに強い植物(環境ストレス耐性植物)を作り出す技術を開発し、作物の生産に利用することが考えられている。
そうした中、安価で入手しやすいエタノールを投与することによって、植物の塩ストレスや乾燥ストレスなどのさまざまな環境ストレス耐性が強化されることを発見してきたのが研究チームだという。そこで今回の研究では、エタノールを投与することで、トマトの高温ストレス耐性がどのように変化するのかを調べることにしたという。
研究では、ポットに植えられたトマトの実験用モデル品種「マイクロトム」を、20mMのエタノール水溶液が入ったトレーに3日間置く形でエタノール投与を実施。その結果、50℃の環境下に4時間置いた場合の生存率が上昇し、高温ストレス耐性が向上することが示されたという。また、同様にエタノール投与が行われた後、50℃の環境下に2.5時間置いたところ、果実の生育において高温ストレスによるダメージの低減が見られたとする。
さらに、エタノールによる高温ストレス耐性強化のメカニズムの解明に向けて、遺伝子発現や代謝産物の量的変化を「トランスクリプトーム解析」や「メタボローム解析」により網羅的に調べたところ、エタノールの投与によって、ストレス応答性遺伝子「LEA」の発現量が増加することが判明したとする。
LEAタンパク質は、液-液相分離によって形成される凝集体(膜のないオルガネラともいわれる)「コンデンセート」の形成制御に関わっていることから、エタノール投与された植物の細胞内において、高温ストレス耐性に有利なコンデンセートが形成されている可能性が示唆されたという。
また、活性酸素種の除去に関わる酵素をコードする遺伝子の発現量も増加することが確かめられたともしている。活性酸素種は大量に蓄積すると生体内で悪影響を及ぼすことから、除去に関わる酵素の増加は活性酸素種の影響を減らすことでストレス耐性の向上に寄与することが予想されるという。
さらに、「グルコース」や「フルクトース」などの糖類が蓄積することも突き止められたともする。研究チームの最近の研究により、エタノール投与されたシロイヌナズナでは、糖新生が活性化されて取り込まれたエタノールが糖に変換され、植物成長の促進に役立っていることが示されており、トマトにおいても同様に糖新生が活性化している可能性が示唆されたという。これらの複合的な作用機序によって、エタノールが投与されたトマトでは、高温ストレス耐性が向上していることが考えられると研究チームでは説明している。
なお、今回の技術について研究チームでは、トマトの栽培品種をはじめとする作物の生産現場に応用されることが期待できるとしているほか、エタノール事前投与の時期や方法を検討することにより、高糖度トマトの栽培技術に応用できる可能性もあるとしている。