TSMCは1月18日、2023年第4四半期の決算説明会を開催。同説明会にて、投資家などからの質問に対し、同社の魏哲家(C.C. Wei)CEOや劉徳音(Mark Liu)会長がさまざまな視点から回答を行い、2024年の見通しを示した。
2024年のファウンドリ業界は前年比20%の成長率を期待
Wei CEOは2023年の半導体業界を困難な年だったと振り返る一方、生成AI関連アプリケーションの台頭を目の当たりにした年でもあったともする。
また2024年の設備投資計画は280〜320億ドルとしており、そのうち70%~80%を先端プロセス向け、約10%~20%を特殊プロセスに、約10%を先進パッケージング・テスト・マスク作製などに投じる計画としているほか、減価償却費については、主に3nm技術の強化によって前年比で30%近く増加することが予想されるともしており、そうしたテクノロジーリーダーシップによって同社は将来のAIやHPC関連の成長機会を獲得できる立場にあることを表明した。
2024年の半導体市場については、ファブレス業界の在庫が健全な水準に戻ると予測している一方で、マクロ経済の低迷と地政学的な不確実性は依然として継続しており、消費者心理と市場の需要をさらに圧迫する可能性も指摘。ただし、TSMC単体で見た場合、事業成長性はすでに底を打っており、強い需要が続く3nmプロセスにけん引される形で2024年は健全な成長の年になるとの予想を示している。そのため、2024年通年で、メモリを除く半導体市場全体の成長率を同10%以上の増加と予測しているほか、ファウンドリ業界の成長率については同約20%増との予想を示し、TSMCはテクノロジーリーダーシップと幅広い顧客ベースに支えられ、そのファウンドリ業界平均成長率よりも高い成長率を達成できるとの予想を述べている。
3nmプロセスポートフォリオを拡充、長期的に活用されるプロセスに
また同氏は自社の3nmプロセスについて、PPA(パワー、パフォーマンス、エリア)とトランジスタ技術の両方において最先端の半導体技術となっており、世界中のほぼすべてのスマートフォン(スマホ)およびHPCイノベーターがTSMCと協力する形で3nmプロセスの製品への適用に取り組んでいるとし、すでに2023年下半期より売り上げが増加しており、2023年通年でもウェハ総収益の6%を占める規模にまで成長。今後のAIの成長にはより高性能な半導体プロセスを提供する必要があり、TSMCはそうした市場の多くを獲得できる有利な立場にあるとするほか、3nmプロセス「N3」の改良版となる「N3E」はすでに2023年第4四半期より量産に入っており、2024年の3nmプロセスの収益は前年比で3倍以上に増加する見込みだとしている。
さらに、より性能を向上させた「N3P」や高速動作を可能とする「N3X」など、N3テクノロジーのポートフォリオ拡充も継続して実施していくとしており、顧客から数年間にわたって使い続けられるプロセスへと育てていきたいともしている。
2nmの2025年の量産に向けた準備は順調
このほかWei CEOは、2nmプロセス(N2)について、2025年後半に顧客に提供される予定で、その際の密度とエネルギー効率は業界でもっとも先進的なものとなる予定としており、順調に開発が進んでいることを説明。デバイスの性能と歩留まりについては予定通りかそれ以上で推移しているとしている。
また、N2プラットフォームの一部として、バックサイド・パワーデリバリ(BSPD:裏面電源供給)を可能としたHPCなどに向けた「N2P」も開発が進められており、2025年下半期より提供が開始され、2026年より生産に移行する予定としている。同氏は、「N2とその派生製品はTSMCの技術的リーダーシップを拡大するものとなり、TSMCがAI関連における成長機会を獲得する礎となる」と期待を述べている。
すでにほとんどのAIイノベーターが同社と協力関係にあり、N3と比べてN2に対する顧客の関心とエンゲージメントも高いレベルにあるともしている。
28nm特殊プロセスの生産能力を拡大
2023年の同社の総売上高の約70%が16nmプロセス以下の先進的なプロセスによるもので、さらに今後数年で3nmおよび2nmプロセスからの売り上げが積み増しされるため、この比率はさらに高まる可能性がある。そのため、20nmプロセス以上の成熟プロセスの売上高は全体の約20%程度まで低下する見込みである。
しかし、だからといってそうしたプロセスに対するニーズがなくなるわけではないことからTSMCでは、「戦略的パートナーと緊密に連携して、顧客の要件を満たす特殊プロセスソリューションを開発し、差別化された長期的な価値を顧客に生み出すことである。TSMCの焦点は、単なる名目上の生産能力ではなく、特殊プロセスの生産能力を構築することである」としており、将来的には、28nmが同社の組み込みメモリアプリケーションのスイートスポットになるとの予測を披露。28nm特殊プロセスのニーズに応えることを目的に、台湾外の中国、ならびに日本や欧州でその製造能力の拡大を図っていくとしている。一部からは、半導体業界全体の28nmプロセスに対する生産能力が過剰になる可能性が指摘されているが、同社では差別化された特殊プロセスに対する需要は引き続き安定しており、成熟プロセスにおいてTSMCが選択され、将来的にも収益を確保し続けることは可能であるとの見通しを示している。
熊本工場の開所式は2月24日を予定
Liu会長は、そうした海外進出について、個客のニーズと政府の補助金や支援レベルに基づいて行っており、その基準こそが株主の価値を最大化するものとなるとしている。すでに建設が進んでいる日本の熊本工場については、28/22/16/12nm特殊プロセスが適用される予定だが、現在は装置の搬入および立ち上げが進められている段階であり、2024年2月24日に開所式が執り行われる予定のほか、2024年第4四半期からの量産開始見込みとなっているとする。
一方、米国アリゾナ州の工場建設については、米国政府によるインセンティブ(補助金)や税額控除について米国政府との交渉が継続して行われているとするほか、施設のサプライチェーンインフラストラクチャ、ユーティリティの供給、工場の設備設置などで進展があったとし、アリゾナ州の地元労働組合や貿易パートナーと緊密に連携し、強い関係を築き続けており、その中には最近アリゾナ州建築建設貿易協議会と新たな協力枠組みに関する協定を締結したことも含まれているとしている。この協定により、従業員のトレーニングと開発の強化、現場の安全性への取り組みの共有、現地従業員の雇用、定期的なコミュニケーションの確立など、TSMCの協力が拡大されることとなるとする。
このほか欧州では、独ドレスデンに特殊プロセス対応の工場を建設し、合弁パートナー(Infineon、Robert Bosch、NXP Semiconductors)と自動車および産業用途にフォーカスする予定としており、すでにTSMCとしてドイツ連邦政府、州政府、市政府との緊密なコミュニケーションを継続して行っており、ファブの建設も2024年第4四半期には開始される予定だとしている。
台湾での3棟目となる2nmファブ建設を検討
またLiu会長は、台南サイエンスパークでの3nmプロセスの生産能力を拡大していること、ならびに2025年の量産開始に向けたN2の工場として、新竹と高雄のサイエンスパークにファブの建設を建設中であるが、高雄では2nm対応ファブを2棟建設中で、今後の需要増に備えて3棟目も検討を進めていることを明らかにした。さらに、台中サイエンスパークでも、2nm以降の微細プロセスに対応する工場の建設を検討しており、政府の承認待ちの状態であるともしている。
同氏は台湾外の工場について、その初期コストは台湾の工場よりも高くなるが、TSMCとしてはコストを最小限に抑えて管理する自信があるとしており、コストギャップを解消し、収益性の高い成長を実現し、株主価値の最大化に向けた取り組みを継続していくと述べている。
2024年はLiu会長が退任、Wei CEOが新たな会長に
TSMCは2024年6月の定時株主総会後に会長職を退く予定で、次期会長には同6月に開催される取締役会を経てC.C.Wei CEOが選出される予定となっている。
Liu会長は「TSMCの成功は、最先端プロセス技術をもっとも効率的かつコスト効率の高い方法で大規模に提供することにかかっている」とし、6月の退任までに、TSMC幹部にTSMCの将来に向けたマイルストーン(中間目標)を示す意向を示しており、それにより2025年におけるTSMCのあるべき姿に向けた道筋を提示したいようである。