東芝と東芝インフラシステムズは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が委託する「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の一環として、電波マップを作成することでロボットの移動経路を制御する技術を開発し、ローカル5Gを活用したサーバ集約型技術により移動ロボット群のリアルタイム制御に成功したことを発表した。

EC市場の活性化に伴い物流量が増加している一方で、人口減少による労働力の低下や、2024年4月から適用されるドライバーの時間外労働の上限規制など、いわゆる2024年問題への対応が求められる状況となっているが、その解決には多くの課題が指摘されている。

そうしたさまざま課題に対応するため、物流倉庫や工場などでは自動搬送システムの導入などによる物流の効率化が進められている。しかし、現在導入が進められている自律走行型ロボットを用いた自動搬送システムは、通信の遅延やゆらぎによるロボットの制御ミスを防ぐことを目的に、移動計画や位置推定、制御などの機能をロボット本体に搭載する手法が多く用いられているという。そのため、ロボット1台当たりの設置価格や消費電力が高くなり、複数台のロボットを導入する場合のコストが高くなってしまう課題があるとする。

また、ロボットの消費電力が増加することで、充電頻度が増加し稼働率が低下してしまうという課題のほか、搬送する荷物の大きさや重さに対応した異なる種類やサイズのロボットが必要となると、さらなるコスト増となってしまうことも課題とされているのが現状だという。

このような背景を踏まえ、東芝と東芝インフラシステムズは、ポスト5G時代の自動搬送システムにおける移動ロボット制御技術の研究開発をNEDOの委託のもとで実施。その成果として今回、ローカル5Gを活用したサーバ集約型技術でロボットの移動経路を制御することに成功したことを明らかにした。

具体的には、ロボットの頭脳にあたる機能をサーバにて集約制御するシステムを開発したことで、ロボット本体は運ぶ機能のみを搭載するシンプルな構成とすることが可能となった。また、電波の遅延や干渉で制御信号がロボットまで到達せず、ロボットが停止するといった問題に対しては、低遅延特性・低ゆらぎ特性を持つローカル5Gを活用することで解決できたという。両社は、この技術を活用すれば、ロボット1台当たりの低コスト化と消費電力の低減を実現できるとするほか、充電頻度の抑制による稼働率向上も見込めるとしている。

  • 従来の自律走行型とサーバ集約型の自動搬送システムのイメージ

    従来の自律走行型(左)とサーバ集約型(右)の自動搬送システムのイメージ(資料提供:東芝、以下すべて同様)

このほか、物流倉庫や工場などでは荷物の搬入出に伴って物理的環境が常に変化するほか、通路に置かれた障害物の有無などによって電波環境が変動する問題があるが、ロボットが移動中にモニタリングしたローカル5Gの電波状況をサーバ側でマップに落とし込むことで、電波状況の強弱に応じてロボットの走行経路を動的に制御する技術も開発。この技術を活用することで、電波マップがロボット群からの電波受信強度情報をもとに逐次アップデートが行われることとなるほか、サーバもそうした電波マップの変化から走行経路上の電波受信強度を予測しながらロボットの経路を選択することができるようになり、ロボット群は受信強度が十分にある経路を効率よく停止することなく走行できるようになるという。

  •  電波マップに基づいてロボットの走行経路を動的に制御する技術実証の様子

    電波マップに基づいてロボットの走行経路を動的に制御する技術実証の様子

今回の取り組みでは12台のロボット群で実証が行われ、サーバ集約型の自動搬送システムを導入することで、中・大規模の物流倉庫や工場などにおいて自動搬送システムの導入コストをロボット100台に対して約10%低減できることが示されたとするほか、消費電力を約14%低減しつつ、稼働率を約16%向上させることが見込める結果を得たという。ロボットの台数に合わせた拡張性のあるシステム構成がされているため、100台以上のロボットが稼働する中・大規模の物流倉庫や工場などへの適用も可能だとしている。

なお、両社は今後、2025年の事業化を目指して物流倉庫や工場などでの実証を進め、物流の効率化と労働力不足の解決に貢献したいとしている。