中国のNANDフラッシュメモリメーカーであるYMTCが、Micron Technologyとその子会社Micron Consumer Products Groupに対して、YMTCが保有する8件の特許を侵害したとして米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に提訴したと、中国の人民日報の姉妹紙で国際ニュースを扱う環球時報(英語名:Global Times)など、複数の海外メディアが報じている。

中国のアナリストからは、今回の提訴について、中国のメモリ半導体メーカーが米国の半導体メーカーに対して正式に反撃を開始する画期的な出来事であることや、中国企業が半導体技術でも世界をリードし、メモリ分野で米国の制裁から自由であることを示すもので、YMTCの訴訟は法的にも国際ルールの観点からも完全に合理的なものであるとも見方がでていると環球時報では伝えている。

YMTCによると、Micronは市場シェアを獲得・保護するためにYMTCの特許技術を違法に使用しており、YMTCがこの訴訟を起こすことで、NAND市場からYMTCを締め出そうというMicronの試みに対処することができるようになるという。

フラッシュメモリ市場の調査・分析を行っているリバースエンジニアリング企業である加TechInsightsは2022年11月、YMTCがMicronに先行して232層3D NANDを製品化したことを報告しており、この製品が2023年に入ってSSDなどに搭載されていることも確認したことを報告している。

競合他社と並んで、もしくは先んじてより高層な3D NANDを実現していることから、YMTCは今回の起訴状で自社を、もはや新規市場参入者ではなく、世界の3D NAND市場において重要なプレーヤーとなっていると主張しているという。

YMTCは2018年に第1世代となる32層3D NANDの量産達成をして以来、2020年には128層3D NANDの開発に成功。2022年には他社に先駆ける形で232層3D NANDの生産を実現している。米国政府は2022年10月、中国への半導体製造装置の輸出を制限する輸出管理規制を発令したほか、同年12月には輸出管理のためのエンティティリストにYMTCを追加するなどの措置を講じてきた。

YMTCに限らず、これまでも米国は中国企業の半導体メモリ製造に対して厳しい対応をとってきた経緯がある。例えば2016年、DRAMチップを生産する中国福建金華集成電路(JHICC)は、DRAM関連のプロセス技術開発に向けてUMCと技術提携契約を締結し、中国の福建省晋江市にある300mmウェハ製造ラインに56億5000万ドルを投資したものの、2017年になってMicronがJHICCの従業員が知的財産権を盗んだとして、米国でJHICCとUMCを提訴。その1年ほど後に米国商務省が輸出管理のためのエンティティ リストにJHICCを追加。こうした影響もあり、JHICCは稼働中止に追い込まれることとなった。

中国のアナリストの間には、この2017年のMicronの提訴を契機としたエンティティリストへの登録が米国の中国半導体企業への対策として有効であることを示すものとなったとの見方があるという。一方で中国の規制当局も、Micron製品がサイバーセキュリティの不備を理由に、中国の情報インフラ運営者が同社製品を調達することを禁じるなど、米国の規制への対抗措置を打ち出しており、現状、米中両国が規制強化の応酬を繰り返す状態となっており、その解決の糸口が見えない状況が続いている。