持続可能性に対する関心や社会的要請が日々高まる中、京セラは、同社が展開するキッチン用品シリーズにおいて、環境に配慮した2つの取り組みを11月1日より開始する。
今回新たな挑戦の舞台となる製品は、約40年にわたって販売され、累計出荷数が2000万本にも上るというセラミックナイフ。金属に代わって、錆びずに長持ちするという特性を活かした製品づくりを続けてきた同社は、今や無視できないサステナビリティの実現に向け、プラスチック使用量の削減に向けて動くという。
こうした新たな取り組みでは、業界の慣習を覆すパッケージ面での前例のない挑戦と、海外と日本の市場特性を考慮したバイオ素材の採用に向け、さまざまな課題に直面しながらも、その実現に向けて動いてきたとのこと。そこで今回は、京セラキッチン用品の脱プラ化へのチャレンジに携わった3人のメンバーに話を伺った。
長い歴史を誇る京セラのキッチン用品事業
京セラは、同社内では一般消費者向けの事業として、「人々の健康で豊かな生活の実現に貢献する」というビジョンのもと、強みとするファインセラミックス技術を活用したキッチン用品の製造・販売を行っている。
その礎となったのは1984年に発売されたセラミックナイフで、それ以降も主力製品である包丁の製品改良を進めるとともに、ピーラーやスライサーなどの刃物製品へとラインナップを拡充していった。さらに2011年からは、フライパンやマグボトルなど金属にセラミックコーティングを施した製品群も登場。セラミック技術の活用により、環境への悪影響が懸念されるフッ素加工を必要としないことから、近年では日本国内に限らず、欧米などからも多くの問い合わせがあるという。
そんな歴史ある京セラのキッチン用品の中でも主力製品とされるのが、2006年に販売を開始したセラミックナイフの「カラフルキッチンシリーズ」。それ以前は色味の選択肢が無かったキッチングッズにおいて、デザイン性という新たな観点を加えた同製品は、セラミックの良さだけでなく見た目で選ばれる機会も増えたことで、改良を重ねながら長年愛されるロングセラー商品となっている。
また2021年には、従来品に比べてさらに硬度が高い新素材「Z212」を使用したハイクラスのセラミックナイフ「cocochical(ココチカル)」を発売。切れ味や耐久性をより高めた新ブランド製品は、応援購入サービス「Makuake」での先行販売で目標達成率7561%を達成するなど高い人気を集め、現在では百貨店や専門店を中心に販売されているとのことだ。
環境への配慮を目指した2つの取り組みを11月より始動
多岐にわたるキッチン用品を提供する京セラは今回、社会全体で持続可能な暮らしが求められる昨今の流れに伴い、「あなたのキッチンから、未来をつくる選択を」というサステナビリティコンセプトを設定した。
京セラ 宝飾応用商品事業部 営業部 部責任者の松本雅人氏は、「これからも人々が料理を楽しんで、食事を通じて心身共に満たされた日々を送れる未来を目指し、京セラキッチンとして持続可能な社会に貢献する取り組みに、1歩踏み出すことにした」と話す。
その具体的な取り組みは、パッケージのリニューアルとバイオ樹脂を配合した新製品発売の2つ。松本氏をはじめとする宝飾応用商品事業部のメンバーによると、その開発においてはさまざまな検討が必要になったといい、特にパッケージについては“前例のない取り組み”だったとする。
慣習を打ち壊す“中身の見えないパッケージ”
今回京セラは、プラスチックの使用量を最小限に抑えた新パッケージへのリニューアルを実施する。カラフルキッチンシリーズではプラスチック使用量を75%削減し、cocochicalのパッケージにおいては完全脱プラ化を実現した。この取り組みにより同社では、全体で年間約4.3tものプラスチック使用量削減につながるとしている。
パッケージの設計は両製品ともにほぼ共通で、商品画像がプリントされた箱の中に、段ボールで挟み込むような簡素な形でナイフが収納されている。なお、量販店など広い販路を持つカラフルキッチンシリーズは、店舗での吊るし売りなどが行われるため、防犯性や安全性の確保が必要とされるとのこと。そのため同製品においては、刃の部分のみに、手で開けられないプラスチックパッケージが施されている。
販売店で包丁を選ぶ際、多くの顧客は刃や柄の部分を直接見ることで商品を確認し、購入するか否かを決めるだろう。そのためほとんどのメーカーは、そのパッケージにプラスチックを使用することで包丁自体を見えるようにし、製品の魅力をアピールするという。しかし今般の取り組みでは、透明性があるプラスチックを主要素材としたパッケージから、紙製の“商品本体が見えない”パッケージへと変更。これは業界でも前例のない取り組みとのことだ。
実際、環境配慮型の新パッケージ開発に向けて販売店へのヒアリングなどを行った際には、「中身が見えないことで商品の特徴がわかりづらくなり、売り上げが落ちる可能性は否めない」との懸念が寄せられたという。しかしながら、昨今の時流に沿ったサステナブルな取り組みに対しては大半の販売店から賛同を得られたといい、これによって新たな挑戦を進めることができたとする。
紙だからこそできるパッケージデザインにも挑戦
また、新パッケージのデザインを担当した京セラ 宝飾応用商品事業部 企画開発部 応用企画課 企画2係 係責任者の佐藤円香氏は、「紙のパッケージだからこそできるデザインも追求した」と話す。プラスチックパッケージの場合、透明性を活用することが前提となるため、商品と重なるような位置にキャッチコピーを配置することができないなど、かえって制約となる部分もあったとのこと。それに対し紙の場合はパッケージ全面にデザインを加えることができるため、デザインの自由度が向上したという。
「商品に文字が重なるようなデザインも提案されるなど、新しい発想のパッケージデザインが開発の段階で生まれていた」と佐藤氏は話しており、今回は社内アンケートなどの結果を踏まえてシンプルなデザインを採用しているものの、「今後は紙のパッケージならではのデザインなども考えていきたい」と語っていた。
安全性を確保するための方針変更
また、安全性の確保のために当初の完全脱プラ化から方針変更を迫られたカラフルキッチンシリーズのパッケージについて、松本氏は「安全性の確保に対する要求は無視できない以上、現状での脱プラ化は難しい」とする。しかしながら今後は、「プラスチックの部分をバイオ素材に変更するなどの方向が考えられる」とし、それに適した新素材の登場に期待を寄せた。