環境配慮と利便性を両立したバイオ樹脂配合ナイフ

また京セラのキッチン用品におけるもう1つの環境配慮型の取り組みが、カラフルキッチンシリーズにおけるバイオ樹脂の使用だ。11月1日より新発売される同シリーズでは、柄の部分にサトウキビ由来のバイオ樹脂を10%配合しており、これによって石油由来プラスチックの使用量を削減するとしている。

なお同社によると、環境への配慮についてより高い感度を持つ欧米では、バイオ樹脂を配合したセラミックナイフを2020年より販売していたとのこと。この時は今回日本で発売される製品よりもバイオ樹脂の配合比率が高い一方、熱や洗剤に対する耐久性などの面から食洗器での洗浄は行えない仕様になっていたという。

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    海外で2020年より発売していたバイオセラミックナイフ

そこで今回は日本市場向けの製品として、バイオ樹脂の配合率を調整することで、食洗器でも使える耐久性を持たせることに成功。環境に配慮した製品であるとともに、利用者の利便性向上にも寄与するとしている。

長く使ってもらうためにあえて厳しい耐用基準に

京セラ 宝飾応用商品事業部 企画開発部 部副責任者の藤井宏樹氏によると、キッチン用品の使用環境の中で最も過酷だとされる食洗器への耐性について、「一般的に食洗器の利用が可能とされる耐用基準をはるかに上回る食洗器試験を実施し、『これなら絶対に大丈夫』だと思える性能を確保して製品化した」と話す。

こうした厳しい基準を設定した背景には、「環境性能を高めることも重要だが、製品としての利便性の高さは譲れない」ことがあるといい、長く利用してもらうためにはそれに見合う評価項目を設定する必要があるとする。また今後は「バイオ樹脂の配合率を上げていきたいと強く思っている」と、開発者としての意気込みをのぞかせた。

  • 京セラ 宝飾応用商品事業部 企画開発部 部副責任者の藤井宏樹氏

    京セラ 宝飾応用商品事業部 企画開発部 部副責任者の藤井宏樹氏(提供:京セラ)

サステナビリティへのメッセージを象徴する新色も登場

またバイオ樹脂を配合したカラフルキッチンシリーズについては、京セラが打ち出す環境配慮へのメッセージを象徴するカラーとして、新色の「ボタニカルグリーン」が発売される。

前述したように、元来よりカラフルさを特徴としていた同シリーズでは、発売以降は基本的にカラーラインナップを変えない方針を取っていたとのこと。しかし2020年には若手社員などの意見を取り入れる形で、従来のビビッドな色合いから近年の流行を取り入れたくすみカラーへとリニューアル。佐藤氏は「色については長期的な流行のスパンがあるため、現在の流行やほかの商品との兼ね合いを観ながら、試作を重ねて今の色合いになった」と話す。

  • カラフルキッチンシリーズとして発売される新色のボタニカルグリーン

    カラフルキッチンシリーズとして発売される新色のボタニカルグリーン

そして今回、もともと明るい色味だったグリーンについて、“ヘルシーで私らしく、自然を感じさせてくれる”というコンセプトで、落ち着きのあるボタニカルグリーンへと変更。さまざまな検討をやヒアリングを重ねながら、「トレンドをおさえつつ、サステナビリティなどの要素を多面的に兼ね備えるカラーとして発売するに至った」という。

毎日する料理だからこそ色合いも妥協しない

製品デザインの中で色合いへのこだわりを持っているという佐藤氏は、「自分の生活を考えてみても、料理をするシーンはたいてい仕事や育児に追われてネガティブなマインドの中で訪れる。そんな中で料理を通して楽しさを感じることができれば、前向きな時間や心の喜びにつながるのではないか」という想いを持っているとのこと。そして、「キッチンに心がワクワクするような“選びたくなるカラー”をもたらすことが、カラフルキッチンシリーズの重要な提供価値だと思っている」と語った。

京セラがキッチン用品の環境配慮への転換を先導する意義

京セラのキッチン用品事業が目指す今後の方向性として、松本氏は「京セラのキッチン用品が、環境に配慮した製品だというメッセージによって顧客に選ばれるようになる」ことが理想だとし、今回の2つの取り組みがその契機となることを期待しているとする。

特に今後は、ピーラーやスライサーといったナイフ以外の製品にも、パッケージの脱プラ化やバイオ素材の適用を進めていきたいとのことだが、「日本の場合、環境に配慮した製品を選ぶ流れはあるものの、それと引き換えに製品の価格が向上していると、顧客の手は伸びにくい」といい、「コストを増大させずに環境配慮型製品へと転換していくことを目指していく」と話した。

また松本氏によると、キッチン用品業界の特徴の1つに、業界の中心に鎮座するような大手メーカーが少ないことがあるという。そうした業界の特性上、「企業としての認知度のある京セラが、今回のような環境配慮の取り組みを他社に先駆けて進めることで、キッチン用品に限らず世の中の環境配慮への意識を変えていけたらいい」と話し、京セラとしてサステナビリティへの取り組みを進めることの意義を改めて強調。1つの企業として、キッチンをきっかけとした環境意識改革の流れを生み出すことができるか。その大きな挑戦の1歩目が、間もなく踏み出される。