キヤノンは10月19日、20日にかけて開催しているプライベートイベント「Canon EXPO 2023」にて、10月13日に商用化を発表したばかりのナノインプリント半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」を展示フロアの入場口付近に配置するなど、積極的なアピールを行っていた。

  • ナノインプリント半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」

    先端プロセスにも対応可能とするキヤノンのナノインプリント半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」の1/1スケールモック。会場でも多くの人から注目を集めていた

発表した当時から、半導体業界関係者を中心にいろいろな意味で衝撃をもって受け止められた同社のナノインプリント装置。元々は米Molecular Imprintsが開発していたものを、2014年にキヤノンが買収し、半導体製造への適用を目指して継続して開発を進めてきた。この商用化のインパクトは大きく、同社の代表取締役会長兼社長CEOの御手洗冨士夫氏も発表当時から多くの問い合わせを受けていることを明らかにしており、注目度の高さを強調している。

ナノインプリントでの先端プロセス製造を実現した環境制御技術

FPA-1200NZ2Cの最大のポイントは5nmプロセス相当の最小線幅(配線ハーフピッチ)14nmのパターン形成を高い歩留まりで実現できる技術を実用化した点(マスク精度やアライメントの向上などで2nmプロセス相当までは行けるとの見通しも示している)。これまでナノインプリントは分解能や重ね合わせ精度、スループット、そして欠陥といった面で半導体製造に向かないとされてきた。この中で特に問題となるのがパーティクルとアライメント。中でもパーティクルは、半導体のクリーンルームというと最高クラスのクリーン度というイメージが強いが、ISOの規格では1m3あたりの空気中に0.1μm以上の粒子がどれくらい存在するかが基準となっており、当然、ナノオーダーの先端プロセスを実現しようと思えば、その基準よりも小さい微粒子の存在にも気を付けないと欠陥が生じることとなり歩留まりが上がらない、ということになる。

キヤノンによるナノインプリントに関する説明動画。Canon EXPO 2023のFPA-1200NZ2Cに取り付けられたモニターでもおそらく同じものが流されていることが確認できた

キヤノンでも2017年より東芝メモリ(現キオクシア)の四日市工場に納入し、実用化に向けた検証を開始。その課程において、課題の洗い出しを進め、欠陥の低減を図るためのパーティクル低減技術として高精度フィルターの採用やエアカーテンの採用など、実際にウェハ上にマスク(テンプレート)を押しつけパターンを形成するステーションに微粒子が入ることを防ぐ環境制御技術を磨き上げていったという。その結果として、今回5nmプロセス相当のパターンを低欠陥で形成することが可能となり、商用化できるという判断に至った模様だ。

また、アライメント精度についてもショットごとにアライメントを行うダイバイダイ方式を採用(一般的な露光装置はグローバルアライメント方式)し、下地の回路パターンの歪みに対して、レーザー光の熱分布を変化させることで発生するウェハの熱膨張を利用して、高精度に補正することを可能としたことで、ミックス・アンド・マッチで4nmを実現したという。ただし、ダイバイダイ方式であることに加え、ピコリットルオーダーに制御してインクジェットヘッドで吐出された硬化樹脂(レジスト)を塗布し、そこにマスクを押し当て(ピコリットルオーダーで制御することでレジストのはみ出しは生じないという)、紫外線で硬化させるという物理的手法が必要なため、2ステーション構成で一般的なマスクサイズで40枚/時というスループットとなったとする(4ステーション構成まで対応可能で、その場合は80枚/時)。

EUV露光装置のスループットはASMLの現行モデルNXE:3600Dで160枚/時ほど、3nmプロセスでの主力機とみられる「NXE:3800E」で220枚/時とされており、その差は大きいが、消費電力は1/10ほど、価格は非公開だがEUV露光装置の価格が平均約400億円ほどとされており、ナノインプリント装置はそこまで高くならないとのことなので、少量多品種ニーズにおけるTCO(Total Cost of Ownership)で見た場合などではそこまで差が出ない可能性もある。

3次元パッケージに露光技術を横展開

なお、展示会場にはFPA-1200NZ2Cのほか、i線露光装置「FPA-5520iV LF2オプション」モデルのモックも展示されていた。

このFPA-5520iVのターゲットは2.5D/3Dパッケージの製造工程。前工程向けの露光装置は一定の線幅でパターンを形成することにフォーカスしているが、同装置は深いホールパターンを形成する方向にフォーカスした露光装置で、そのためラインアンドスペース(L/S)は太いが、焦点深度が深く、3D ICで求めれられるアスペクト比の高いトレンチを掘ることができることが特徴となっている。

また、投影光学系に前工程の露光装置で活用されている非球面レンズを適用することで歪曲収差を前世代比1/4以下に低減しており、より滑らかなショットのつなぎ合わせを可能としたとする。さらに、照明光を均一化するホモジナイザーの改良による照明光学系の照度均一性を向上させたことで、52mm×68mmで0.8μmの解像力を実現したほか、ショットを2×2でつなぎ合わせる形で100mm×100mmを超す露光でも0.8μmの解像力を提供できるとしている。

  • FPA-5520iV LF2オプション
  • FPA-5520iV LF2オプション
  • FPA-5520iV LF2オプションを用いて形成された300mmウェハ。露光サイズは前工程の標準画角の26mm×33mmと4ショットつなぎ露光による100mm×100mm

なお、実物はなかったがFPA-5520iVの説明パネルの一部に同じi線の露光装置ながら515mm×510mmという大型四角基板(ガラス)に対応可能な「FPA-8000iW」も描かれており、単にi線をレガシーな露光波長という位置づけではなく、3次元パッケージ技術を中心としたこれからの半導体デバイスの進化に必要な技術とした紹介の仕方がなされていた。