キヤノンの技術を惜しげもなく披露する展示会「Canon EXPO 2023」が10月18日に開幕。さまざまな新製品や開発中の新デバイスがズラリ展示されるなか、特に目を引いたのが「メタレンズ」。厚さが1mmもないシート状のレンズながら、複数枚のレンズ群と同じ役割を果たすことから、カメラのレンズユニットが大幅に薄型化できる革新的なデバイスです。スマホ本体の薄さを損なう“スマホカメラの出っぱり”がなくなる未来が見えてきました。

  • Canon EXPOの展示会場内にひっそりと設けられていたメタレンズの展示コーナー。とても地味ながら、スマホカメラに革命を起こしそうなデバイスといえる

微細な円柱群で構成される不思議なメタレンズ

Canon EXPOは、キヤノングループのプライベート展示会で、キヤノンをはじめとするグループ会社の最新技術や最新デバイス、最新製品をズラリ展示します。ビジネス関係者を対象としたイベントですが、会場のあちこちに写真ファンが気になる技術展示が見られました。

  • 展示会場の一等地には、キヤノンが力を入れるメディカル分野のCTなどの装置が鎮座している

  • キヤノン 代表取締役会長兼社長 CEOの御手洗冨士夫氏

その1つが、大学などと連携して開発を進めている「メタレンズ」(METALENS)。ガラスを磨き上げて作る通常のレンズとは構造がまったく異なり、「極薄シートの上に円柱状の透明素材を剣山のようにズラッと並べたレンズ」です。光の波長よりも短い微細な構造のため、極薄にもかかわらず一般的なレンズと同じく光を曲げる効果があるそう。

  • メタレンズを組み込んだユニット。レンズ自体は中央部の薄く色が付いた部分だ

  • 光にかざしてみると集光しているのが確認でき、レンズの役割を果たしていることが分かる

  • メタレンズは、このような薄いシート上に作られる

  • メタレンズの拡大写真。このように大きさの異なる円柱で構成されている。右下に1マイクロメートル(1000分の1ミリ)のスケールがある通り、肉眼では見えないほど微細な造形となっている

一般のカメラレンズでは、複数枚のレンズを組み合わせて光学系を構成しますが、メタレンズを用いれば1枚程度の凸レンズがあればよくなるそう。レンズユニットの大幅な薄型化が果たせるので、スマホカメラならば背面の余計な出っ張りがなくせる可能性が出てくるわけです! キヤノンの担当者によると、まだ開発中のため製品化のスケジュールは未定とのことですが、思わず期待してしまいます。

  • 複数のレンズを組み合わせる必要があったレンズユニットも、メタレンズと1つの凸レンズに置き換えられるという。レンズユニットの薄型化や軽量化、低価格化が図れるのは間違いなく、スマホカメラに応用されれば背面の出っ張りもなくせそう

このメタレンズ、製造方法も特筆できます。キヤノンが開発した次世代のナノインプリント半導体製造装置を使い、スタンプのように素材に押し当てることで成形できるのです。一般のレンズよりも格段にスピーディーに、格段に低コストに生産でき、“匠の技”も必要ありません。

  • メタレンズは半導体製造装置で作られる

  • キヤノンが先日発表した、次世代のナノインプリント半導体製造装置。光を用いず、スタンプのような技術で半導体を製造できる

  • ナノインプリント半導体製造装置では半導体のほか、メタレンズなどの微細光学素子も製造できる