私たちの生活とオンラインとの関わりが増えるにつれて、多くの人がネガティブな影響を心配しています。ある研究では、テクノロジーの使いすぎには、体調に大きな影響を及ぼす可能性があるとまで指摘しています。極端な話ではありますが、このことは多くのイノベーションを支える物語の中心を強調しています。すなわち、進歩は人類にとって犠牲を強いるものです。

しかし、メタバースが現実味を帯びるにつれて、この状況は変わろうとしています。現在進められている5Gや6Gのイノベーションにより、物理的な場所に関係なく常時接続が可能になり、物理世界と仮想世界は本当の意味で融合をするでしょう。そうなれば、現在の二次元的なウェブ体験は、現実世界に持続的なインパクトを与える、より有意義で没入感のあるインタラクションに取って変わられることでしょう。

このようなメリットを説明する前に、インターネットを非難する背景にある要因を考えてみると、ウェブへの依存を恐れる人々が挙げるような、フェイクニュースの拡散のしやすさ、ネットいじめ、プライバシーへの懸念、社会的関係やコミュニティへの悪影響などがあります。

こういった懸念は妥当ですが、メタバースの開発に深く関わっている人々は、安全性、プライバシー、透明性、その他の重要な考慮事項を最初から優先させることで、Web 3.0でこうした懸念を軽減できると考えています。この目的のために、「Metaverse Standards Forum」や「Oasis Consortium」などの団体は、私たちが知っているウェブを恒久的に変え、すべての人にとって、より安全でやりがいのある体験をサポートすることを目指しています。

メタバースがもたらす新たな可能性

5Gと6Gが最終的に提供する、比類のないコンピューティングとコネクティビティによって、地理や場所で定義された従来の境界(例えば仕事場と自宅)はほとんどなくなっていくでしょう。その結果、以下のようなさまざまな可能性が考えられます。

研究開発の改善

メタバースは、究極のDevOps環境であり、グループ間のあらゆる障壁を取り除き、コラボレーションを強化します。

設計段階全体を通して、製品の利害関係者すべてが相互に、また最終的なエンドユーザーとの間で、相互作用と作業を共にすることができ、より優れた製品をより早く市場に投入し、イノベーションの新たな機会を広げます。メタバースを利用することで、例えば、ペンを握ったり、ボールを蹴ったり、階段を上ったりといった特定の動作に関連する関節の動きをモデル化して理解することで、より自然な義肢がどのように開発されるか考えてみましょう。臨床試験は従来の数分の一のコストと時間で完了するため、より直感的で診断的な技術も可能性があります。

スケーラブルな持続可能性

メタバースは、さまざまな方法で二酸化炭素排出量を大幅に削減できます。「現実世界の実態やシステムをデジタルで表現したもの」とGartner社が定義したデジタルツインは、すでに企業によってテスト、モニタリング、予知保全などの目的で活用されています。拡張現実(AR)や仮想現実(VR)が成熟するにつれ、デジタルツインは物理的なものと同じくらいリアルになり、持続可能性の向上など、数え切れないほどの利益をもたらすでしょう。

これは、仕事関連の出張が減ることによる二酸化炭素削減効果にとどまりません。もし買い物客が直接試着するのではなく、メタバース上で試着できるようになれば、返品された衣類の配送、梱包、在庫を減らすこともできるでしょう。

グローバルな創造性

メタバースは世界とのつながりを促進することで、個人や企業が、言語の違いや文化的な障害など、真のグローバルコラボレーションを妨げてきた従来の障害を克服するのに役立ちます。例えば、従業員は自分の文化的アイデンティティや趣味、経験を表すアバターを作成し、ハイブリッド環境に伴う孤立の懸念に対処し、より本格的で有意義なつながりの枠組みを築くことができます。

インターネットの未来を支える

メタバースの可能性を実現するためには、業界はいくつかの大きな技術的障壁を乗り越えなければなりません。たとえば、

レイテンシー

「motion to photon」の遅延を20ミリ秒以下に抑えるには、たとえ地球の裏側から発信されたインタラクションであっても、メタバースではリアルタイムでデータを中継できることが不可欠です。

テクノロジーの統合

メタバースを支える多くのテクノロジーは、シームレスに連携しなければなりません。前述したように、5Gと6Gのコンピューティングの能力は極めて重要な役割を果たします。IoT、AI、AR、VR、3Dモデリング、空間コンピューティングとエッジコンピューティングはすべて重要であり、これらのテクノロジーが容易に連携動作するには多くの課題が残されています

アップリンク

メタバースの可能性をサポートするには、5Gと6Gでのアップリンクの改善が必要です。例えば、YouTubeの動画を見ているときにバッファリングが発生するのと、ARヘッドセットを使っているときのバッファリングとでは、まったく違います。このようなメタバース・イノベーションでは、消費者が期待し続けるシームレスなコネクティビティと没入型体験を保証するために、はるかに高いアップリンクのスループットが必要になります。

まとめ - コネクティビティ新時代の幕開け

破壊的なテクノロジーはすべて、ほんの数年前には考えられなかったような新しい機能をもたらします。ユビキタスWi-Fiが出張をどのように変えたか、どのようにしてeコマースブランドがソーシャルメディアやユーザー生成コンテンツを活用してきたかを考えてみましょう。

メタバースとその可能性に関して言えば、今、同じような段階にいます。5Gと6Gが成熟するにつれ、まったく新しいタイプのデバイスやアプリケーションが登場し始めるでしょう。インフォテインメント、ナビゲーション、ハンズフリー通話を組み合わせて、現実世界に重なるシームレスなAR体験を実現する運転グラスを考えてみましょう。このことは、メタバースが、孤独で匿名的な場所として認識されているインターネットに代わり、私たちが想像し始めたように、私たちをつながっていくを明確に示しています。

本記事はKeysight執筆の技術解説記事「How the Metaverse Is Changing the Internet Forever」を翻訳したものとなります

著者プロフィール

Jessy Cavazos
Keysight Technologies
Director, Brand Awareness