半導体市場が大きな混乱に包まれていた2022年、前年に引き続いて過去最高の売上高を記録したonsemi。その日本法人を率いるのは、同年に代表取締役社長に就任した林孝浩氏だ。

今回は、順調な成長を遂げて終えた社長1年目、そしてさらなる飛躍が求められるこれからのonsemiについて、林社長に伺った

  • 就任2年目を迎えたonsemiの林孝浩代表取締役社長

    就任2年目を迎えたonsemiの林孝浩代表取締役社長

パワーデバイスとセンシングを軸に成長を続けるonsemi

パワーデバイスとセンシングという2つの軸を持つonsemiは、電気自動車(EV)や自動運転などのモビリティ領域、電力・充電設備や工場自動化(FA)といった産業領域をメイン市場としている。こうした市場では半導体の重要性が高まり続けていることもあり、同社の事業も好調に推移。onsemiは2022年、前年比で24%増となる約83億ドルまで売り上げを伸ばした。

  • onsemiが掲げる6つの注力領域では、それぞれ半導体に費やされる金額が大きくなっており、今後もその重要性は高まることが予想される。

    onsemiが掲げる6つの注力領域では、それぞれ半導体に費やされる金額が大きくなっており、今後もその重要性は高まることが予想される。(提供:onsemi)

好調はその後も続いており、2023年第1四半期の売り上げは19億6000万ドルへと伸長。通年の売り上げとしても過去最高の売上高を更新できる見込みだという。

またonsemiは、前出のメイン市場に今後もさらに注力していくとのこと。そのためのリソースの最適化も進めており、サブスケールの生産設備を閉鎖して、その分の投資を主要工場や新工場の生産能力拡張に費やすなど、より効率的な事業活動に向けて舵を切っている。

林社長によると、拠点を減らし生産能力を集中させる「ファブ・ライター」戦略について「生産工場を減少させる方向で必要なアクションは基本的に完了した」と話し、「今後は戦略的な計画のもと、重要な工場に投資を集中させていく」とする。

加えて、同社は米・アリゾナ州のフェニックスに構えていた本社オフィスを、州内のスコッツデールへと移転。前オフィスが旧モトローラ時代から使用されていたビルだったのに対し、先端テクノロジーが集結した新オフィスへと場所を移すことで、エネルギー消費量を年間あたり約1300万kWh削減可能だといい、目標として掲げる2040年のネットゼロ(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)実現に向けて重要な決定だったという。

パワーデバイス領域の成長に不可欠なSiC生産体制の充実

近年のonsemiの事業拡大を大きく牽引したのは、パワー半導体だ。昨今は、PC・スマートフォン・データセンタが登場した際にそれぞれ半導体市場が大きく拡大したのと同じく、EV開発の加速によって市場全体が急成長することが見込まれており、2030年までの間にCAGR33%という驚異的な速度で進んでいくことが予想されるという。

  • 半導体市場の過去の成長率と将来予想。

    半導体市場の過去の成長率と将来予想。PC・スマートフォン・データセンタの登場に伴い起こった過去の急成長と比べても、さらに急速な成長を遂げると予測されているという。(提供:onsemi)

そうした流れの中で林社長は、onsemiの強みとしてSiC(炭化ケイ素)の垂直統合生産体制を挙げる。同社も生産を行うSi(シリコン)パワーデバイスについては、垂直統合生産を行っている企業が数社存在しているものの、「SiCにおいて一貫した生産体制を自社の中に持っているのは、生産管理の面で非常に強さを発揮している」とする。

また、「数十年かけてパワーモジュールを5億個以上生産してきた経験は非常に貴重」だと話すように、生産量やクオリティの面で差別化を図ることができるとのこと。生産の各段階で技術改良を重ねることで、サブストレートでのアウトプットがおよそ10倍になるなど飛躍的に生産能力を増強しているといい、より効率的な生産ポートフォリオが充実し、ユニークな技術によって豊富なソリューションを用意できる点も、同社の強みだとしている。

  • onsemiが有するSiC生産における強み。

    onsemiが有するSiC生産における強み。(提供:onsemi)

onsemiは現在、SiCデバイス市場に対してM1、M2と呼ばれる製品を提供しており、2023年からはさらに小型化したM3も販売。さらに今後はM4、M5へと小型化を進めていく予定だといい、EV走行能力の強化、チップサイズの縮小、信頼性の限りない向上など、さらなる技術革新を続けていく予定だとする。

またSiC生産については投資を惜しまないとしており、生産能力の増強やウェハの大口径化による生産体制強化に注力するという。こうした投資に踏み切れる理由の1つには、数多くの顧客と締結したSiCの長期供給契約(LTSA)があるといい、現時点で2030年までに約9B(ビリオン)ドルの売り上げが確保できているとする。そのため、不安定性を排した投資が行えると同時に、顧客からの信頼獲得にもつながるとしている。

林社長は、「2023年にSiCの売り上げを1Bドルに到達させることをターゲットにしている」と話しており、野心的な目標設定ではあるものの、第1四半期の実績を見て達成に自信を持っているとのこと。「2023年が終わった時に1Bドルを達成できていれば、onsemiにとって非常に大きなマイルストーンであり、市場においても重要なポジションに位置することができるだろう」と語った。

  • SiCモジュール製造の各段階においてonsemiが実現する性能向上。こうした革新により、2023年のSiC売り上げで1Bドルを突破することを目指しているという。

    SiCモジュール製造の各段階においてonsemiが実現する性能向上。こうした革新により、2023年のSiC売り上げで1Bドルを突破することを目指しているという。(提供:onsemi)