大阪大学(阪大)と科学技術振興機構(JST)は9月28日、自然界に豊富に存在する安価で低毒性の「鉄」を用いた高機能性触媒の開発に成功したことを発表した。

同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科の満留敬人准教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

鉄は、遷移金属の中で地殻中に最も多く存在する金属で、他の金属に比べて極めて安価かつ低毒性であることから、触媒材料として魅力的だという。しかし、化学工業で重要な水素化反応において、200℃以下の温和な液相反応条件下では、他の金属に比べて鉄の活性が著しく低いことが一般に知られていたとする。

また従来の鉄触媒は、微量の酸素存在下でも容易に酸化され失活してしまうため、触媒としての取り扱いや改良が難しく、鉄系個体触媒の開発の進歩が遅れているとのことだ。そのため、大気中安定で取り扱いやすく、温和な液相反応条件下でも高活性を示す非在来型の鉄触媒を開発することができれば、その汎用性が飛躍的に拡張すると期待されている。

そこで研究チームは、鉄とリンで構成されるリン化鉄をナノ化した「リン化鉄ナノ粒子(Fe2P NC)」を独自技術で合成。同粒子が、工業的に重要なニトリルの水素化反応において高活性を示す個体触媒となることを見出したとする。

  • (a)開発したリン化鉄ナノ粒子。(b)リン化鉄ナノ粒子の電子顕微鏡像。

    (a)開発したリン化鉄ナノ粒子(Fe2P NC)。(b)Fe2P NCの電子顕微鏡像。縦26mm×横9nmの六角中のナノロッド構造を有する。(出所:JSTプレスリリース)

従来のリン化していない鉄ナノ粒子触媒(Fe NP/TiO2)は、ニトリルの水素化反応にほとんど活性を示さない一方、Fe2P NCは同反応に活性を示す。また新触媒は、大気に安定で取り扱いやすく、触媒の改良が容易だという。

そうした特徴を活かし、Fe2P NCをTiO2と複合化したところ、Fe2P NCの水素化能が著しく向上することがわかったとのこと。得られたFe2P NC/TiO2触媒は、温和な条件においてさまざまな種類のニトリルを水素化し、高選択的に1級アミンへと変換することができるという。また、反応後の触媒は遠心分離により反応溶液から簡便に分離できるうえ、高活性を維持したまま再利用することができたとしている。

  • 従来の鉄触媒と今回開発したリン化鉄触媒のニトリルの水素化反応における活性比較。

    従来の鉄触媒(Fe NP/TiO2)と今回開発したリン化鉄触媒(Fe2P NC)のニトリルの水素化反応における活性比較。(出所:JSTプレスリリース)

  • リン化した鉄ナノ粒子触媒を用いたさまざまなニトリルの水素化反応による1級アミンの合成。

    Fe2P NC/TiO2を用いたさまざまなニトリルの水素化反応による1級アミンの合成。(出所:JSTプレスリリース)

研究チームは、今回の研究成果が、現在多くの触媒プロセスで使用され枯渇が懸念されている希少金属を、自然界に豊富に存在する安価な鉄に代替できる可能性を示唆しているとする。また新技術は、他の金属に比べ毒性の低い鉄を触媒として活用するため、反応後に残る毒性の金属不純物が大きな問題となるファインケミカルズ合成化学分野にも貢献できる可能性があるという。

加えて新触媒は、高い水素化能を有しているため、カーボンニュートラルを指向したバイオマス変換やポリマー分解反応への応用も期待できるとのこと。今回の研究によって、非酸化物系鉄ナノ化合物が従来の鉄系個体触媒とは異なる新たな触媒物質群となることが明らかになったとともに、同化合物が未踏の物質探索領域であることが認知されることで、今後さまざまな機能創出につながっていく可能性があるとしている。