Huaweiが8月末に発表した5Gスマートフォン(スマホ)「Mate 60 Pro」のSoCは、Huawei子会社のHiSiliconが設計した「Krin9000」の改良版となる「Krin9000s」で、SMICの7nmプロセスを用いて製造されたことを特定したとTechInsightsが発表した。
米国政府は、Huaweiに対する米国半導体企業などからの5G対応半導体の輸出を禁止しているほか、SMICをはじめとする中国で半導体製造を行う企業への先端半導体製造装置の輸出を禁止する措置を取っていることから、同製品にどういったプロセッサ/SoCが使われているのかが注目されていた。
Huaweiのオンラインストアで販売されたMate 60 Proの価格は6999元であったが、初回販売分はあっという間に完売したという。
TechInsightsが同機種を入手し、分解して解析したところによると、Krin9000sのダイサイズは107mm2で、Krin9000の105mm2よりも若干大きくなっていたという。また、ダイ上のさまざまな識別機能から、同SoCがSMICによって製造されたと判断したとする。
初期分析の結果、Krin9000sのダイはSMICの14nmプロセスよりも先進的ではあるものの、他社の5nmプロセスで観察されたものよりも大きなCD(限界寸法)が確認され、ロジックゲートピッチ、フィンピッチ、BEOLメタライゼーションピッチなど、ダイ上のさまざまな寸法を測定した結果、このSoCは7nm(SMIC N+2)プロセスが適用されたもの結論付けたという。同プロセスは、もともとはEUVリソグラフィを用いた5nmプロセス相当の技術と定義されていたが、現在はEUVが使用できないため、7nmプロセスの第2世代(改良版)を意味している模様である。
TechInsightsの副社長であるダン・ハッチソン氏(元VLSI Research創業者会長)は、「Mate 60 ProにSMICの7nmプロセスを使用したSoCが採用されたということは、中国の半導体産業がEUV露光技術なしで先端に近いプロセスを製造できることを示している」との見方を示しているほか、「この達成の困難さの克服は、中国の半導体技術力の向上を示しており、それは同時に、重要な製造技術へのアクセスを制限しようとしている国々にとって、大きな地政学的な挑戦になる」と指摘。この結果を受けて米国は中国に対して現在よりもさらに厳しい制限を課す可能性があるとしている。
2022年には7nmプロセスの製造を可能としていたSMIC
実はSMICの7nmプロセスを用いた製造はこれが初めてではない。すでにTechInsightsでは、2022年7月に、新興ファブレスである加MinerVa SemiconductorがSMICに製造委託したビットコイン採掘用SoC(MINERVA7)に同プロセスが適用されていることをリバースエンジニアリングの結果として報告している。
EUV露光装置を入手できないSMICは、ArF液浸露光装置を用いたマルチパターニングによって7nmプロセスを実現したと想像されるが、パターニング回数の増加に伴う工程の複雑化により歩留まりの低下とコスト高が想定されていたが、習熟度が上がることで歩留まりが改善されたことで、今回のスマホ用SoCの量産までこぎつけたと見る向きがある一方、Mate 60 Proは発売直後に売り切れとなってしまったことから、大量生産には至っていないのではないかとの見方も出ている。
台湾のDigitimesが業界関係者の話として、SMICにとって、EUVを用いずHuaweiの7nmチップを製造受託することは、歩留まりの低さからSMICの収益性を損なう可能性があると報じているが米Bloombergは、米国の対中半導体輸出規制をくぐり抜ける中国政府の取り組みや半導体エコステムの構築に向けた取り組みが一定の前進を見せたことを示唆するものだとの見解を伝えているほか、今回のTechInsightsの分析結果は、軍事利用の恐れがあるとの懸念から中国の最先端技術へのアクセスを阻む米国の取り組みの有効性を懸念する事態にもつながるとも伝えている。なお、この件に関して米国政府からはコメントは発表されていないが、今後の米国ならびに中国の半導体製造に対する動きが注目される。