ElevationSpaceと東北大学 学際科学フロンティア研究所(学際研)の齋藤勇士助教は、無人小型衛星が地球へと帰還する際に必要となるハイブリッドスラスタの実用化に向け、軌道離脱に必要となる長時間の燃焼に成功したことを発表した。
昨今、リモートセンシングや衛星通信などを目的として、質量500kg以下の小型・超小型人工衛星に対する需要が高まっており、今後さらなる打ち上げ数の増加が予想されている。
こうした小型・超小型衛星において、従来は運用期間や衛星自体の設計寿命の短さを理由に、スラスタ(推進装置)が搭載されていないことが多かった。また搭載されている場合でも、姿勢制御や軌道の微修正のための低推力のスラスタしか持たないケースが一般的だったという。
しかし、小型衛星が大量に打ち上げられるようになった近年では、打ち上げ機会の確保やコスト低減のため、主衛星打ち上げロケットの空いているスペースに衛星を相乗りさせる「ピギーバック方式」による打ち上げを行う例が増加している。同方式では、ロケットから軌道へと投入されたのちに、小型衛星が希望する軌道高度へと自力でたどり着く必要があり、その際に動力となるスラスタの必要性が高まっている。
加えて、運用を終了した人工衛星が軌道上に放置されることで引き起こされる「スペースデブリ」問題も深刻化しており、運用を終了した衛星が自ら速やかに軌道を離脱する性能を持つことが求められている。
このように小型衛星のスラスタ搭載に対するニーズは高まっているが、従来の小型衛星用スラスタは数ニュートン級の推力しか持たないものが一般的で、軌道の移動や離脱に必要となる数百ニュートン規模の推力を実現することは難しいとする。また、高い推力を実現できる燃料として用いられることの多いヒドラジンは、その高い毒性のために管理・取り扱いコストが高く、小型衛星開発に参入するスタートアップ企業が利用するにはハードルが高いため、実用化が難しい状況だという。
このような背景から、ElevationSpaceと学際研の齋藤助教は、安全性と経済性を維持しながら高い推力を実現する小型衛星用スラスタの実用化を目指し、ハイブリッドスラスタの研究開発を進めている。
両者が開発するハイブリッドスラスタは、固体燃料と気体/液体酸化剤を使用したもので、固体燃料のみのスラスタでは実現できない推力制御が可能となる一方で、蒸発しやすい液体水素などに比べて燃料の貯蔵性に長けているため、月以遠の新宇宙探査といった長期ミッションにも利用できるというメリットがあるという。また毒性の高い物質を使用しない点も、管理のハードルを下げているとする。
これまでの研究開発の中では、ハイブリッドスラスタ試作機への真空環境における着火に成功し、その着荷特性に対して再現性があることが確認されている。
そして今回、ElevationSpaceが2025年の打ち上げを目指す200kg級衛星を地球に帰還させる際に、軌道を離脱する推力を得るために必要となる長時間燃焼について、地上での燃焼試験において目標を達成することに成功したとしている。
この結果を受け、両者は、一般に短時間の燃焼で高推力を発揮するスラスタとは一線を画した発想の設計原理を実証し、小型衛星用スラスタとして経済性・安全性を維持したまま長時間の高推力を実現するハイブリッドスラスタの宇宙実証に向け、大きく前進したとする。
そして今後は、新旧環境での長時間燃焼試験などを行っていく計画とのこと。ElevationSpaceが目指す、無人小型衛星によって宇宙環境を利用した実証・実験を行える宇宙環境利用プラットフォーム「ELS-R」の事業化に向け、研究開発を加速していくとしている。