近畿大学(近大)と大阪公立大学(大阪公大)の両者は8月3日、1種類の白金錯体のみを発光材料として用いた、マルチカラー有機円偏光発光ダイオードを開発し、同ダイオードに外部から磁力を加えることで3D立体映像を映し出す際に使われる、らせん状に回転しながら振動する光「円偏光」を、白金錯体の濃度を変えるだけでマルチカラーに発生させることに成功したと共同で発表した。

さらに、加える磁力の方向を変えることで、全色の円偏光の回転方向を右回転か左回転どちらかに制御できることも明らかにしたと併せて発表された。

  • 開発した有機円偏光発光ダイオードから発生させた、マルチカラー円偏光。

    開発した有機円偏光発光ダイオードから発生させた、マルチカラー円偏光。(出所:近大プレスリリース)

同成果は、近大 理工学部 応用化学科の今井喜胤教授、大阪公大大学院 工学研究科の八木繁幸教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、有機エレクトロニクス全般を扱う学術誌「Organic Electronics」に掲載された。

光は電磁波の一種であり、文字通り波である。そのうち、波が特定の方向に振動するものは偏光と呼ばれ、それがさらにらせん状に回転している場合は円偏光と呼ばれる。円偏光には右回転と左回転の2種類があり、現在実現されている技術でどちらかを選択的に発生させるには、光学フィルタを用いる方法に加え、鏡面対称(左手と右手のような鏡像関係)の構造を持つ光学活性な分子を用いて円偏光有機発光ダイオードを用いて、電界発光によって発生させる方法が知られている。

円偏光有機発光ダイオードを用いる方法では、まず右回転と左回転の円偏光を発生させる分子が混在している状態(光学不活性な状態)から目的の分子だけを得る必要があるが、それがデバイス作製コストを高くするため課題となっている。また従来の有機発光ダイオードでは、目的とする発光色に応じた発光体がそれぞれ必要になることも、コスト増大の原因だ。

そうした中で研究チームはこれまで、光学不活性な分子を用いた場合でも円偏光を発生させる新しい手法を開発してきた。今回の研究では、たった1種類の光学不活性分子を用いて、より安価にマルチカラーの円偏光を発生させるデバイスの開発を目指したとする。

そして、光学不活性な白金錯体1種類のみを発光材料として用い、その濃度を変えることによりマルチカラー有機発光ダイオードの開発に成功したとのこと。白金錯体は、室温でリン光を発して高い発光効率を示すことから、近年は有機発光ダイオード用リン光材料として研究が活発化している。

今回の研究では、光学不活性な白金錯体として「F2-ppyPt(acac)」を発光材料として用い、発光層における白金錯体の濃度が異なる5つの有機発光ダイオードが作製された。それらの有機発光ダイオードに外部から磁力を加えながら光を発生させたところ、発光材料が単一かつ光学不活性であるにも関わらず、発光色がそれぞれ異なる、マルチカラーの磁気円偏光を高効率に発生させることが実現された。

さらに磁力の方向を変えることで、円偏光の回転方向の制御、つまり単一の分子からマルチカラーな右回転円偏光と左回転円偏光の両方を選択的に取り出すことにも成功したとする。

今回の研究成果により、室温かつ永久磁石による磁場下に、1種類の発光体を用いた有機発光ダイオードを設置するだけで、マルチカラー円偏光を発生させることが可能となった。

また光学不活性な分子は、一般的に光学活性な分子よりも安く、また容易に入手することができ、白金錯体1種類のみを用いて濃度をコントロールするだけで、マルチカラーの円偏光を取り出せるようになったことから、円偏光有機発光ダイオードの製造コストを低く抑えられる可能性が期待されるとする。これにより、3D表示用有機ELディスプレイなどの製造コスト削減や、高度な次世代セキュリティ認証技術の実用化などにつながることが期待されるとしている。