京都大学(京大)は8月1日、超伝導体、強磁性体、重金属をナノメートルオーダーで積層させた「極性超格子」において、ゼロ磁場で一方向のみに電気抵抗がゼロとなる「超伝導ダイオード効果」の効率が40%を超えることを観測し、さらに同効果の磁化制御にも成功したことを発表した。

同成果は、京大 化学研究所の成田秀樹特定助教、同・小野輝男教授、同・島川祐一教授、同・菅大介准教授、京大大学院 理学研究科の栁瀬陽一教授、新潟大学 工学部の石塚淳助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、機能性材料に関する化学と物理学を扱う学際的な学術誌「Advanced Materials」に掲載された。

3次元空間座標の符号を反転する操作を施した時に、元とは異なる状態となることを「空間反転対称性の破れ」があるといい、そのような物質では電流の非線形応答によって、電流方向の正負で電気伝導特性が異なる非相反電荷輸送が生じることが期待される。

一般的な半導体ダイオードは有限の電気抵抗を持っており、ジュール熱による各部品におけるエネルギー損失が問題となる。そのエネルギー損失の低減を目指して研究が続けられているのが、超伝導体を用いた、ある特定の方向にのみ抵抗がゼロとなる(逆向きは有限抵抗が発生)超伝導ダイオードだ。

しかしその動作には、主に外部磁場や複雑な磁気状態の制御が必要であり、ダイオード効果の効率も低かったため、実用化への妨げとなっていたという。また、超伝導ダイオード効果の起源に関しても議論があり、同効果のデバイスへの応用や、同効果を利用した電子状態の検出に向けて、同効果が発現する微視的なメカニズムを調査する必要があったとする。

そこで研究チームは今回、空間反転対称性の破れた超伝導体として、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、鉄(Fe)の5種類を用いて、スパッタリング法により繰り返しナノメートルオーダーで積層し極性超格子を作製したという。

今回の研究では、まず外部磁場下で顕著な超伝導ダイオード効果を示す非対称なNb/V/Ta超格子の一部のVの間に、対称なPt/Fe/Ptのユニットを挿入し、この構造を10回繰り返した構造を採用。なお超格子とは、成膜技術を用いて複数の種類の原子を繰り返しナノメートルオーダーで積層した薄膜のことをいう。また極性構造とは、分子や結晶の構造に起因して、分子や結晶内に電気的な偏りが生じている構造をいい、同構造を持つ超格子が極性超格子と呼ばれる。