PwC Japanグループは6月15日、「2023年AI予測調査日本版~米国に離される日本のAI活用、挽回のカギは生成AI」をテーマにメディアセミナーを開催した。
AI予測調査は、米国のPwCが2018年に開始し、日本ではPwC Japanグループが2020年より毎年実施している、企業のAI活用状況と優先課題について探る調査。2023年3月に第4回目として実施された「2023年AI予測調査日本版」の結果が発表された。
PwCコンサルティング 上席執行役員 パートナーでありPwC Japanグループ データ&アナリティクス兼AI Labリーダーの藤川琢哉氏、執行役員 パートナーでありデータ&アナリティクスの三善心平氏が登壇した。
セミナーでは、経年および日米比較の結果を基に、日本のAI活用の現状、再び米国と差が開いた背景や理由に関する考察を説明するとともに、生成AI活用の検討など、日本企業がAIを最大限に活用しビジネスを変革するために2023年に取り組むべき優先課題やアクションなどについて、提言した。
本稿では、その一部始終を紹介する。
日本のAI活用度はほぼ横ばい
最初に登壇した藤川氏は「2023年AI予測調査日本版」の結果を振り返り、そのポイントを「米国に離されるAI活用、挽回のカギは生成AI」と語った。
「2022年に発表した『2022年AI予測調査日本版』では、日本企業によるAI活用が大きく進み、米国に匹敵する状況にまで進んでいるとまとめましたが、今回の調査では、日本企業によるAI活用の進展が見られず、再び米国に離される結果となりました。また、経済や社会に大きな変革をもたらすと予測されている生成AIに関しても、日本でも活用に積極的な傾向が見られるものの、米国に先手を取られている状況が分かりました」(藤川氏)
日本の2022年と2023年の「AIの業務への導入状況」を比較してみると、2022年の結果では「全社的にAIを導入」と「一部の業務でAIを導入」を合わせた53%が「AIの導入を進めている」と回答しているのに対して、2023年はこの合計の割合が50%とほぼ横ばいであるのが分かる。
ポイントが若干減少しているのは、調査母数の関係によるものだと言うが、藤川氏の言葉の通り、日本のAI活用度には進捗が見られない結果となった。
その一方で、米国では、AI導入済みの企業が2022年には55%と日本とほとんど変わらない数値だったのに対して、2023年の調査では72%と大きく伸長する結果となった。
AI活用において日本が米国に大きく離されてしまっていることが浮き彫りになったが、その背景には新型コロナウイルスに対する各国の政策の差が大きく関係しているのだという。
「2022年の新型コロナウイルスへの政策に関して、日本と米国の差を比較してみると、日本は『緩やかな行動制限』を敷いていたのに対し、米国は『ロックダウンの解除』という対応を取りました。これにより、米国は早期での経済回復が起き、これがAI活用に大きく関係していると考えております」(藤川氏)
また日米で差が大きく開いているのは、AIの活用というジャンルに限った話ではなく、「他社とのデータ流通」、「外部データ活用」、「非財務情報を使ったAI活用」といった部分でもその差は顕著だという。
この結果に対して、PwCは「他社とのデータ流通・外部データ活用を積極的に進め、閉塞感のあるAI活用に道を開くべき」「開示目的の非財務情報可視化に留まらず、相関分析、長期シミュレーションなどのAI活用で、将来的な企業価値につながる非財務情報投資を行うべき」との提言をしている。
DX推進の起爆剤として期待される生成AI
「日本はすべての分野でAI投資のビジネス効果が出ていないという結果が出ています。日本はAIの性能低下で悩む企業が多いと言われていますが、この背景には『MLOpsの整備遅れ』があると考えられています。加えて、AIリスクの関心が高まったにもかかわらず十分対策できていないことも、AI活用のブレーキになっています。日本に対して米国は、ビジネスにおける効果も出ており、リスク対策もできているため、AI活用が一層進んでいるのではないでしょうか」(三善氏)
MLOpsとは、機械学習チームと開発チーム、運用チームの開発工程と運用工程をパイプライン化してデータ処理やコミュニケーションを円滑にするとともに、バージョン管理やデプロイなどの自動化によって生産性を向上させる考え方。同社は、「運用フェーズこそAIの価値を最大化する最も重要なフェーズであるという考えの下、MLOpsの整備を通じて、AIによるビジネス効果を継続的に創出すべき」との提言を行っている。
そして、そのための挽回の鍵は「生成AI」にあるのだという。
「生成AIは、日本企業においてDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の起爆剤として期待されています。生成AIは、サイロ化されたデータや非構造データに強く、ユーザーフレンドリーで経営者でもリードしやすいという特徴を持っています。また、ノウハウを蓄積するという性質から質の高い学習データを保有していることも、生成AIの注目されているポイントです」(三善氏)
その一方で、生成AIは「大衆扇動」「サイバー犯罪」「著作権侵害」「機密情報・個人情報漏洩」といった重篤なリスクも抱えているため、慎重派の日本は生成AI導入の立ち上がりが遅れているそうだ。
この現状に対して、同社は、「まずは最低限のリスクガバナンスの仕組みを構築し、活用の一歩を踏み出すことを期待」「生成AIのポテンシャルを生かした活用に向けて、既存業務の延長だけで考えるのではなく日本企業の強みである現場「ノウハウ」を武器としたユースケ―スを検討するべき」「業務効果最大化とリスクガバナンスの、攻めと守りを両立させる必要があり外部専門人材の活用とともに社員リテラシー向上施策も併せて行うべき」という3つの提言をしている。