デル・テクノロジーズ(以下、デル)は6月9日、近年利用機会が広がっている「エッジコンピューティング」に関する勉強会を東京都内のオフィスで開催した。クラウドやデータセンターでの集中型の処理ではなく、よりユーザーに近い位置でデータを処理する技術であるエッジコンピューティングについて、その利点や将来性を勉強会の内容からお届けしよう。

  • デルのエッジ向け製品「Dell Edge Gateway」

    デルのエッジ向け製品「Dell Edge Gateway」

デルでは、エッジコンピューティングを「データが作成された地点で瞬時に本質的な価値を生み出す」場であると定義づけている。地理的に分散されたコンポーネントが相互に接続され、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)端末などが生み出す多量のデータを、よりユーザーに近い位置で処理して価値を創出するという意味だ。

データセンターにデータを集約して処理するような従来型のアーキテクチャは、ユーザーやデバイスから離れた場所で処理する必要があるため、50~300ミリ秒ほどのレイテンシが発生する。この遅延はサーバにアクセスするたびに累積されてしまうため、多量のデータを処理する場合には結果的に時間がかかってしまう。

一方のエッジコンピューティングは、よりユーザーに近い場所でデータを処理する仕組みであるため、レイテンシはおよそ25ミリ秒以下と俊敏な反応が特徴的だ。また、データ転送の帯域幅を分散して節約できる利点も持つ。

  • エッジコンピューティングの概要と特徴

    エッジコンピューティングの概要と特徴

2021年時点での国内のエッジコンピューティングの状況を見ると、すでに8740億円規模の市場となっている。内訳としては、約半分がハードウェアで、ソフトウェアが1割ほど、残りの4割がサービスである。

2025年までには1兆円を超える規模へと成長する見通しであり、2021年から2025年についてCAGR(Compound Annual Growth Rate:年間平均成長率)は12.2%が見込まれている。近年はITインフラ市場の成長が鈍化している中であるが、エッジコンピューティングへの期待は高まっている。

  • 国内のエッジコンピューティング市場の見通し

    国内のエッジコンピューティング市場の見通し

このように市場が成長する中で、すでにエッジコンピューティングの利活用で成果が表れ始めている業界もあるという。それは、「エネルギー」「小売業」「製造業」「デジタルシティ」の4つの領域だ。その他、医療や政府などの領域でも活用が進んでいるようである。

小売業を例にすると、来店客の購買行動から生み出されるデータを近傍で処理することで、セルフレジや無人店舗に活用できる。また、顧客の行動に合わせたリアルタイムなクーポン券の配布など、顧客満足度の向上が見込めるという。このように、多量のデータを取得して来店客にフィードバックできる小売業はエッジコンピューティングと相性が良いそうだ。

製造業では、各種のセンサーやIoT端末からのデータを迅速に処理することで、歩留まりの改善や安全性の向上、機器の稼働状況の把握などに役立てられているとのこと。さらには、数ミリ秒の遅延が大きな事故につながりかねない自動運転の領域なども、エッジコンピューティングの迅速な処理は相性が良い。

  • エッジコンピューティングの活用が進む領域

    エッジコンピューティングの活用が進む領域

  • エッジコンピューティングの活用事例

    エッジコンピューティングの活用事例

デルでは、エッジコンピューティングを検討する際の5つの条件を示している。その5つとは「データの強度(インテンシティ)」「データを洞察するタイミング」「制御作動」「セータセキュリティ」「自律性」だ。

データ強度については、データが生み出される量と速度がネットワークの帯域幅よりも大きい場合や、データを処理するアプリケーションが迅速に応答する必要がある場合に、エッジコンピューティングを検討するべきだという。

データを洞察するタイミングについても同様だが、迅速なデータの処理が必要な場合は、クラウドをはじめとする集中型のアーキテクチャではレイテンシが長いため、エッジコンピューティングの活用が有効だ。

制御作動は、工場で稼働するロボットや自動運転の車など、適切な稼働のために数ミリ秒ほどの迅速な処理を擁する場合を指す。精密な制御を要する機器やわずかな処理遅延が事故など生命の危機につながるロボットのように、リアルタイムに近いレスポンスを要する場合にはエッジコンピューティングを検討したい。

エッジコンピューティングは多量のデータをローカルで処理してから、その一部のみをクラウドに送る。そのためクラウド上に送信するデータが少なく、セキュリティ面でも利点があるとのことだ。また、ローカルで稼働する仕組みを備えるので、災害時などネットワークが切断されてしまっても自律的に稼働する強みを持つ。

  • エッジコンピューティングを検討すべきケース

    エッジコンピューティングを検討すべきケース

デルでエッジコンピューティング向けのソリューションの販売推進に携わっている羽鳥正明氏は「エッジコンピューティングに関心を持っている企業が早い段階から導入することで、大きな先行者利益を得られる可能性がある。エッジコンピューティングについてしっかり理解して、ビジネスを成功させてほしい。当社としては煩雑な運用を簡素化するなど、テクノロジーによってお客様を支えたい」とコメントしていた。

  • デル ストレージプラットフォームソリューション事業部 販売推進部長 羽鳥正明氏

    デル ストレージプラットフォームソリューション事業部 販売推進部長 羽鳥正明氏