Dell Technologiesは今年5月に米国ラスベガスで開催した年次イベント「Dell Technologies World 2023」で、エッジの実装を解決するソフトウェアパッケージ「Dell Native Edge」を発表した。2022年に「Project Frontier」として構想を発表していたものを具現化した格好だ。

Dell Technologies Worldの会場で、エッジ&テレコムマーケティング担当バイスプレジデント、Aaron Chaisson氏に「Dell Native Edge」を中心にエッジのトレンドや課題について聞いた。→「Dell Technologies World 2023」の基調講演の記事はこちらを参照

  • Dell Technologies エッジ&テレコムマーケティング担当バイスプレジデント Aaron Chaisson氏

「Dell Native Edge」がどのような製品か教えてください

Chaisson氏: 少し遡って話しましょう。

15年ほど前、私はEMC(Dellによる買収前)でクラウドアーキテクトを務めていました。当時、仮想マシンからコンテナへのシフトが進み始めており、Kubernetes、ファンクション(関数)、ソフトウェア定義などの技術が台頭していました。

ITの人たちにこれらの技術を説明することは簡単ではありませんでしたが、ある時“クラウドネイティブ”という言葉が現れ、説明を簡単にしてくれました――つまり、クラウドで生まれ、クラウドで動く、クラウドのために構築されたソフトウェアであり、インフラにはある特定の機能を必要とする。拡張性は必要だが、ハードウェアレイヤーでレジリエンシーは重要ではない。こういったことが、クラウドネイティブと言えます。

クラウドネイティブと同じようなことが、エッジで起こり始めています。エッジのために構築され、エッジでのみ動くアプリが登場する。そして固有のインフラの機能を必要とする――これをエッジネイティブとし、エッジネイティブを簡単に実装できるソフトウェアをパッケージにしました。

このように、Native Edgeは業界初のエッジのオペレーションのためのソフトウェアプラットフォームとなります。安全にデバイスをオンボードしたり、プロビジョニングしたりして、管理できる「NativeEdge Orchestrator」、接続に必要なさまざまなプロトコルのサポートなどを備えています。

  • 「Dell Native Edge」の構成

提供は2023年8月の予定で、サブスクリプション形式のSaaSまたはオンプレミスで利用できます。ハードウェアはGateway 3200、同5200、そのほかにも一部OptiPlex、PowerEdgeサーバでも利用できます。新規購入時に、NativeEdgeを事前に設定するオプションを選択すれば、電源が入ると自動で実装され、コントローラと接続します。

  • 「Dell Native Edge」の管理画面

具体的にはどのような課題を解決するのでしょうか?

Chaisson氏: エッジネイティブでは、分散という特徴が独自の課題につながっています。エッジのインフラの接続、メンテナンス、サポートは複雑であり、専用のIT担当者を置くことはほぼ不可能です。企業はユースケースに応じてエッジソリューションを加えるため、全体としての管理が難しくなっています。このような管理の問題はセキュリティ上の課題となっています。

そこで、Native Edgeではセキュリティ、シンプル、エッジ投資の最適化の3点を重要な特徴とします。

セキュリティでは、エッジはファイアウォールで守られ、適度に温度調節されているデータセンターの中にあるわけではありません。物理的なセキュリティの担保も難しく、トラックなどの車載にあるエッジに誰かがUSBメモリを挿すことは簡単です。そこで、ゼロトラストセキュリティが重要になります。Dell Technologies Worldでは、ゼロトラストセキュリティとして「Project Fort Zero」を発表しました。

小売店が1000もの店舗にエッジを実装する、あるいは風車発電地帯で風力タービンに実装するのに、店舗スタッフや風力発電にいるスタッフなど専門知識がない人でもゲートウェイを簡単に実装できます。運用についても、遠隔からモニタリングしてライフサイクルを通じて管理できます。

このように、Native Edgeはエッジアプリケーションのための統一したプラットフォームとなるため、エッジのサイロを削減して、投資を最適化できます。

3つの特徴に加えて、導入コストの問題も緩和します。センサーからデータを集めて処理を行うのに、5万ドルのVxRailではリスクが大きいですが、400ドルのエッジゲートウェイなら容易に開始できます。小さくスタートして拡張することが可能です。

また、エッジとクラウドの間の橋渡しという役割もあります。さまざまなエッジロケーションでアプリをインストールして実装しますが、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどのパブリッククラウドにインストールする必要があるアプリケーションもあるでしょう。このような複雑なシナリオをサポートします。

エッジとAIの関係はどうなるのでしょうか?

「Dell Technologies World 2023」の基調講演で、Michael Dell氏は、2025年にエッジに展開されるAIワークロード向けのサーバの88%が推論に使用されるというIDCの予想を引用しました。

Chaisson氏: エッジにおけるAIのトレンドは、データが生成されるところで推論すること。つまり、店舗、トラックなどの車載、風車などで推論が行われます。

推論は処理能力を必要とします。そこで、Dellは持ち運びが容易で堅牢なフォームファクタのサーバを提供し、Nvidia、Qualcommなどと提携しアクセラレーター技術を組み合わせて、必要な処理能力を提供します。ムーアの法則は続いており、アクセラレーターも進化しています。エッジはさらにパワフルになるでしょう。

現在、モデルのトレーニングのほとんどがクラウドで行われており、リアルタイムで推論を行い、定期的にデータの一部をフィードバックして分析し、より良いモデルを作成して再び戻す、というやり方をとっています。

このように、モデルのトレーニングに必要な大量のデータはクラウドにあることから、クラウドはストレージの要素が強く、エッジでは推論に必要な処理能力が必要といえます。

将来、一部ではモデルのトレーニングもエッジに移ることが考えられます。クラウドほど大規模ではないものの、モデルのトレーニングなどのためにエッジに永続的なデータを格納できるストレージのニーズが出てくると予想しています。