三菱マテリアルは、全社を挙げて4つの経営改革に取り組んでおり、その中核をDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略が担っている。2023年度からの新中期経営戦略において、DXを推進するとともに、レガシーシステムからの脱却とグループガバナンスのシナジーの実現を目指すIT戦略を展開する。
これらの戦略を支えるクラウド基盤として、Amazon Web Services(AWS)が活用されている。AWSジャパンの年次イベント「AWS Summit Tokyo」において、同社 CIO(最高情報責任者)である板野則弘氏がこれらの取り組みについて講演したので、そのポイントを紹介しよう。
三菱マテリアルが進める「MMDX」
三菱マテリアルは、取り組んでいる4つの経営改革とは、以下となる。
(1)Corporate Transformation
最適なグループ経営形態(組織・経営管理)への改革。「グループ戦略を司る本社」と「高度化・効率化を担う本社間接機能部門」と「自律経営を行う強い事業部門」の組み合わせを目指す。
(2)Human Resources Transformation(HRX)
変化に適応する自律的な人材の確保・育成に向けた人事制度、働き方の改革。新たな仕事の仕方や価値観、外部の視点や人材を積極的に取り入れながら、過去150年かけて築いてきた当社の強みと融合することによって、複雑化する事業環境における市場競争力の維持向上を図る。
(3)Digital Transformation(DX)
データとデジタル技術活用による改革により、ビジネス付加価値・オペレーション競争力・経営スピードの向上を図る。
(4)業務効率化
組織、仕事(のやり方)の見直し及び働き方の見直しにより、企業価値向上につながる業務への集中とコストダウンの徹底を実践し、「事業競争力の徹底追求」を図る。
そして、2023年度からスタートした新中期経営戦略では、「MMDX2.0」(三菱マテリアル・デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション)として、さらにDXを推進するとともに、レガシーシステムからの脱却やグループガバナンスとシナジーの実現を目指すIT戦略を展開している。
同社はDXをデジタル変革ではなく、ビジネス・トランスフォーメーションと捉えているという。
「MMDX」自体は2020年から着手しており、経営の深い理解認識のため、役員合宿を行ったほか、全員活動を目指した形で「事業DX」、「ものづくり」、「基幹業務・経営管理・データ基盤」、「業務効率化」、「人材育成」の各テーマに取り組んできた。
昨年の10月からはこれらを進化させるため、テーマを一度整理して「MMDX2.0」として一新。ものづくり系DXを中心に温室効果ガスの削減や自動化・省人化等、新たなテーマを取り入れながら、5つの領域で再構成した。
製造業のDXとして重要な領域として、「事業系DX(各事業における競争力向上のための顧客接点強化施策等)」「ものづくり系DX(生産プロセスの自動化や環境負荷軽減に寄与するものづくり技術の開発等)」「研究開発DX(ノウハウ共有や新素材開発の加速等)」を選んだ。さらに、これらを支えるものとして、全社に関連する「全社共通DX」「基幹業務刷新」が加わる。
また「MMDX2.0」では、現場視点の活動の活性化・全社活動を目指し、デジタル技術の活用について、より現場と一体で推進することや、各テーマでの実行主体側の体制強化等を通じて推進を加速することに取り組むほか、現場発のテーマ創出・失敗を許容するチャレンジ制度設置等を行っている。
AWSにより「MMDX向けプラットフォーム」を構築
同社は「MMDX」向けプラットフォームとして、AWSを選択。選択理由としては、セキュリティ、機能の成熟度、技術者のコミュニティの多さがあるという。同社ではAWSによるクラウド基盤を「MMCGクラウド」(三菱マテリアルグループクラウド」と呼び、社内に浸透させている。
「MMCGクラウド」は2つの環境から成る。1つは金属事業カンパニー、高機能製品カンパニー、加工事業カンパニーという同社の主力事業である3つのカンパニーの個別システム向けの環境。もう1つは全社共通環境(VDI、メール、バックアップ、ネットワーク等)だ。
「MMCGクラウド」は2021年11月から利用を開始しているが、現在、35のシステムがこの上で動いているという。また、ERPもAWSで稼働する「Rise with SAP on AWS」を採用している。
「Rise with SAP on AWS」を選んだ理由について板野氏は、次のように説明した。
「ERPの導入が目的ではなく、グループ全体のデータ利活用を実現しようというのが動機の一つです。その中で、標準化されたシステムであり、グローバルデータが使える共通のものでないといけないということで、SAPを選びました。ただ、AWSを使うこと、SAPを使う点は後発です。しかし、後発であるが故のアドバンテージを徹底的に追求したいと思いました。Rise with SAP on AWSを導入する決め手は3つありました。1つ目は、経験者がいない中でSAPの運用をきちんとやらないといけない。そういった中でSAPのインフラやベース運用をSAP社に委託できるというメリット。もう1つは、標準プラットフォームとしてのAWS、MMCGクラウドを広めようとする中で、AWSとRise with SAP on AWSというのは親和性が高く、実績が豊富であること。さらに、コストの観点でも優位になることがわかりました」
ERP環境は2024年から動き始める計画で、遅くとも2027年までには全世界で稼働させる予定だという。